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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第四章 想定外の行方
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第31話 近藤教授からの相談

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 翌水曜日の午後、近藤先生が院生たちに愛想を振り撒きながら私のデスクのところへ直接やってきた。研究会を立ち上げたせいで、もう私の研究室へは大手を振って出入り自由だ。


「昨日は失礼しました。ちょっとよろしいですか?」

「はい。こちらこそ、失礼しました。学生たちがご馳走になってすみませんでした」

 一応はお礼を言っておいた。

「いえいえ、私が勝手にやったことですし。私の研究室の子たちにも、同じようにしましたから」

「女の子たちにずいぶん人気がよろしいようで、ケーキのお陰なんですか?」

 少し嫌味だったかも知れないけど、そう言ったら、

「あ、はい、そうかも知れないですね。女の子はケーキに弱いですからね」

「まあ、隅に置けないんですねぇ。……ところで、ご用件は何でしょうか?」


「あ、すみません。おかげさまで研究会を作っていただいて、色々と様子を見ていると、1つ課題が見つかりました」

「え? どんなことですか?」

「いえね、本来の課題ではないのです。うちの院生たちにも共通しているのですが、コンビュータで処理するための能力が足りないのですよね」

「ああ、その問題ですよねぇ。私もそこは教えられるレベルとは程遠いので、困っています」


「私、エクセルはある程度できるのですが、データベース関係は詳しくないのです。色々なデータをパターン化して角度を変えて分析しようとすると、エクセルでもできるのですけど、やはりデータベースソフトが必要になります。研究会の中で、1~2回程度研修会をしてはどうかと思うのです」

「近藤先生が、教えてくださるのですか?」

「いえ、私は無理です。学内で探せばいるとは思いますが、先生にはどなたかお知り合いはありませんか?」

「マイクロソフトのオフィスとかを使う話ですか?」

「そうです。アクセスとかのソフトです」


「それ、みんなのコンピュータに入っているのですか?」

 チンプンカンプンの私は、分けがわからない。

「オフィスのプロフェッショナルのアカデミック版なら入っていると思うのですけどね」

 近藤先生もよく知らないみたいだ。

「……あ、ソフト会社の方を知ってますので、聞いてみましょうか?」

 天野さんを思い浮かべた。これ、二人を会わせるチャンスかも知れない。

「おられますか? よかった! ちょっと聞いてみて頂けませんか?」

 近藤先生が喜ぶ。

「私はよく分からないので、一度ここへ来て貰えないか聞いてみますね? それで先生に紹介しますので、直接話して頂ければ助かります」

「ありがとうございます!」


 私は教授室に入って、天野さんに電話を掛けた。

「もしもし。ちょっと電話いい?」

「ああ、ええよ。どしたん?」

 天野さんは暢気な声で答える。

「よく分からないのだけど、オフィスのデータベースって知ってる?」

「あはは、それ、わが社の専門分野じゃ」

 天野さんが、高らかに宣言した。――高らかに聞こえたのは私の心。

「細かいことは、後で説明するから、一度学校に来て近藤先生と話をしてみてくれる? ボランティアでね」

 と一応念押し。

「ええよ。細かいことは後で聞こう。できれば午後2時~4時辺りに行くのがいい」

「分かった。じゃあとで」

 と言って電話を切った。こうしてみると、私も気軽に電話できる人いるじゃない。

 ――結心さんと()()になったけど。


 研究室に戻って、近藤先生に報告。

「データベースは専門分野だそうで、一度こちらに来てくれるそうです。詳しい内容はそのときということで」

「おお、ありがとうございます。それを使ってできるのかどうかもよく分からないので、助かります。費用はどのくらい掛かりますかね?」

「ボランティアでお願い、と言っておきましたから大丈夫だと思いますよ」

「凄いコネクションをお持ちなんですねぇ」

「いえいえ。それで、スケジュール調整なのですけど、午後2時~4時辺りがいいそうです」

「じゃ、後で、スケジュール確認して連絡させていただきます」


 近藤先生が帰っていった。


 天野さんに、もう一度電話した。

「エクセルでできにくいことをデータベースでやりたいらしい。詳しくないので誰かいない?  と聞いてこられた。普通なら知らないというのだけど、天野さんに会って貰えるチャンスだと思って受けたの。学生たちにも研修会を1~2回して欲しいって。それは別として、説明にきてくれて先生とお話したら、それは引き受けできないとか言って断ってもいいからね」

 自分の目的だけを言う私。

「なんという冷たい女じゃ。ちゃんと最後まで面倒見てあげなさいよ。研修会を2回程度やったくらいで、アクセスはまともには使えないよ。説明に行っただけということになるだろうね、きっと。簡単なことなら、できることもあるから、何をしたいのかを聞いてから判断する」


「それにしても、タイミングよく飛んで火に入る夏の虫よねぇ。どうやって会えるチャンスを作ろうかと悩んでいたのに、あっさりと転がり込んできたわね、うふふ」

「ほんまじゃなぁ。それも僕の得意分野で話をできるので、余裕のよっちゃんよ。中身がわからないから何も資料の用意をしないで、僕の頭と口だけ持っていくよ」

 天野さんも軽いノリで返してくれた。


「うん、それでいいよ。……ところで、この前のケーキの話は聞いたよね? それと、結心さんと恋人になったんだって?」

 ついでに、さらりと聞いてみた。

「ああ、聞いたよ。あの対応でいい。満点じゃ。で、そのとき、結心さんも連れていく?」

 あれ? 天野さん恋人の話はスルーなの?

「彼女も来られたら来て欲しい。そちらで天野さんの恋人になった結心さんに聞いてみてくれる?」

「分かった。わが社の美人秘書として連れていくかね?」

 天野さんの声がにやけて聞こえた。やはり恋人の話はスルーした。

「学校でいちゃいちゃしないでね」

「そんなことするはずないがな。品行方正な天野さんなんやで」

「そこが一番怪しいでしょ。あっと言う間に恋人にしてしまったのだからね」

「……返す言葉もございません」

 天野さんが大人しくなった。うふふ。


 最終的に、来週の火曜日午後2時ということで、アポイントがとれた。

 ――結心さんも、美人秘書としてついてくる。


 今日、初めて近藤先生とたくさんでもないけど、いつもより少し多めの話をした。最近は大分慣れてきたこともあるのだけれど、ああして話す限りにおいては怖いことはないと思った。普通に礼儀正しく話をしてくれるし、あまり気にしなくてもいい普通の人だと思った。今度ケーキを持ってきたら、食べてみよう。


 そうだ、相談に来てもらうお礼として、ケーキとコーヒーくらい用意してくれと言おう。私と天野さんと美人秘書の結心と3人分用意させよう。

 私はどうせ傍で聞いていても分からないのだから、結心さんと二人でケーキを食べてたらいいわよね。いや、社長が話をしている傍で雑談しながらケーキ食べてたら叱られるか? あれ? 結心さんも近藤先生の品定めに来てもらうのだから、私が雑談してたら邪魔になるのだわ。

 

 来週の火曜日が楽しみになってきた。


 その前に、天野さんと結心さんの新カップルの進展具合を聞きださないといけないわね。下手なテレビドラマより、こっちのほうが絶対面白い。

 しかし、あの二人、すごくオープンなようで、案外肝心なところは口が堅いのよねぇ。

 ――私ったら、何を聞き出そうとしているのかしら?



読んで頂きましてありがとうございます。


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