表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第四章 想定外の行方
33/50

第33話 火曜日への打ち合わせ

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 天野(あまの)さんと結心(ゆい)さんが、今夜は二人で外食をしてデートを楽しんでからやってきた。ここで食べないのは楽でいいけど、何だか少し疎外感を感じてしまったのは私の思い過ごしだろう。

 でも、何だか、寂しいと感じてしまったのも事実。


 二人並んで、私の向かい側に座った。気のせいか、先日よりもくっついてるような気がするけど、これも気のせいに違いないから気にしない。


「なんだか、お二人お揃いでやって来たって感じね」

 笑いながら私は言った。

「いや、そりゃ、お揃いでやってきたのよ。一緒にきたからね」

 当然のように天野さんがニコニコしながら応える。結心さんは無言で笑う。

 あ~ぁ、何だか、幸せオーラを撒き散らしながら座っていられると、こっちが恥ずかしくなってしまうわ。


「二人で食事してきたのよね?」

「うん、食べてきたよ」と結心さん。

「美味しかった?」と私が聞く。

「もちろん! 何を食べても美味しい私たち」

 結心さんが、私に微笑む。そんな風に、先に言われると、もう突っ込めないわ。

 

「じゃ、コーヒーも要らないのね?」

「それは、いただくわ」

 シレっと結心さんが(のたま)う。あれ? 最近の結心さん、岡山弁が減った?

 二人で、コーヒーの用意をした。もちろん、既にコーヒーメーカーにセットしてあったから、コーヒーカップに淹れるだけ。

 コーヒーカップをテーブルに置いて落ち着くと、打ち合わせに入った。

 

「来週の火曜日は、よろしくお願いしますね」

「ああ、こちらの専門分野だから、資料なんか何もなくても、いくらでも話をできるから心配いらない」

 天野さんが事も無げに答える。

「私は、『社長秘書』だっけ? 何をすればいいの?」

 と結心さんが質問した。


「いや、美人は座ってるだけで絵になるから、何もせんでええよ」

 天野さんが調子に乗って(しゃべ)る。

「私と、傍でケーキ食べてたらいいのよ」

 私も、調子を合わせる。

「あんたら、他にすることないんよなぁ。困ったもんじゃ」

 天野さんがぼやくけど仕方ない。


「まず確認しときたいのは、どこの部屋で、誰と話をすることになるの?」

 天野さんが真面目な話をする。

「とりあえずは、近藤先生一人の積もりでいるのだけど、学生を交えたほうがいいの?」

「学生も対象にして勉強会を考えているなら、学生もいたほうがいいけど、近藤先生が何を考えてるのか分からない」


「じゃ、取り敢えずは近藤教授だけと話をして、流れによって場所を移せば?」

 美人秘書の結心さんが結論を絞る。

「お、流石、有能な美人秘書じゃなぁ! そうしよう! 場所は?」

 天野社長が即決。

「場所は、近藤先生のところがいいかと思ってる。お二人には、先に私の研究室に来てもらってから、私が連れて行く予定」

 これは、私が来訪者を近藤先生の研究室に案内することで、院生たちに、貴方たちのために動いているのよというアピールにもなるのだ。


「部屋は離れているの?」

 と結心さんが質問した。

「フロアが違うだけ。私が2階で、近藤先生は3階」

「じゃ、それでいいですね?」

 結心さんが天野さんに向かって確認した。

 天野さんは、目で頷いた。この二人、本当に社長と秘書みたいじゃないの。


「まあ、多分、近藤先生と話をするだけで終わると思うのよね。アクセスなんて、普通は学生が手を出さないと思うから」

 天野さんが当然のような顔をして断言した。

「難しいの?」

 私が質問したけど、私もエクセルを見よう見まねで触るだけの程度。

「……そうよねぇ。会社のシステム関連以外は、私たちもワードとエクセルとパワーポイントくらいしか触らなかったし。そもそも、アクセスって知らなかったわ」

 結心さんがOL時代を振り返っていた。


「エクセルだけでも、やり方によっては何でもできるのよね。アクセスを知ると便利になるという話だけ」

 天野さんが簡単に説明してくれる。

「同じようなものなの? 難しさが違うだけとか」

「テーブルは似たようなもの。というか、エクセルのテーブルをそのままそっくりアクセスに取り込むことができるからね。もちろん、条件設定等をきちんとしないといけないけれどもね」

