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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第三章 夜の空港で
27/50

第27話 結心さんの恋人宣言

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 水曜日。

 話し合った結果、近藤先生と院生たちとの合同研究会――要するに勉強会――を始めることにした。


 私は、最初に挨拶で「これは、彼女たちにとっても最低限押さえておかないといけないことなので、基本的には彼女たちでの研究を中心とします。近藤教授がオブザーバーのような形でご協力いただけることになります。私は、途中経過の報告と疑問点・問題点が発生した場合には、顔を出すことにしますので、よろしくお願いいたします」と念を押しておいた。


 知らん顔はできないし、近藤先生の顔を立てて『協力して貰える』と表現しておいた。これで私は時々顔を出すだけでいい。近藤先生としても、文句はないはずだ。ここは、私の専門分野なのだから、私の土俵でやってもらう。



 それよりも、今は、結心さんの恋の行方が気にかかる。一気に恋に落ちたような感じだし、小まめに情報を収集しておかないと、置いてけぼりにされるかも知れない。


 夜、結心さんから電話が掛かってきて、また私のマンションへ来て貰うことになった。勿論、天野さんはいない。


 お菓子の袋を抱えてやってきた結心さんは、にこにこしている。もう嬉しいオーラが駄々洩れ状態だ。


「順調なのね?」と、私は短く声を掛けた。

「うふふ、分かるよね。私の顔、緩んでる?」

 と結心さんは隠そうともしない。

「はいはい、聞いてあげるから、ぜ~んぶ話すんだよ」

 と念押しした。

「やだ! そんな……全部は話せないわよ」

 と結心さんが思わせ振りに答える。


「え? もう話せないところまで進んだの?」

 と驚く私の声が、ひっくり返りそうになった。

「違う、違う! 話すと長いから、夜が明けるんよ」

 と結心さんは笑い転げる。――こりゃ、ダメだわ。


「で、昨夜デートしたのね?」

「え? 何で知っとるん? 天野さんから?」

「彼からは、電話も何もないわよ。だって、月曜日は、貴方ここに居たじゃない?」

 と冷たく言ってみた。

「あ、そうか! 今日はここにおるし、昨日しかないわな」

 と結心さんはペロッと舌を出す。


「そうすると、結心さんは毎晩夜遊びしてることになるわね」

「わぁ~! ほんまじゃ! お母さんに『不良になったらおえん!』て叱られるかもなぁ」

「大丈夫! この歳になったら、余程でないと言われん」

「歳をとったらええこともあるんじゃなぁ」

 と結心さんが笑う。


「それで、どっちからデートに誘ったの?」と話を戻す。

「天野さんからラインで『よかったらお茶しない?』って」

「手慣れた誘い方みたいに聞こえるなぁ」と私。

「あのな、ラインで話をする間柄なら普通じゃろ?」

 と結心さんが天野さんを擁護する。

「あはは、そんなにムキにならんでも」と焦る私。


「……それでな、私が今日でも大丈夫って返事すると『じゃ、これからどう?』って」

「貴方たち、身軽ねぇ」と二人の行動力に驚いた。

「家の手前の通りまで車で迎えにきてくれたからな。身軽と言えば身軽じゃ」

「そうか、私は車に乗らないから、そう思うんかもね」

 と移動には手間がかかる私。


「車に乗せてもらってから『どこに行く? この前のところは長居したから顔を覚えられてるかも知れん』と笑うのよ」

「そりゃ3時間もいたら、覚えられてるわね」

「私は『どこでもいいですよ。少しくらい遠くへドライヴでもいいし』と本音を言ってしまった」

「ふ~ん、そういう会話がスムーズに出てくるのねぇ」

 と私は感心してしまう。

「だって、車の中もずっと二人だけでお話できるんよ? 喫茶店より落ち着くじゃない?」

 と結心さんは当然のように言う。

「確かに!」


「『何時までOK?』と聞かれたから、『今日中なら大丈夫』と答えた」

「シンデレラね」

「彼が『じゃ、とりあえず北に向かおう』って、53号線を北に走っていった」

「53号って、津山に行く道?」

「そう。53号を走っていると『あ、どうせなら岡山空港に行ってみようか?』って。ちょうど分岐点付近だったから」

「夜の空港かぁ……ロマンチックな雰囲気がするなぁ」と私は想像する。


「彼も夜の空港はあまり知らないみたいで、土手みたいなところに車を止めて『発着陸あるんかなぁ?』って言ってたけど、結局3便ほどが出発したり到着したりしてた。綺麗だったよ、夜の飛行場」

 と結心さんが思い出したようにうっとりしてた。

「よかったねぇ。私もそういう経験してみたいかも」

 と私は思わず本音が口から出た。

「途中で飲み物を買っていったから、ゆっくりと空港の光を見ながら、お話してた。ラインと違って直接お話できるし、ロマンチックなムードだし、車の中だから本当に二人だけの世界。もう、大げさかも知れないけど、夢の世界みたいに感じた」


 結心さんは、昨夜のことを思い出すように、二人で話し合ったことを教えてくれた。ここからは、彼女の話を要約して再現する。


 ――――――――――


「私、天野さんのこと好きになってしまった。だから私を彼女にして欲しい。私と恋人になって欲しい。私と付き合って欲しい」

 と言ったのよ。彼も私のことを好きでいてくれてるのは分かってたから、迷わず私の気持ちをそのまま言ったの。私から告白するとは思ってなかったけど。


「ありがとう! すごく嬉しい。僕も結心さんのことが好きなんだよ。僕も恋人になって欲しい。こんなに話の合う人なんていないから。ただ、僕には妻がいて子供が3人いるんだよね。家庭に対する責任は必ず果たさなきゃならない。そうすると、僕は男の身勝手を言うことになる。君との結婚までは難しい。これは、女からするとずるいとしか言えないことになる。だから、恋人は無理じゃないかと思ってる」


「好きって言ってくれて嬉しい! 私はもう若くないから子供が欲しいわけじゃないの。結婚もしたいとは思ってない。それに、天野さんの家庭を壊そうとは思ってない。結婚とかそんな心配はしなくていい。奥様に心配や迷惑をかけたくないし、子供さんにも迷惑を掛けたくない」

「でも、それって、男から見たら便利な女になってしまうよ? そういう付き合い方はしたくない。もっと君を大事にしたい」

「ありがとう。優しいのね。でも違うのよ。寧ろ私のほうこそ自由な独身生活を満喫したいから、結婚を求められない関係が理想なのよね。だから、天野さんの言う条件こそが私の希望する条件なのよ。天野さんの大丈夫と思う付き合い方でいい」


 こうして考慮すべき条件がお互いに一致したので、付き合うに当たってのお互いの立場を確認し合った。


「まず、二人の関係について整理しておこう。『愛人』という関係にはならないけど、『恋人』という関係にはなりたい」

「あはは、どう違うの?」

「愛人というとドロドロとした2号さんみたいじゃない? 僕たちは対等でいたい。だから『恋人』」

「うん、私もそれがいい」

「だから、彼氏とか彼女という呼び方もいいと思う」

「うんうん」

「だから、『付き合う』という言葉も当然含まれている」

「わかった! 二人の関係については、同意します」

 

 ちょっとムードも何もないような会話に聞こえるけど、二人でこんな内容の話をした。本当はもっとムードはあったんだよ?


 ――――――――――


 そして、二人で見つめあって……手を握っただけ? このロマンチックな二人だけの世界で? 正直に話しなさいよ!


 まだまだ、これくらいじゃ終わらないわよ。――私の追及は続く。

 

読んで頂きましてありがとうございます。


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