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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第二章 予測と対策
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第20話 分析の纏めと対策

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 外堀をじわじわと埋められても、私は何もできない。焦燥感を感じた私は、次の一手を二人に諮問する。


「ここまで、思い付くまま、だらだらと僕の考えというか推測を話したので、一度結心(ゆい)さんに纏めて貰いたいな」と天野さん。


 そうそう、今までは、いつも天野さんに相談して分析して貰って解決策を聞いて、それを結心さんに纏めて貰ってた。今日は二人いるから、すぐに纏めて貰える。


 結心さんが、直ぐに纏めてくれた。

「専門外だけど、詩織さんの専門分野に何とか接近しようとしてきた。それは、院生たちとの接触機会を増やして勉強会のようなものを構築し、その(ボス)である詩織さんとの自然な繋がりを作ろうとしている。ほぼ、この流れは成功しつつあると思われる」


「それで、それを潰すのは難しい?」

 と私は泣きそうな気持になって質問した。

「まあ、無理ではないけど、複数の人たち――院生たちね――が複雑に絡んでくるようになるから難しいのは事実」

 と天野さんが答える。

「難しくても、方法はあるよね?」

 と(すが)るような気持ちで聞いたら、天野さんは考える風でもなく直ぐに答えてくれた。彼は、こういうときの対策方法とかを瞬時に考え付くのだ。それが凄いと思う。


「まあ、オーソドックスな方法だけど、直ぐに対策として考えられるのは、例えばね、近藤先生との接触は殆ど院生たちに任せる。詩織は院生の指導に専念する。これが本来の姿だろうからね。だって、大学院生って、先生の指導もあるだろうけど、基本は自分たちで調べて研究して論文を書くのが仕事でしょ? これは違和感ないよね?」

「確かに、そうよね」

「だからこそ、可能な限り、院生たちを通して間接的に関与することに徹する。それが正しいはず。寧ろそうしないといけないでしょ? それは、あの先生も理解しているはずだから文句は言えないよね」

「それは、文句は言えない。近藤先生だってそうするはず」


「そうやって本筋が流れていたら、脱線もしにくいと思う。だからこそ、本来の専門から離れた議論になってきた時点で、それは院生たちの勉強の範疇から離れるからと言って断る。打ち切る理由も作り易いというわけよ」

「なるほど! 微妙なところはあるけど、私が表に出ないことで、確かに相手の本来の目的を霧散できるかも」

 と少しほっとする。

 

「そうね、真意は別としてその先生の表面上の依頼は、要するに疑問点が解決できればいいはずなのよね。院生たちの勉強にもなるからという理由で、詩織さんは院生たちに解読を指示したわけだし。その上で、詩織さんが院生たちを指導することになるのだから、正しい流れだと思う」

 と結心さんも賛成してくれた。


「さっきも言ったけど、その近藤先生というのは、どんな人なんだろうねぇ? 僕らは会ったことないから、正直想像もできない。それよりも悪意があるのか善意なのかも分からない。人柄も知りたいよねぇ」

 と天野さんが近藤先生の人柄を知りたいと言う。

「そうそう! 私も詩織さんのことが心配なのよねぇ。良い人か悪い人か。危害を加えられないか? とか」

 と結心さんも心配してくれる。


「そうなのよね、でもそれは、私だけでは分からないから、天野さんや結心さんが会ってから評価してみてくれないかなぁ?」

 無責任に聞こえるかも知れないけど、正直に言って、私はもう考えられなくなってしまっているのだ。

 

「え? 僕等が会うの? どうやって? どこで?」

「そりゃ、私の研究室に来てもらって、近藤先生がその時間にくるように仕向けて、紹介したら話ができるとか」

 

「おいおい、どんな理由で共通の話題を作るのよ?」

「それは考えるけど、私の姉の先輩と結心さんはその彼女だって紹介すればいい」


「ちょっと待って! 天野さんは詩織さんの仮想彼氏じゃなかった?」

 と結心さんが口を挟む。

「それは……後でなんとでもなるでしょ?」と私。

「詩織さん意外とずさんね」

 と結心さんがあきれて笑う。

 

「何だって? 仮想彼氏って何のこと?」

 と天野さんが結心さんに聞く。

「あのね、『彼氏がいる』と言ったときにイメージがわかないかも知れないから、そのときは天野さんを念頭にイメージして言えばいいということになったの」

 と結心さんは何事もないようにサラリと言った。

「あのなぁ、あんた()怖いわ」

「仮想としてでも、彼氏候補にしてあげたんだから、名誉に思ってもいいんじゃない?」

 と私が上から目線で畳み掛けた。


「結心さんの彼氏扱いなら嬉しいけど、詩織はなぁ……」

 と天野さん。――失礼な!

「あら! 私の彼氏候補にもなってるんよ? もしも、こういう事件に私が巻き込まれたら貸してなって」

 と結心さんがバラす。

「なんと! もはや僕は、物扱いなのか」

 と天野さんは落ち込んだ振りをして笑った。案外喜んでいるんじゃないかと思うわ。

 

「まあそれはともかく、僕等がそこに行く理由は何よ? 飲み屋じゃあるまいし、そこで会ったからと言って話なんてないわ」

 私が結心さんに「アイデアない?」と聞いたら、

「う~ん、難しいなあ」と返された。


「そうだ! 結心さん、ライン交換しとかない? 仮想彼氏の練習しとかんとなぁ」

 と天野さんが唐突に話を変えた。

 ……ちょっと! 近藤先生とどうやって会うかという話をしてたでしょ?

「ええよ! 交換しよっ! しよ!」

 と結心さんが二つ返事。

 ……突如、ラインの話に変わった。貴方たち、どういう感覚なの?

 そんな練習なんて必要ないでしょ? アイデア交換? ここで話したらいいじゃない?

 ……私は置いてけぼり。……もう好きにして。


「送ったよ」

 と結心さんが言うと、天野さんのスマホから音が聞こえた。

「これで登録完了やな。愛のハートマーク送ったぜ」

 と嬉しそうな天野さん。

「来た! ありがとう! 私も愛のマーク!」と結心さん。

「届いた! わーい!」と天野さん。

 貴方たち、目の前でスマホ通信しながら、声出して読まないでもいいのよ!

「詩織もスマホ持ったらいいのに」

 と天野さんが言うけど、私は持たない。

「携帯電話不要。スマホも不要」と、頑固な私。


「でも、私たちが学校に行ってその先生に会うなんて、本当に理由はないと思うわ。それよりも、街中で――例えば一番街とかで――ばったり会って、ちょっとお茶でも飲もうって言うほうが、余程自然じゃと思うけどなぁ」

 と結心さんが提案する。


「そうじゃ! それが自然じゃ! 結心さんとデートもできるし」

 と、天野さんが嬉しそうに言う。

「そこ?」と結心さんが笑う。

「でも、私が近藤先生を連れて行くとなれば、それはあの近藤先生の思うツボじゃない? それは嫌なのよ」


「難しいわね。このことは、改めて何か方法を考えようよ」

 と適当なところで話を切り上げる結心さんは賢い。

「そうね。さっきの対策で、当面は何も問題ない。慌てることはないから、どっしりしていればいい」

 と天野さんが締めくくった。



読んで頂きましてありがとうございます。


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