07.婚約者の父
常の賑やかさが嘘のようにひっそりと静まり返ったガレッティ家のタウンハウス。
執事に迎え入れられて馬車から降りたデメトリオは、庭で花を抱えた幼女と遭遇した。
『アリー、その花は?』
『これはね、シスターローズっていうの!』
『ほう、薔薇か』
『ううん。ほんとうはちがうの。でもね、ガレッティではバラが育たないから、これをバラっていうんだって』
『そうか。辺境伯領は寒さが厳しいからな……可愛らしい花だな』
『うん! これはね、おかあさまが大好きなお花なの。おかあさまのお部屋にかざるからつんできたの』
『……きっと夫人も喜ばれるだろう。俺も一緒に行って構わないか?』
『もちろん! クマのおにいちゃまもおかあさまのおみまいにいらしたのでしょう? いっしょにいきましょう』
そう言ってデメトリオの手を引く幼女は、いったいどこまで理解しているのか。
デメトリオがここに呼ばれたのは、恐らく義母と呼ぶことは間に合わないであろう辺境伯夫人に「最期の挨拶」をするためだ。
夫人の病は重く、徐々に意識のない時間が長くなってきたという。
姉が寝込んだだけでも心配して泣きじゃくるような心優しい彼女が、この幼さで母親との別れを経験するのか。
そう考えるだけで、デメトリオの胸も痛んだ。
『おにいちゃま? どうなさったの?』
『ん? どうとは?』
『なんだかかなしいおかおなの。どこかいたいの?』
『ッ……』
親兄弟ですら、デメトリオの表情の変化は分かりにくいという。
騎士としても貴族としても感情を読まれないことは利点となるが、年齢以上に見られがちな体格と容姿も相俟って、同世代の中では怖がられ、遠巻きにされることも珍しくない。
それなのにこの幼女は、デメトリオの僅かな感情の揺らぎを読み取り、あまつさえ心配そうに見上げてくるのだ。
妹を天使と呼ぶ婚約者の気持ちを、遅ればせながら理解できてしまった瞬間だった。
『アリー』
『なぁに?』
『お前のことは、俺とルディが守るからな』
『んう?』
『アリーに求婚する者が現れたら、俺がそいつの腕前を試してやる。お前を守れるくらい強い男を見つけてやるからな』
『おにいちゃまよりつよいひと?』
『あぁ、そうだ』
『じゃあきっと、もりのこわいくまさんもたおせるね!』
『ははは。そうだな』
『……』
先導する執事の背中から何やら物言いたげな空気が漂ってきたが、すっかり義兄バカに目覚めたデメトリオが気付くことはなかった。
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牧場でのデート以来、辺境伯家の婚約者達は少しずつ交流を深めていた。
戦後処理や英雄譚を聞きたがる重鎮達の相手をこなすデメトリオの元には、王城と辺境伯家、両騎士団から稽古の誘いが絶えない。
デビュタントを目前に控えたアリーチェも、姉達の手を借りながら粛々と支度を進めている。
夜会で纏う白いドレスも完成し、トルソーに着せたそれをうっとりと眺める様子を、姉達は微笑ましく見守っていた。
それぞれが多忙な日々を送る中、二人の間を繋ぐのは専ら手紙なのだが、残念ながらデメトリオの社交下手はここでも健在だった。
送るのは便箋一枚か二枚程度の短い手紙。
花や菓子といった贈り物を添えることもあったが、デメトリオは毎回律義に「騎士団の若手に聞いた」とか、「ヴィート一家の行きつけの店を教えてもらった」などと書いてしまうのだ。
貴族男子としては落第必至だが、アリーチェは一度たりともそれをあげつらうことはなく、デメトリオが周囲に助けられながら選んだ贈り物をとても喜んでくれた。
そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎていき、いよいよ園遊会当日を迎えた。
