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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第三章 夜の空港で
25/50

第25話 結心さんの吐露

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 月曜日、研究室で院生たちから、近藤教授の資料を読んだ結果を聞いた。簡単に資料に目を通しながら説明を聞き、確かに新しい視点で解析していたようなので、ちょっと興味は湧いた。近藤先生は、やはり早くに教授となっておられるだけあって、優秀なのだとは感じた。でも、土曜日に私のブレーンである天野さんや結心さんたちと打ち合わせたとおり、私は可能な限り前には出ないで院生たちを中心に、近藤先生からの依頼を片付けていく予定だ。


 院生たちには、問題点を指摘した上で、数カ所を掘り下げるように指導した。そして、「近藤先生には、貴方たちが直接話をして差し上げてね。ケースによっては、別に研究会を立ち上げてもいいわよ。分からなかったら、私に聞いて」と予定どおり、私が前面へ出ないようにしておいた。これで、肩透かしできていると思う。



 それよりも、結心さんは土曜日あの後にどうなったんだろう? 気になって仕方ないので、帰りにお店を(のぞ)いてみた。


「いらっしゃいませ~! あ、詩織さん、先日はどうも~!」

 と結心さんは、いつものとおり元気そう。

「まだパンあるけど、後日談を聞きたいから、ちょっと寄ってみた」

 とウインクしてみた。

「ありがとう! 今日、行こうか?」

「うん! 今度は、私が色々と聞きたいからねぇ」

 と私は、にっこりと意味深に笑った。

「うふふ、今日は、家でご飯食べてから行くね。出る前に電話するわ」

「じゃ、あとでね。お土産はなくていいわよ!」

「了解!」


 いつもの時間より少し遅いくらいで、結心さんがやってきた。今度は、私が聞きたくて仕方ない。コーヒーカップを2つ持って、直ぐにソファに案内した。立場が逆転したのかも知れない。結心さんが私の事件に興味を示す気持ちがよく分かったわ。


「あの後。どうなったの? 襲われなかった?」

 と笑いながら聞いた。

「あはは、凄く紳士的だったよ。すごく楽しかったわ。……ありがとう!」


「土曜日は、何だか貴方たち二人ともテンション高かったよねぇ」

「うん! 玄関で会った瞬間、『あ、この人安心できる!』って直感というか、そう確信したの。それに、何だか前から知ってる感じがしたんよ。詩織さんに色々と聞いてたからかも知れないけど」

「まあ、確かに。天野さんは無害な感じがするよねぇ。だから、私も何の疑問もなくここに招待したもの」

「詩織さんの話に出てくる天野さんは、優しそうだったし、出来る人ってイメージがあった。それに、会ったときに『信頼できる人!』って直感的に感じてしまったのよ」

「だから、玄関で話しているときから、親しそうにしてたのか」


「そうそう! 会った瞬間に、もう既に『お友だち』状態だったんよ、天野さんもそうだったみたい」

「へぇ~、以心伝心なんか。両方ともがそう感じるなんて、本当にあるのねぇ」

「すごいじゃろ?」

「すごいけど、貴方が自慢することなの?」

「だって、そんなこと滅多にないことじゃろ? 凄いじゃない? 私、学生時代にこんな感覚を感じたこと1度もなかったもの」

「はいはい。……ここで話しているときから、二人ともなんか意気投合してる感じだったよねぇ」


「うん。何かなぁ、なんて言ったらいいのか感性がピッタリというか、とにかく、心がワクワクしてた」

「ちょっと羨ましいかも。私は、そういう経験ない」

 と私は正直に言った。

「私も初めてなんよ。もう、彼が話しているとき、『うんうん』と同感シグナルが出っ放しで、凄く楽しかった」

「それで漫才みたいになってたの?」

「あはは! 突っ込みどころの感覚が同じみたいで、反応も期待した反応が返ってくるし、ホントに驚いてたんよ」


「へえ~。結心さんから握手の手を出したときは、私もびっくりしたよ。大胆! って思った」

「ああ、あれな。思わず自然に手が出てしもうたわ。ちょっと、はしたなかったかなぁ?」

「はしたないとは思わないけど、普通は男性が手を出すかな? で、女性は躊躇する」

「あのときは、もう楽しくって、私が抱きしめてもいいくらいに、思ってしまったのよ」

「えぇっ?! そんなに大胆なことを思ってたの?!」


「変な意味に誤解しないでな? 男とか女じゃなくて、『わぁ~! 握手しよ! 握手しよ!』って、喜びの踊りみたいなもの」

「ああ、手を握りたかったわけじゃないのね? 変な踊りでなくて良かったわ」

 私はニヤリとしてしまった。

「う~ん、……ちょっとあった」

「え? そうなん? 手を握りたいのもあったん? ……会ったばかりなのに、そんなになるものなの?」

「私、親近感オーラ出てたじゃろ? なんかねぇ、本能的と言ったらいいのか、正直、あのときは天野さんに触れてみたかった」


「そう言えば、ソファに座るとき、天野さんの隣に何の抵抗もなく、自然に座ってたなぁ」

「そうそう、もう、あのときは既に隣に座りたかったんよ。なんで、そんなに思ったのかは今でもわからない」

「重症ねぇ……そこまでとは思ってなかったわ」

「私もな、そういう意識があったわけじゃないんよ。自然に、そういう行動をしてたんよ」


「恋愛についての説明を聞いて、凄く納得してたし、積極的に質問してたなぁ」

「うん、今まで結論が出なかったというか自信がなかったことについて説明して貰って、霧が晴れたみたいに感じた」

「そうみたいね」

「そのとき、『ああ、この人頭がいいんだ。尊敬できる!』って思った」

「確かに」


「楽しい、親近感が持てる、優しい、優秀。価値観も近いみたい。身長も私にちょうどいい。1、2、……6拍子揃ってるもんねぇ」

「そこまで、褒めるん? 普通は3拍子くらいでよくない? 恋は盲目?」

「恋かどうかは、まだ分からんけど、帰るときに、もっと話していたいと思った」

「それで、帰りに声を掛けたのね?」


「車で送って貰えたら、もう少し話ができると思ったんよ」

「そしたら、彼が珈琲スポットに誘ってくれたのね?」

「そう! 私の期待していた言葉を言ってくれた! 私と同じ気持ちなんだ! って思って嬉しかった」

「はいはい、ご馳走様。それはいいけど、結心さん、あなた彼氏は要らないんじゃなかったっけ?」


「え? 結婚する気はないだけの話よ。だから、結婚用の男は要らないけど、ボーイフレンドは居てもいい」

「そうなんか。ふ~ん……って、今更だけどね。ちょっと再確認」

「おかしい? いないとダメではなくて、いなくてもいい。いてもいい。旦那は要らない」

「いや、おかしくないよ。彼氏が欲しいのではなくて、気に入った彼氏なら居てもいいってことよね?」

「そうそう! 要不要という線引きはしない。自然体が大切」

「うんうん、全く同感」と私。

 ここのところが、私と結心さんの感覚は同じなのだ。だから、話があう。


読んで頂きましてありがとうございます。


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