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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第二章 予測と対策
18/50

第18話 天野さんと結心さん

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 電話した結果、土曜日の夕方、天野さんと結心(ゆい)さんの二人が私の家に集まることとなった。


 もちろん、夕食を用意しておもてなしする積もり。あまり胃に重たいものは作りたくないのだけど、男性は油っけのあるほうがいいかな? と思って聞いてみたけど、天野さんは基本的には好き嫌いないらしい。


 でも酒のカスとか豆腐のカスとか何とかのカスは好かないという。理由は《カス》だからだそうな。よくわからない理由だけど、彼氏でもないから詮索しない。ま、それほど気を遣う相手でもないから、いつものように気の向くままの料理にした。


 客人にご馳走するときは、事前に作っておいてサッと出せる料理にする。今回は、小あじの南蛮漬け。玉ねぎは薄切り、ピーマンと人参は細切り、赤唐辛子。お酢は穀物酢だ。この料理に米酢は美味しくない。余分な話だけど、穀物酢は米酢の1/3くらいの値段。穀物は虐げられているのかしらん?


 醤油は、地元産の備前焼大瓶で熟成されたものだ。お味噌汁はネギと豆腐の赤味噌。冷ややっこに鰹節を食卓に出す直前に振りかけて、ワサビを少し添える。――ワサビとショウガの違いについては説明を省略する。


 もう一品は、鶏肉とアスパラガスの生姜焼き。これは、食べる直前に炒めるので、下準備は不要。すぐに作れる。野菜はレタスとトマトを添えて小皿に盛るだけ。メニューは少ないけど、お腹に優しい食事を心掛ける。ご飯は今回は1合半にした。小あじの南蛮漬けは予め作っておくから、生姜焼きを含めて三人分を食卓に並べるまで10分も掛からない。


 ピンポーンと鳴って、結心さんがやってきた。またパンとお菓子のてんこ盛り。気を使わなくていいのに。

「ヤッホー! いつもご馳走になりま~す! はい! 余りもので~す!」

 と結心さんが、軽やかにやってきた。

「こちらこそ、いつもお土産ありがとう! これで当分飢え死にしなくて済みます!」

「男前の天野さんはまだなのね? 期待してるわよ、ふふ」

「男前だなんて言ってないでしょ? それに妻子ありだから、論外扱いでいいんじゃないの? えっ?、今日はスカートなん?」

「いやいや、久し振りの《男》じゃからなぁ!」

「飢えてるのか?!」

「あはは。できる女はチャンスに備えるのよ」

 と結心さんは屈託ない。まあ、大阪の大企業でOLをしてたから、そういう点は全く問題ないみたいで安心した。


 そんなくだらない話をキャッキャッと笑いながら、二人で食卓の用意をしていたら、ピンポーンと天野さんがやってきた。結心さんが「あ、私が出るよ」といって、さっと玄関に行った。


「こんばんは~! いらっしゃいませ! 噂の天野先輩ですか? 私『ゆい』と申します。よろしくお願いいたします! どうぞお入りくださいませ!」

 と結心さんがノリノリで挨拶をしている。天野さんは、懐から名刺を出してさりげなく渡しながら挨拶をした。

「あっ! 美人で可愛いゆいさんですね? すぐ分かりましたよ! 天野(あまの)です。こちらこそよろしくお願いいたします」

 と、天野さんも何だか調子いい。

「やだっ! 二人しかいないのだから、すぐ分かって当たり前じゃないですか!」

 と結心さんが突っ込む。

「いやいや、100人いても、すぐ分かりますよ! 確かに、美人で可愛くて素敵です!」

 と天野さん。あれ? もう口説いてるの?

「ちょっと~! あなたたち、そこで何をいちゃついてるのよ! 中に入ってきなさいよ!」

 と思わず、叫んでしまった。

「うふふ、詩織さんが焼きもち焼いてるから、遠慮しないでどうぞ! って、私の家じゃないけど」と結心さん。

「あはは、今日はもう既にゆいさんにメロメロですので、目が虚ろになって入ります!」

 と天野さんは日本語がおかしいぞ。


「おう! 今日は可愛い子を紹介してくれてありがとな!」

 と天野さんは私の顔を見るなり、そう言った。

「違うでしょ?! 私の相談に乗ってもらうために来てもらったんだからね、貴方たち」

「おお、そうじゃった! つい、美人に気をとられて、目的を忘れるところじゃったわ。わりぃわりぃ」

「私のときとは、ずいぶん違うわねぇ!」と私。

「そりゃ仕方ない。僕は正直者だからなぁ。許せよ乙女!」

 と、天野さんのハイテンションが下がらない。

「ま、とりあえず、簡単な食事を用意したから、食べてからお話しましょ」

 と準備に取り掛かった。


 私は、鶏肉とアスパラガスの生姜焼きの料理に取り掛かった。結心さんは黙って冷蔵庫から冷ややっこを出して、小皿に分けワサビを少し付けてから、鰹節を振りかけて食卓に並べる。そして、残った豆腐をサイコロに切ったりネギを刻むなど、すぐに味噌汁の準備に入った。鍋のお湯が沸騰するまでの少しの時間でお茶の用意を並行してやっている。


 打ち合わせしなくても、結心さんは、さっと、自分の仕事を判断して動いてくれる。いつも、家の料理は結心さんがやっているのだろうなぁ。この人、いい奥さんになれるわね、きっと。――結婚しない積もりだそうだけど。


 天野さんは、食卓の自分の席に座って、ニコニコしながら私たち二人の作業風景を黙って見ていた。

「いやぁ、ええもんやなぁ! 美人二人が、僕のために一生懸命料理してくれてるみたいで、ハーレムじゃ」

「なんという妄想をしてるのよ! 三人分ですからね」と私。

「いや、そうかも知れんけど、知らない人が見たら、そう見えるかも知れないやんか!」


「うふふ、じゃ、あとで、しっかりお返ししてくださいね?」

 と結心さんが(のたま)う。

「えっ! それって、抱きしめたらええんかな?」

 と天野さんは妄想の世界に入ろうとしている。

「ぶー! 罰点1」と結心さんが切り返す。

「げっ!……こんなところで罰点が付くんか?!」

「罰点3で鞭打ちの刑になりますわよ」

 と結心さんが追い打ちを掛ける。

「ははーっ! お嬢様、申し訳ございませんでした!」

 と、天野さんが早々に降参した。

「分かればよろしい。しばし黙って、見ているがよい」

 と結心さんは余裕で指示する。

「ははーっ!」と天野さんは、全く抵抗しない。


 なんだか、この二人、初めて会ったばかりなのに、やけに息がぴったり合っている。天野さんをあっさりとやり込めるなんて、結心さん凄いわ。私には、こんな芸当はできないと思った。やはり、私のブレーンになって貰って良かった。


 この調子なら、二人とも気楽に話合えて分析や議論ができそうだわ。何と言っても、遠慮しないで済む気楽な関係が理想よね。私の人選に間違いなんて無いわ。安心したこのタイミングで、もう、大船に乗った気持ちになってしまった。



読んで頂きましてありがとうございます。


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