例年は王家自慢の薔薇園と宮廷楽団の演奏を楽しむ会だが、今年は先の戦の祝勝会も兼ねており、護国の英雄を一目見ようと、国中の貴族や豪商がこぞって参加を予定していた。
そんな中、当の英雄はといえば、婚約者の屋敷の執務室で立派な白髭を蓄えた騎士に背中を叩かれ、盛大に咽ていた。
「はははは! あの朴念仁がずいぶんと成長したものだな! よもや戦場で色恋を学んだわけではあるまい?」
「ごほっ……そんなわけ……」
「冗談が過ぎますよ、閣下。デメトリオ様はそんなに器用な性質ではないと、閣下もよくご存じでしょう」
「当然だ。そうでなければ、大事な娘を二度も預けようなどと思わんわ」
「では、その大事なお嬢様を悲しませるような軽口はほどほどになさいませんと」
「ふむ。相変わらず見上げた忠誠心だな、ヴィート。うちの婿殿は副官にも恵まれたようで何よりだ」
ヴィートの仲裁を受けてようやくデメトリオを解放したこの男性こそ、ジャンマルコ・ガレッティ辺境伯。
アリーチェの父にして、デメトリオの未来の岳父、そして今回の祝勝会のもう一人の主役だ。
上背こそデメトリオより僅かに低いが、眼光の鋭さと威圧感は未だ健在。歴戦の騎士であり、老獪な貴族でもある強者らしい風格を漂わせている。
辺境伯を拝命して以来一度も他国の軍を辺境伯領から先へ通したことのない「鉄壁の守護神」は、敵には容赦しないが、信頼を置く部下に対しては気さくで大らかに接する人格者である。
男爵家の末子に過ぎないヴィートが辺境伯に直接物申せるのも、辺境騎士団特有の気風故なのだ。
「何はともあれ、閣下のご帰還が間に合ってよかったですね。デメトリオ様お一人では、武勇伝を所望されるお歴々を捌き切れませんから」
「そうさの。今日は儂も引き受けてやるが……此度の戦でお主の武名は他国にも轟いておろう。ガレッティ家の次代としても評判は上々。となれば、そろそろ貴族としての戦い方も身につけるべきよな」
「は……努めていく所存、です」
らしくもなく覇気のないデメトリオの返事に、ジャンマルコはかっかっと笑い声を上げた。
「そう嫌がるでない。お主の足りぬ部分はアリーチェが補うだろう」
「アリーチェ嬢、ですか?」
「エレオノーラが張り切っておっての。結婚前は社交界と縁遠かったマリアンジェラと一緒によく学んでおる」
「それは……頼もしいことです」
王国の社交界に君臨する姉に師事し、その後ろ盾も得ているとなれば、夜会に出られないデビュタント前にも関わらず、アリーチェが社交界で知られているのも当然だろう。
さらに彼女と共に並び立つマリアンジェラも、楽聖の寵愛を一身に受け、他の芸術家達からも女神と敬愛され、数多の作品にモデルとして影響を与える存在だ。
社交に疎いデメトリオはそこまで考えが及ばないが、後ろに控えていたヴィートはエレオノーラの思惑を正しく理解し、「さすがは社交界に咲き誇る純白の白百合様……」と、感心しきりだった。
「お主は貴族としてはひよっこどころか卵の殻もついたままだからな。デビュタントを迎えたら社交の仕切りはアリーチェに任せた方がよかろう」
「しかし……」
さすがに十二歳も年下の婚約者に丸投げするわけにはいかないと渋るデメトリオに、ジャンマルコは「婿殿は真面目よのぉ」と目を細めた。
「夫婦とは互いを尊重し合い、補い合うもの。儂とて妻がおらねば幾ばくかの領地は王城の狸共に掠め取られておっただろう。あれは不甲斐ない儂の代わりに社交界という戦場で戦ってくれたのだ。その代わり、家族を守り、養っていくのは儂の役目と自負しておった。……もっとも、どれほど剣を揮えたところで、妻の身に巣食った病には勝てなんだがな」