「何のことやら、チンプンカンプンだわ」

 私は、ついていけない。

「ま、この辺はその時に説明する」

 天野さんが言うと、結心さんが「私は、何をするの?」と聞く。


「僕の手を握ってくれてたらいい」

 天野さんが脱線しようとする。

「こんな風に?」

 と言って、結心さんが天野さんの手を握る。

「うんうん、こんな感じだな」

 天野さんが笑う。

「こら、ここでいちゃいちゃするな。火曜日はもっとだめよ! 分かってるだろうけど。……貴方たち危ないからねぇ」

 ダメ出しをしておいた。それでも、結心さんは手を離さないで、にこにこしている。

 この二人、私の前でも堂々といちゃつくのねぇ。こちらは彼氏いない歴43年なんだからね。

 

「あはは、一応美人秘書だから、話の中身は分からなくてもメモ用紙にキーワードくらいを書いて、秘書の振りをしてくれたらいい」

 天野さんが偽秘書(・・・)の指導をする。

「それだけでいいの? 振りだけでいいのね?」

 結心さんが笑う。

「基本的には、殆どメモも要らない。話した内容は、ほぼ僕が頭の中に記憶するから心配ない」

「へぇ~、記憶できるんだ」

 私は感心したけど、考えてみると自分の専門分野なら頭に入るわよね。

「まあ、大切なキーワードをメモして欲しいときは、僕から指示するよ。そのほうが臨場感あるもんねぇ」

 天野さんが笑う。


「それでね、目的はそこじゃないからね? 分かっているのよね?」

 二人の顔を交互に見ながら、私は念のため確認する。

「分かっとるわ。ケーキを食べに行くんじゃろ?」

 天野さんが引っ掻き回す。

「もう! ……この前ケーキ食べ損ねたから、『二人にコーヒーとケーキくらい出してね』と言っておいたのよ」

「食べ物の恨みは怖いなぁ。……近藤先生に、『あれ失敗だったよ』と教えておいてやろう」

 天野さんが、まだ遊ぼうとする。


「はいはい、話を戻すわよ! では、結心さん、正解を言ってください」

「は~い! 近藤先生の顔を見に行くことで~す」

 結心さんが、胸を張って答える。

「……違わないけど、微妙に違うなぁ」

 私は悲しくなってきた。

「顔を見たら、なんでも分かるのよね、結心さんは」

 天野さんが突っ込みを入れてくる。


「なんでもは無理だけど、いい人かどうかくらいは分かるよねぇ」

 結心さんが、正解に少しずつ近づいてくる。

「もう一歩!」

 願うように結心さんの顔を見る。

「でも、私はもう、天野さん以外には目もくれないのよね」

 結心さんが、また脱線しようとする。

「なんで、貴方たちは遊ぶのよ!」

 睨んでやったら、少しまともになった。

「頭の良し悪しとか性格を見るのが天野さん。私は、心に濁りがないかどうかを見分けるの」

 結心さんが真面目になった。


「え? 心の濁りを見分けられるの?」

 天野さんが突っ込む。

「そうよ、天野さんに騙されないように、じっと見つめるの」

 結心さんが天野さんを見詰める。もう知らん。何とかしてくれるだろう。

 

「はいはい、火曜日の打ち合わせは、これでいいわね?」

 と手仕舞いした。

 

「じゃ、ここからは、その心の濁りを判別する聴聞会にしましょう」

 私は、天野さんに向かって言った。



読んで頂きましてありがとうございます。


もし宜しければ、「いいね」「★マーク」「ブックマーク」などをして頂けると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