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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第三章 夜の空港で
26/50

第26話 結心さんが恋に落ちた

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

「で、彼と珈琲スポットに行ったの?」

「そう。あれから、3時間くらい珈琲スポットで話してた」

 

「え〜っ? 3時間も? そんなに何を話すことあったのよ?」

「う~ん、色んな話で盛り上がって、時間が経つのを忘れてた。凄い楽しかったのよ」

 

「へ〜! 私、そういう気持ちが分からない。というか経験ないからなぁ」

「もうねぇ、何が何だか分からないけど彼と話していると、周りの音とか声が聞こえなくなって、彼の声しか聞こえないくらいになるんよ。こんなの初めての経験で、正直戸惑ってる。学生時代に、友達が昼から夕方までずっと喫茶店にいたことがあって、その時がそんな感じだったとか。大げさだと思ってたけど、本当にあるんだって今更だけど実感したわ」


「ここで話してたときは、それほどじゃ無かったよね。催眠術でも掛けられた?」

 と信じられない私は確認した。

「そんなことないわよ。なんかね、話してると、次から次に話が尽きないのよ。私もたくさん喋ったし、お互いに話が止まらなくって」

「私は天野さんと話して、そんなに盛り上がること無かったけどなぁ。……感性の違いか……」


「私も、こういう経験は初めてなんよ。でも、とにかく楽しかった。夢中で話してたわ」

「そういうことがあるんだねぇ」


「それでな、一晩明けてから、なんか変なんよ」

 と結心さんが(つぶや)いた。

「どういうこと?」

「何だか分からないけど、胸がドキドキしてるような感じなんよ。また会って、彼とお話したい気持ちがこみ上げてくるような、落ち着かない気持ちなの」


「え〜っ? それってやっぱり恋に落ちてるよね?」

「そうかも知れない。こんな気持ち初めてだから。よく分からないのだけど、とにかく心が不安定なの」

「速すぎない? 会ってすぐだよ?」

 テレビドラマじゃあるまいし、それに若いイケメンの王子様じゃないのに。


「とにかく彼と考え方とかが凄く似てるのよ。発想が同じというか、価値観が同じというか、もう一卵性双生児だったんじゃないかってくらいに。彼が、私が考えてることと全く同じことを言うから、『そうそう!』って私が言う。逆も、本当に殆ど同じ。こんな人に会ったことない。私がもう一人居るみたいな感じよ。分身とは違うけどね」


「そりゃ普通はないよねぇ。私もないわ」

「家に送ってもらう車の中で、彼が『ラインしてもいい?』って聞くから、『うん! いつでも待ってる! 私からもラインしていい?』って言ったら、『どんな時間帯でも嬉しい。真夜中と仕事中は返信できないこともあるけど』って言ってくれた」

