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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第二章 予測と対策
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第11話 天野さんの会社

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 土曜日。ちょっと学校に出て、用事を済ませてから、天野さんに電話してみた。


 今日はお休みだけど会社に出ていて、「誰もいないから寄れば?」と言われたので、帰る途中に寄ることとした。岡山駅でお茶菓子と飲み物を買って、駅から会社までのビル街をゆっくり歩いた。駅から徒歩で10分くらい。

 

 岡山市は、本当は政令指定都市にはなれない人口なのに、周辺市町村を無理矢理吸収合併し特例を利用して政令指定都市になってしまった普通の地方都市だ。だから、人口のバラつきのせいで「区」を決めるのに苦労した。岡山駅周辺は岡山市の中心部なのにかなり遠くの北の町までを含めて全部「北区」とした。北区と言われても、『北区のどの辺?』と聞かなければわからない。


 岡山駅から徒歩で10分くらいと言うと、まだ中心部のど真ん中にはなるけれど、田舎の街だからマンションやビルの谷間に住宅があったりする。天野さんの会社は、そんな雰囲気の一角にある小さなビルにあった。何年か前に姉に連れられて来たことがあるので、迷うことはなかった。


「はい、お土産!」

「おう、すまんな! でも気を遣わんでもええで」

「まあ、私も欲しかったから」

「ほう、応酬話法ができるんやなぁ。さすが教授!」

「まだ准教授だよ」


 応接セットに座ると、広い窓から近くのビルやマンションがいっぱい見える。駅舎も見える。ここは三階の一室。たった三階なのに案外見晴らしがいいので驚いた。田舎の街ならではだ。

 私が持ってきたお茶菓子と飲み物の入った袋を開き、昨日のことを説明した。


「……なるほど、敵さんはそうきたか。かなり慎重なタイプだな」

「なんかねぇ……疲れるの。これがずーっと続くかも知れないと思うと、滅入るわ」

「その気持ちは、わかるね。何も被害はないけど、暗くなっていくようなのよね」

「そうなのよ。どうにかして、この流れを断ち切れないかしら?」

「前にも言ったと思うけど、何しろ相手は『交際して欲しい』という要望を出してないからねぇ。単に褒めただけの行動だから、こちらとしても積極的に動けない。……まあ、例えば警察が『今の段階では動けません』というパターンと同じじゃわなぁ」

「天野さんも警察と同じなの?」


「おいおい、僕を何者だと思っているのよ」

「万能選手の天野さん」

「止めてくれ! わしゃ、無能選手やで」

「でも、そこを何とか考えて頂戴な」

「ほんまにあんたは、我儘な奴じゃなぁ」

「あれ? それを言うなら素直と言って」

「素直に我儘を言うだけじゃんか」

「素直なら許せるでしょ?」

「う~ん。取り敢えずは、相手の動きに間髪を入れずに対応できるようにはしたいね」

「うん、それだけでもいいから、教えて」


 天野さんの言うとおりに『完全無視』したけど、これって、結局相手に切り返しができてないもの。解決にはならなかったから、私は不満。そりゃ相手があることだから、無視するという消極策では、即解決できないだろうとは分かるけど。


「まず、現状分析をしてから、相手の心を探り、次の一手を予想してみるか?」

「そんな予想ができるの?」

「当たるかどうかは分からないけど、今まであちらさんがやってきたことを含めて考えると、何をしてくるかを予測はできる。――単なる予想よりは確率上がると思うよ」

「はい、よろしくお願いします」


「まず、チケットを持ってきた件だけど、これはたまたま手に入ったからの行動と考える。理由は、自分が行かないチケットを買うはずもないから、誰かに貰ったというのは本当だろう。で、金もかかってないから、簡単に『自分はいかない』と予防線を張ることが気軽にできる」

「私の推測は当たってるよね?」

 と私が言うと、天野さんは無言で頷いて、説明を続けた。


「つまり、相手は、今の時点で手詰まりなのよ。どうしたらいいか分からないから一週間動けなかった。たまたまチケットが無料で手に入ったから、これで一緒に行こうと考えたけど、親しくもないのに誘えば警戒されて断られてしまう。印象も悪くなる」

「そうよね。誘われたら、気持ち悪いと思って絶対断ったと思う。現に、一緒じゃないと言われても、即断ったもの」

「彼も教授になってるくらいだから、馬鹿じゃないはず。だから、始めから断られる前提で、『下心は有りませんよ』とアピールした。今までの言動を聞くと、少なくとも、次の次の一手くらいは読んでる」

「うん、そう思う」


「じゃ、何の為に来た? そりゃ会いたいのもあったかも知れんが、貰ったチケットをきっかけ作りに利用した。目的は、先週の告白の効果を確認しにきたと見るあんたの推測が素直な見方」

「うんうん、私の推測も、中々のものでしょ?」

「阿保でも、それくらいは分かるじゃろ」

「もう! たまには褒めなさいよ!」

「褒めたら調子に乗るからなぁ、阿保は」


 もう! 阿保アホって言わないでよ。口が悪いわね。これでも一応学識経験者って言われる部類に入ってるんだからね。まあ、教えを乞う立場だから、ここはぐっと我慢するしかない。ま、この口の悪さは天野さんのトレードマークみたいなもので、根は優しいひとだから、本当のところは腹は立たない。


「それで、ここからどうなるの? どうするの?」


「その前に、お友達の結心さんのアイデアだっけ? 彼氏がいるとさりげなく伝える案」

「うん、でも、交際を求められてないから、それって変じゃない? ってなったのよ」

「いや、それ王道でしょ、断るときの。……さりげなく、話の中で伝える手はあるよ」


「え? あるの?」

「会話の中で、さりげなく存在を匂わせたらいい。誰でもそうする」

「例えば?」

 相談してるのだから、出し惜しみなく出して頂戴ね。知恵は貴方にお任せよ。


「そりゃ、本人に直接『私には彼氏がいます』って言えば『まだ口説いていません』と言い返されるからだめだよね。でも、ダイレクトに伝えるのが一番効果あるのは間違いない」

「だから、ダイレクトにどう言うの?」

 と私は、思わず苛ついて聞いてしまった。


「それこそ、昨日のチケットの話の例で言えば、『あ、明日は彼氏とのデートが入っているので』と言えばいい」

「あ、そうか! 何で気が付かなかったんだろ? 誰でも言いそうな、簡単な話だよねぇ」

「そりゃ、あんたには彼氏がおらんからと違うか? わはは」


 もう! 悔しいけど、そのとおりだわ!

 そもそも、彼氏がいたら、こんなことで悩んでないか。

 昨日の千載一遇のチャンスを、私は逃してしまったのか!?

 そこで言えてたら、もう悩みは消えていたのに!

 でも、このダイレクトパターンは、まだまだチャンスはあるはずだ。

 え? じゃ「千載一遇」と違って「千載多遇」よね?

 この必殺技は懐に隠しておいて、今度こそチャンスを逃さず敵を切り捨てるのだ。


 でも、考えてみると、天野さんが、この前相談したときに教えてくれていたら良かったわけじゃない? 悔しいから、ちょっと、天野さんを(つつ)いてみた。


「そりゃ、そのとおりじゃわな」

「そうでしょ?」

 と鬼の首を取った気になった。

「でも、そういうチケット持ってくるパターンまでは予想できんわ。他人に頼り切らないで、臨機応変に自分の頭で考えようね。アホじゃないのなら」

 とあっさり切り返された。


 それはそれとして、これからの見通しを、教えてください!


読んで頂きましてありがとうございます。


もし宜しければ、「いいね」「★マーク」をして頂けると、嬉しいです。

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