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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第二章 予測と対策
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第12話 相手の行動予測

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 必殺技を得た私は、剣豪になったような気分だ。……誰でも持ってる必殺技だけど。

 

「今回の流れを見ると、その先生も次の一手が見えてないみたいね」と天野さん。

「じゃ、どうなるの?」

「だから、彼としては考えられ得るパターンを探してくるだろう。……それをこちらも探してみればいい」


「そんなん当たるの?」と聞いたら、

「相手も人間や、考えることは大して変わらん。だから、そこそこ当たる」と。

 で、次のようなパターンを考えてくれた。それぞれのパターンの組み合わせもあり得るそうだ。ちょっと見、大したアイデアはなかった。


 1.方法が見つかるまでは、動かない。

   ――相手としても、動かなくても悪くならないから、時間的余裕はある。

 2.色々な理由を付けて、軽い接触をコツコツと続ける。

   ――交際してくれとは言わない。

 3.玉砕覚悟で、軽いデート(音楽会みたいなもの)に誘う。

   ――これは自信がないとできないだろう。

 4.思い切って、話し合いを求めてきて、玉砕する。

   ――可哀相なパターンだけど、早く終わりそう。

 5.話し合いは難しいから、手紙を書いて思いの丈を伝える。

   ――彼の場合は決してラブレターにしない微妙な表現になるだろう。

 6.何か贈り物をする

   ――花束やプレゼントなど

   ――花束なら学校では難しいけど、誕生日が近いとありかも?

 7.イベントとか勉強会とか、とにかく接触場面を積極的に作る。

   ――こまめに行動することになるが、効果は最も期待できる。

 8.誰かを利用して、仕事の関係で二人で出張することを企画する。

   ――無理でしょ。

 9.諦める。

   ――これが理想のパターンだけど、それなら初めから行動しない。


「3・4ができるくらいなら、とっくにしてるはず。7は、共通事例があるのか分からないけど、本当はこれがベストの選択だと思う。僕なら、これを考えるね。会う回数をたくさん確保できるだろうからね。これの可能性は僕には分からないけど、いずれにせよ、このパターンは流れに身を任せざるを得ないから、今は対策の対象外としよう。9は、まあないだろう」

 と天野さん。

 

 可能性が高いのは、1・2・5・6・7・8の、5つだそうな。

 え~? たくさんあり過ぎじゃない?

 まあ、1と2は今までどおりよね。

 6は誕生日を知らないはずだから取り敢えず外す。

 8は、専門分野が違うから、確率はほとんどないと思う。


 本命は、5と7。

 7は、天野さんには仕事のことが分からないから、自分で考えろと言われた。


「というわけで、今ここで、僕らが予想できるのは「5」の手紙だね。手紙等によるアプローチに備えておけばいい」


 なるほど!

 なんだか分からないけど、列挙して消去法で導きだされると、それらしく思えてくる。


「それで、どんな手紙がくるの?」と聞いてみた。

「あのなぁ! その先生と会ったこともないのに、文面まで予想できたら、僕は超能力者やで!」

「確かに! でも、そこを何とか!」

「こんなところで粘ってくるなんて、お前は鬼か?」

「鬼じゃなくて、詩織ちゃんです」

「ちゃんは要らん。そんな可愛いもんじゃないがな」

「じゃ、詩織って呼んでもいいから」

「詩織って呼んだら、ええことあるんか?」

「にっこり笑ってあげる」

「要らん!」


 仕方なさそうに、文面の予想を、例に依って理論的に説明してくれた。

「あのな、ラブレターにはならないと言ったのは、根拠がある」

「天野さんて、何にでも、根拠を作るのねぇ」


「あのなぁ、根拠を作ってるわけじゃないよ。想像すれば簡単に分かることだから、それを根拠として行動の予測をする。だから、先に根拠があるのよ。別に結論を先に出して、それに無理やり屁理屈を付けているのじゃない」


「はい。私の言い方が悪かったわ。……ごめんなさい」


 とすぐに謝った。天野さんが先に結論を言ってから、あとで理由を説明してくれると言うので、つい、勘違いをしてしまったのだ。明らかに私が悪い。学生たちにも、いつも結論を先に言えと言ってるのに、その私が大失敗。――根拠は、自己保身傾向。


「最初の回答を求めない告白、自分が行かないチケット。これらは、自分の立場を守るパターンだ。ラブレターは、それ自体が証拠となるリスクがある。だから、今までの慎重な動きをした彼としては、安易にラブレターは書かない。この自己保身の傾向があることが根拠だ」

「じゃ、どういう手紙なのよ」

 私は考えることなく、安易に天野さんに答えを求める。


「まず、初めて告白したときのセリフの言い訳をする。言い訳をしなくても、結果として自分を正当化する表現。あるいは、一切触れない」

「なるほど」

「つまり、告白に関する説明としては、『意図したものが交際を求めたものではなく、単に自分の気持ちを伝えただけ』だと」

「ふんふん」


「次は、自分の要望を伝える」

「え? 怖いわ!」

「怖くはないと思うよ。交際して欲しいとは言わないだろうから。たまにお茶とかお話できたらいいと、あくまで清く正しく美しく希望する」

「断りにくいように言うのね。でも、お茶でも交際の内に入るかも知れないよ」

「具体的な関係ではなく、すれ違ったときに会釈する程度でもいい、とか。要するに、自分の気持ちを分かってもらえたら、それだけで幸せなんだと」

「特定の人と、お茶とかお食事なんて、噂になる」

 と、私はやっぱり拒否感が強い。


「それと、自己防御意識が強いようだから、どちらの名前――自分と貴方とね――も書かないかも知れない。もしも手紙が他人に読まれたら困るから」

「それはそうだけど、無記名って気持ち悪くない?」

「だから、直接手渡しする。――竹の先に付けて渡すとか」

「どんな時代の話よ」

 天野さんは、会話の途中に、時々こうやって意表を突くようなお遊びの言葉を挿入する。これって、わざわざ笑いを取ろうとしているのかしら?


「直接渡したら、受取拒否はしにくいだろうね」

「えー?! やっかいな奴!」

「書類用の茶封筒の中なんかに、封をした手紙を入れて渡す。『なんですか?』と不審そうに尋ねると『○○に関する簡単な資料です』と応える。実際、○○の資料が入っている」

 

「天野さん、経験あるの? やけに具体的だけど」

 と思わず言ってしまった。

「お前なぁ! 鬼みたいに無理矢理、根掘り葉掘り聞いて説明させておいて、そりゃねぇじゃろ! ワシは口説かれるばかりで、口説いた経験はほとんどないんじゃ」

「ごめんなさい! モテ男だったのね? おみそれしました!」

「わかりゃええ、詩織!」

 え? え? あ、呼び捨てされたら、にこりとするんだったっけ!

 《にこりっ》と返したら、「要らんな」だって。もう!



読んで頂きましてありがとうございます。


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