「恋人になったの?」

「そこまでは言わなかったけど、私は彼女として認識してほしい。本音でいうと、私は彼と恋人関係になりたい」

「おお! もう、そこまで踏み込んだ気持ちなのね。でも、私が見た雰囲気や流れから見ると、彼もそう認識してるのじゃない?」

「分からないけど、雰囲気的にはそう感じてる」


「何で、彼ははっきり言わなかったのだろう?」

 と男性不信じゃないかも知れないけど、はっきりさせたい私。

「う~ん、彼は既婚者だから、自分からは踏み込みにくいのかも知れないなぁ」

 中途半端な態度で結心さんを苦しめてほしくない、と私は思った。

「でも、彼も結心さんとの会話というかコーヒーデートを楽しんでいたのよね?」

「そうだと思っているのだけど、私だけが走っているのかも知れないし」


「まあ、いずれ、どういう関係でいようとかの話になるんじゃない?」

「そうね。そもそも『恋人宣言』じゃなくても、親しくするだけのことだから、突き詰める必要はない」

「それなのに、彼女と彼氏という関係ってなんだろう? そこは、理解しにくいかも知れないなぁ」

 と私は疑問をぶつける。

「そこなのよねぇ……『恋人未満』?」

 と結心さんが首を傾げて弱々しく言った。


「それ、どこまでの関係なの? セックスだと明らかに不倫だよねぇ? そこまではしないのよね?」

「う~ん……今は、そこまでは考えてない。コーヒーとか食事とか、会ってお話するだけでいい」

「じゃ、『友達』? それなら、彼氏とか彼女じゃないよね?」

 と私は突っ込む。

「『友達』以上『恋人未満』?」

 結心さんの求める関係は、複雑な表現になった。


「『恋人』でも、セックスまでいってない関係もあるよね? 昔は、そうだったのだろうと思うけど」

 と私は昭和時代を想像する。

「じゃ、『恋人』でもいいのかなぁ?」

 と結心さんが遠くを見つめて言う。

「独身同士なら、それでもいいと思うよ。でも相手は既婚者だよ? 奥さん以外に恋人がいていいのかなぁ?」

「そうか、でも、『心の恋人』ならいいんじゃない?」

 と結心さんが新しい概念を投入してくる。


「なるほど、それなら不倫じゃないのか!」

 と私は感心してしまう。

「あのね厳密にいうと心だけでも不倫かも知れないけど、そんなこと言ったら、テレビにでてくる素敵な俳優さんがいて、その人のファンになったら不倫なの?」

 と結心さん。

「そうよねぇ、あまり難しく考えないほうがいいよねぇ」


「じゃ、どこまでが、不倫にならない限界なの?」

 と結心さんが聞いてくる。

「え~? 考えたことないからなぁ。手を握ったら不倫? あれ? 結心さんは土曜日に手を握ったから不倫したことになる?」

「あはは、止めて!」と結心さんが笑う。

「そうだ! 海外なんかで、抱擁とかは挨拶程度のことだから、そこまではいいんじゃない?」

「キスは? 海外だとライトキスも挨拶みたいよ」

 と結心さん。あれ? 結心さん突っ込みすぎじゃない?

「分からないわ。その辺がボーダーラインじゃない?」と私。

「うふふ、まあ、そこまでは考えないことにしよう」

 と結心さんが手を打った。やれやれ、凄いことになってきたぞ。目が離せない。


「それで、家に帰ってから、そのあとはどうしてたの?」

 と私は追及の手を緩めない。こんな面白い話は、最近ないものねぇ。

「家に帰ってからもラインで色んな話が尽きないのよ。夜中までラインしてた。日曜日もラインで一日中連絡してた。電話もしたいけど、今はまだ我慢してる。今週、また珈琲スポットに行こうって、誘ってくれないかなぁ」

「良かったねぇ、って言っていいのかなぁ? ところで、この恋愛は不倫にまで発展するの?」


「不倫しないよ。珈琲スポットでお話するだけだもん。これって、ボーイフレンドってことでしょ? 彼氏と彼女の感じでいいかと思ってる」

「なるほどね。独身同士で仲良くしてたからって結婚するとは限らないものね」

「そうそう! そんなに難しく考えなくていいと思う。私、こんなに楽しく話をできる人に会ったことない。彼を手放したくない。だから、わたし、彼の彼女になりたい。恋人になりたい」

 と結心さんが真剣な眼差しで言った。

「うん、良かったね! 恋人が見つかって。……私は応援するよ」

「ありがとう!」


 結心さんは、今、キラキラしている。初めての恋に、どきどきしているのだ。私も、そんな恋を見つけてみたいと、ふと思ってしまった。


 何度も言うが、結心さんも私も結婚をしたいとは思っていない。今の自由な環境を壊したくないのだ。でも、恋を始めた結心さんを見ていると、正直に言って羨ましいと思う私がいる。今の環境を壊さないでいられるなら、恋人はいても悪くないかも知れない。


 ただし、恋人ができても、豊かで落ち着いた今の生活を維持することが前提だ。



読んで頂きましてありがとうございます。


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