そう言ったジャンマルコは、執務室の壁に飾られた肖像画に慈しみと悲しみの滲む視線を向けた。
夫と並んで微笑む辺境伯夫人は、エレオノーラを彷彿とさせる優雅な貴婦人だった。
若かりし頃は娘と同じく社交界の花として数多の貴族から求婚を受けたという。
結婚後は夫を良く支え、豊かな人脈と知識を有する淑女の鑑として存在感を示していた。
王都からの距離と厳しい気候、そして隣国との緊張感から社交界と距離を置きがちだった歴代の辺境伯夫人の中では異色の存在だったが、その教えは今も娘達の中にしっかりと息づいているようだ。
「……デメトリオ」
「はっ」
「お主には感謝しておる。お主のおかげで、我が家と娘達の名誉を守ることができた。ありがとう。それから……すまなかった」
「閣下!? 頭を上げてください!」
デメトリオは敬愛する英雄の思わぬ行動に珍しく狼狽したが、当の本人は当然と言わんばかりににっかりと笑って見せた。
「老いぼれが頭を下げたくらいで慌てるでないわ。お主から受けた恩は、この程度では到底返しきれん」
「俺は何もしていません。むしろ、ルドヴィカを待たせ過ぎたから逃げられたのだと言われても反論はできません」
「……結婚を先延ばしにしての留学を許したのは儂だ。よもやこんなことになるとは思わなんだが、如何せん相手が相手だからな。お主が大事にしなかったことで一番安堵しておるのは王城の狸共だろう。せいぜい宰相辺りに恩を売りつけておけ。何かと使えるぞ」
「閣下……」
社交は妻に任せていたと言っておきながら、この手腕である。
まだまだ辺境伯への道のりは険しいと遠い目をするデメトリオの肩を、遠慮のない手がばしばしと叩いてくる。
「そう気負うでない。少なくとも、今日の園遊会で英雄たるお主の社交下手を笑うような粗忽者は相手にする価値もない。堂々と胸を張っておれ。お主なら、黙って立っているだけでも充分なハッタリになる」
「はい」
「うむ。デビュタント前とはいえ、婚約者のエスコートで参加する園遊会は若い娘の憧れらしいからな。アリーチェを頼んだぞ、婿殿」
騎士としてでも、貴族としてでもない、ただ父親としての言葉に、デメトリオはただ黙って頭を下げることで応えた。
デメトリオとヴィートが執務室を出ると、辺境伯家の執事は二人をアリーチェの私室へと案内した。
「アリーチェ嬢は支度中ではないのか? 我々は別の部屋で待たせてもらえれば……」
「お支度は御髪以外を済ませるように侍女に伝えております。やはり婚約者への贈り物は、ご自身でお渡し頂きませんと」
執事が手にしているのは、屋敷に着いた時に彼に言付けたビロード張りの箱だ。
後ろでは、「だから言ったでしょう」とヴィートも退路を塞いでくる。
「……そうと分かっていれば、閣下との話をもう少し早く切り上げたものを」
「それはそれで旦那様が寂しがりますので。お時間には余裕があります。さぁ、参りましょう」
「うむ……」
執事が扉をノックすると、侍女の声が応え、デメトリオは室内へと迎え入れられた。ヴィートはすっと気配を消し、扉の外で待機している。
部屋の造り自体は、昔よく訪れていたルドヴィカの私室とよく似ていた。
ただしルドヴィカの部屋は、所狭しと本が積み上がり、壁にまで何やら資料が貼り付けられ、ご令嬢の私室というよりも学者の研究室に近い有り様だった。
対してアリーチェの部屋は、天蓋付きのベッドにはピンクの花柄で統一されたリネンが整えられ、人形やオルゴールなどが飾り棚に並ぶ、少女らしく明るい雰囲気の部屋だった。
「ん?」
ふと、ソファの上に鎮座するぬいぐるみと目が合った気がして、デメトリオは足を止めた。
「お前は……」
それは小さなアリーチェがいつも抱き締めていた、あのクマのぬいぐるみだった。
