第15話 結心さんの整理 (1)
毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)
お菓子を食べながら、コーヒーを飲んで、恋愛の話をしている。まるで、高校生になったみたいだ。でも、実際はそんな楽しい話じゃない。そもそも、私は高校生のとき、そんな話には見向きもしなかった。
嫌というのではなく、興味がなかったのよね。通学のバスや電車で格好いい男子生徒を見つけた、学校はどこそこらしいとか、結構キャーキャー騒いでいる子がいたけど、何が楽しいのだろうと思っていた。
結心さんが、会話のリーダーシップをとって、私の気持ちを丁寧に確認してくれている。結心さんは、メモを取り出して、纏めながら私の気持ちを書き留めてくれた。本当に頼りになる結心さん。
「まず、一番大切なことは、詩織さんがその先生のことをどう思っているのかを教えて」
「それと同じことを天野さんにも聞かれたわ。正直に言って、好きでも嫌いでもない。何とも思ってない。興味がないし、そもそも不倫は嫌だというのが一番大きい」
「無味無臭という感じね。とどめのキーワードは『不倫は嫌』」
「そうそう! 無味無臭! うまいこと言うわね」
「だから、断る前提で考えたらええんよな?」
「当然よ! それ以外考えられない」
「じゃ、手紙じゃなくて、勉強会のようなものだったら、どうするん?」
「そりゃぁ、……仕事だから、今までどおりと同じように、普通に接して普通に話はすると思う」と私。
「職場だもの、難しいよなぁ。……逃げたいような人でなくって良かったなぁ、いや、ほんとに」
「勉強会だったら接触の回数は増えるかもしれないけど、私に迫ってくることはできないはず。もしも迫ってきたら、そのときは、学部長に言いつけてやるわ。妻帯者なんだから、セクハラになるはず」
と強気な私。公衆の面前で言い寄るなんてできるはずがない。自己保身の人がするはずない。
「勉強会は、自然体で、一定の距離感を保つわけじゃな? ほんなら、これは考慮せんでええな」と結心さんが纏めた。
「うん、天野さんとの話でも、そんな感じで、準備不要となった」
「さて、ラヴレターとして、好きですとか色々書いてきたら、どうするん?」
と次の問題を提起する結心さん。
「う~ん、いくらなんでも気持ち悪いとかは言えないしねぇ、職場だから」
「だから、ここで、例の『彼氏いる』という必殺技を使うんよ」
結心さんの切れは鋭い。
「でも、具体的にどうするわけ?」
私には思い浮かばない。だって、彼氏がいないのだもの。
「だから、好きですとか交際したいと書いてくるわけでしょ?」
「ラヴレターならそうなるよなぁ……」
「それに対して断るのだから、『私には彼氏がいます』でいいじゃない」
「あ、そうか! 断る言葉としては、相手を傷つけないで返事をする最適な言葉よね」
「そうそう。ラヴレターに対しては、『彼氏いる』作戦しかないでしょ」
「彼氏いないのに、イメージ作れるかなぁ?」
「う~ん、とりあえず天野さんを彼氏ということにしてしまおう。便利な男じゃなぁ、うふふ」
「今ごろクシャミしてるかもね、ふふ」
「天野さんは独身ということにしとかんといけんじゃろ? まあ、年は近いんじゃから無理はないじゃろ。私も、こんなトラブルがあったときは、貸してね天野さん。会ったことないけど」
と結心さんが乗ってくる。
「いいわよ! って私の持ち物じゃないし」
私は『天野さん、持ち物扱いしてごめんなさいね』と心の中で謝っておいた。
「ラヴレターに関しては、『彼氏がいます』で対応し、具体的なイメージは天野さんを想定する、これでええよな?」と結心さんが纏めた。
「うん、それでいい」と私。
天野さんが彼氏という設定は、まあこの際仕方ない。ごめんね、天野さん。
「さっき取り敢えずは外したけど、花束とかプレゼントとか貰ったら、どうするん?」
と結心さんが、天野さんとも外した話を持ち出してきた。さすが結心さん!
花束なんて思いつかなかった。結心さんはボーイフレンドたちから貰ってたんだろうなぁ?
他人の話なら、それ素敵と思ったけど、自分の話になると、好きでもない人から花束なんて気持ち悪い。
「プレゼントは、誕生日を知らないから無いかと思って、検討しなかったよ。基本的には、断って受け取らない。……でも、職場でそれやられると引くわ。波風は立てたくないけど、困るだろうなぁ」と私。
「それで、天野さんが、まさか自分が勤める職場ではやらないだろうと思って、検討対象から外したのかな?」
と結心さんが推測する。
「そうそう、自宅は可能性があるけど、知らないだろうし。知ってたらストーカーみたいで怖い」
「でも、一応は、考えておこうよ。可能性がないわけじゃないし」
と結心さんは心配そうに言ってくれた。結心さんは細かいところまで気配りをしてくれる。
「そうよねぇ……。花束なんて、まさかの展開だもんね」
私も少し不安になった。
「花束って大きいから、職場では目立つだろうけど、男の人がよくやる手の1つみたいよ」
と結心さん。
なんでも、結心さんが知ってる女性の勤務先に、社外で知り合った男性から花束が贈られたそうな。まさかと思ってたところへのサプライズとなって、その女性はデートに応じてしまったらしい。――なんだ、結心さんの話じゃないのか。
「へェー! その男性はプレイボーイなんだろうねぇ」
「プレイボーイというか、妻子持ちの人で顔とかも良いことないのに、何故かモテるらしい」
と結心さんの具体的な事例研究。
「要するに、女は花束に弱いって? 相手が妻子持ちでも、デートに応じるんだ!」
と私はびっくりした。
「あはは、『1億円の札束』ならどうする?」
と結心さんが次の攻め手を掲げる。
「!……! う、う~ん、考えるかも! あはは」
「女は、花束と札束に弱い?」
と結心さんが面白そうに纏める。
「結論は、贈られるモノによる、ということで」と私。
「おいおい! 断るんじゃないん?」
結心さんが、私のまさかの回答に慌てる。
「まあ、花束ならややこしいから要らない。他は、貰ったものに依るわね。そこに、苦労とかアイデアとかがあれば、貰うかも」
「あんた、かぐや姫か? ……でもまあ、全てを拒否ではなくて、臨機応変に判断するってことか。――ここでの臨機応変てなんだろ?」
と結心さんがスマートに纏めた。――疑問符を付けながら。
そりゃ、花束を受け取るだけで1億円貰えるのなら、考えるわ。――普通。
私だけじゃないわよね? 1億円だよ?!
「女は、花束と札束に弱い?」って名言かも。
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