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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第三章 夜の空港で
22/50

第22話 男の目 女の目 (1)

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 初めてのデートで手をつなぐかという話。相手を好きで口説いたほうは手を繋ごうとするが、口説かれたほうは恥ずかしいと断る。まだ、それほど好きでもないのだ、きっと。男女の別ではなく、どうもそういう傾向があるらしい。統計上の根拠はないみたいだけど。


 天野さんが、手を繋ぐということについて、さらに続ける。

「それでね、二人の関係が深くなるにつれ、どちらかというと女性から手を繋ごうとする傾向があると思う。ま、どっちでもいいことなんだけどね」

「それって、天野さんの経験が根拠なんですか?」

 と結心さんがズバリと切り込む。

「まあ、それもあるけど、友達なんかに聞いても、みんなそうだよ。でも、なんで手を繋ごうとするんだろうねぇ?」

「外では、性的接触はそれしかできないから?」

 と結心さんが笑いながら言う。

「あはは、そうかも知れないねぇ。結心さんの指摘は鋭いな。面白い! ……あはは」

 と天野さんが大笑いして続ける。

「結心さんが今言ったように、《性的》には深さというかレベルというか、千差万別の状態がある。それを踏まえた上で《性的》を考えると、異性間の愛が《性的》な愛を意味すると理解しやすい」

「なるほど! 凄くよく分かったわ!」

 と結心さんが大きく頷いた。

「つまり、《性的》とはセックスを前提としなくてもいいんだと。手を握ったり触れ合ったりすること――異性間のそういった行為――が《性的》であると認識されれば、それが『異性間の愛』すなわち《恋愛》と定義されるということでいいの?」

 と結心さんの(まと)めが出た。

「定義と言い切れるかどうかは別として、僕はそういう解釈だ」

 と天野さんが肯定する。この2人、学者タイプなのか? 難しい表現で意見交換してる。

 

 先日ここで私と結心さんが話して、結論がでないままだった恋愛感情についての、結心さんの疑問は解決した。


「もう1つお聞きしてもいいですか」

 と結心さんは積極的に天野さんに質問する。もう止まらない勢いね。

 

「いいけど、僕は専門家の先生じゃないからねぇ。難しい話は苦手よ」

 と天野さんは言うけれど、天野さんの話は余程でないと、反論まではいかなくても相槌(あいづち)以外は口を(はさ)(にく)い。

 

「男性はどういう目で女性を見ているのかなぁ? どういう気持ちで女性を口説くの?」

 と結心さんは食い付く。


「う~ん……それこそ千差万別だからなぁ。僕の主観的一般論でいい?」

「はい! 天野さんの主観中心でいいです!」

 って、結心さん、それ天野さんに興味ありと言ってるようなものじゃない?


「その前に聞くけど、女性はどういう目で男性を見てるの?」

 と天野さんが逆質問する。

「え? わぁ、答えにくい質問ね」

 と結心さんと私。

「よく言うよ、そんな質問しといて。……漠然としているから、答えにくいのよ」

 と天野さんが笑う。

「そうか! じゃ条件を絞って簡単にしていこう」

 と、結心さんは臨機応変だ。


「あのねぇ、漠然とした質問だと、本当の一般論の質疑応答になると思うよ」

 と天野さんが待ったを掛けた。


「なるほど、じゃどうしたらいいの?」

 もう、結心さんの話し方は、完全にお友達になってるわ。

「聞きたい項目に絞って、具体的な話にする」

「ああ、そうね。そう言われると、私は何を聞きたいのだろ? 聞こうとした本人が分からないって、確かに答えようがないわね、ごめんなさいでした」

 と結心さんが素直に謝る。


「例えばね、男は女のどこに魅力を感じるのか? とか最初にどこを見るの? とか、そういう聞き方だと、具体的な話になる」

 と天野さんが例をあげる。

「なるほどなぁ……じゃ、少しずつ聞いてみよう。外観は省略して、女性のどんなところに魅力を感じますか? これならいい?」

「うん、いいけど、それ、個人差が激しいよ?」

「ああそうか、じゃ、天野さんの主観を中心でいいわ。できたら、それに一般論を追加するくらいでお願いします」


「まず、雰囲気は明るい人。前向きな人。冗談が通じる人。素直な人。さっぱりした人。優しい人。気配りを少しはできるといいなぁ。ある程度は頭がいい人。……でも、こんなん誰でも希望する条件やで。これらのいくつかがあったらいい」

 と天野さんが軽く八つくらいをあげた。

「え? こんなにたくさん要求してるの?」と私。

「いやいや、だから、これらの内いくつかがあればいいと言ったじゃん。あのな、こういった条件を考えて女性を選ぶのとは違うよ? 相手を見たときに、これらのどれかを発見したらその女性に()かれる、ということよ。複数あれば、それだけ強く惹かれる」

「そうよね。女性だって、同じだと思うわ」

 と結心さんも頷く。私もそう思うわ。誰だってそうよ。

「でね、今言ったことを吹き飛ばしてしまうような感覚がある」

 と天野さんは、まだ追加する。

「それを先に言って欲しいわ」

 と結心さんが口を尖らせるような言い方をした。そりゃ、私もそう思う。


「だって、魅力を列挙しようとしてたら、その感覚を言い忘れたのよ」

 天野さんが言い訳した。

「うむ、許そう」

 と結心さんが、笑いながら言う。

「どうみても、女性上位で話が進んでるなぁ。怖いわ」

「えぇ~っ? 私たちは優しい美女でございますわよ! 食べたりしないから安心してね」

 と反論する結心さん。頼りにしてるからね。

「自分で美女と公言するところからして、怖いじゃんか」

 と脱線する。結心さんと天野さんは、直ぐ脱線してしまうわねぇ。


「はいはい、吹き飛ばす感覚の話ね。それは、感性というか感覚というかフィーリングというか――僕は周波数が合うと言ってるけど――色々な話題の中で見たり聞いたり話したりしてるときに、どれだけ同じところで《共感・共鳴》できるかということ」

 と天野さんが真面目な顔をして、強調した。

「あ~! そうだよねぇ! それ大事! 話だけでなく、考え方のセンスも一致したい」

 と結心さんが遠い目で話す。

 すかさず、天野さんが

「それ、結心さんの経験からくる強い同感ね?」と受けていた。

「うふふ、モテた私は、そういう記憶は色々とあるんだよ。聞きたい?」

「わっ! 聞きたい! 興味ある! 聞かせて!」

 と天野さんが言うと、結心さんが突っ込む。

「乙女の経験話は高いよ?」

「金をとるんかい?!」と天野さん。


「貴方たち、漫才コンビでも結成したら? すぐ脱線するんだから」

 と私は笑いながら言ってやった。

「ええなぁ! やる?」

 と天野さんは、結心さんに微笑んだ。

「うん! ええよ!」

 と言って、結心さんが手を差し出した。え? 今、握手するタイミング?

 天野さんはすかさず結心さんの手を握った。

 わぉぁ~! 貴方たち、私がいるのを忘れてない?

 それにしても、天野さんの反応は速かった。

 頭の中で思考して動く反応じゃない。反射神経で動いたとしか思えない。

 あれは本能で動いているのだわ。

 ――《手が速い》って言葉はこのことなのね、きっと。


「よし! 決まったね! じゃ打ち合わせは後でね」

 と天野さんは、何気ない顔で、私のほうに向き直って、にこりと笑った。



読んで頂きましてありがとうございます。


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