ごわついた毛並みややや右側に傾き気味のバランスは年月を感じさせるが、首には真新しい金色のリボンが巻かれており、今でも彼女に大切にされていることが伝わってくる。
旧友との再会を果たしたような温かい気持ちで、デメトリオの目許も知らず緩む。
その間に、侍女は部屋の奥を隠すように設置されていた衝立を片付け、その向こう側で鏡に向かう少女に声をかけた。
「お嬢様、デメトリオ様がいらっしゃいましたよ」
「デメトリオ様?」
「ッ……」
侍女に促されて振り向いたのは、春の訪れを告げる天使だった。
淡紅色の生地に白い糸とビーズで春の花や小鳥が刺繍された愛らしいドレス。袖口や裾などに縫い付けられたレースも繊細だ。
髪の上部は複雑に編み込まれているが、オイルをつけた櫛で丁寧に梳かれた残りの髪は緩やかに波打ち、細い背中を覆い隠している。
大人と少女の合間を漂うアリーチェの眩い無垢さにデメトリオが固まっていると、少し開いたドアの向こうから副官のわざとらしい咳払いがせっついてきた。
「あー……その、すまない。支度で忙しいところに、先触れも出さずに……」
「いいえ。今日は当家の侍女達が妙にのんびりしているので、何かあるのだろうと思っていたところです」
アリーチェがちらりと視線を向けた先では、彼女の身支度を手伝っていたらしい侍女が三名、何食わぬ顔で待機している。
デメトリオは彼女達と執事、それからドアの外で待機している副官からの圧を受けながら、まずは最初の用件を切り出した。
「園遊会のパートナーの件、引き受けて頂き、感謝する」
「婚約者であれば当然ですわ。もっとも、デビュタント後でしたらもっと鮮やかな花になれましたでしょうけど」
デビュタントの前か後か、未婚か既婚かで貴族女性の装いは大きく異なる。
アリーチェに許される装いは、良く言えば愛らしく、悪く言えば子供っぽさが否めないものだ。
「……ルドヴィカお姉様が婚約者のままでしたら、きっと護国の英雄の隣でも気後れせずにいらしたのでしょうね」
ぽつりと零れた呟きに、デメトリオは盛大に首を傾げた。
「ルディは俺の隣にいたかどうかも怪しいな……この園遊会も、途中で抜け出した前科がある」
「え!? 陛下が主催される、王城の園遊会をですか!?」
「あぁ。宮廷楽団が古典曲を演奏している時に、退屈だから花を見に行くと言ってそれっきりだった。本人は王城の花園を独り占めできたと満足そうだったが、ベルニーニ夫人はたいそうお怒りだったな」
「それは……エレオノーラお姉様がお怒りになるのは当然です」
破天荒が過ぎる姉の振る舞いにアリーチェが額を押さえると、デメトリオは仕方ないと苦笑した。
「だから正直、アリーチェ嬢がパートナーで助かった。今回は先の戦の祝勝会も兼ねている。どうしても囲まれるだろうが、俺は花園に逃げ出すわけにもいかないからな」
「あらあら」
らしくない弱気な冗談まで零すデメトリオを、アリーチェは胸を張って鼓舞する。
「微力ながらお手伝いいたしますわ。こう見えても、社交界での立ち居振る舞いはエレオノーラお姉様にきちんと教えて頂きましたから。デメトリオ様は主役らしく、どんと構えていてくださいませ」
「それは頼もしいな……では、今日の俺の背中は君に預けよう。どうかこれを身につけて、俺の隣に立ってほしい」
デメトリオがそう言うと、執事が恭しく捧げ持った箱の蓋を開けた。
「まぁ……!」
黒いベルベットの上に、幾重にも重なる白金の花弁が咲き誇っている。
花弁の合間には透明な金剛石の輝きがいくつも見え隠れし、朝露に濡れる薔薇を彷彿とさせる風情だ。
ところどころ葉に隠される形で櫛がついているそれは、アリーチェの豊かな金の髪を飾るに相応しい髪飾りだった。
「修道女の薔薇ですね! とっても素敵……」
頬を紅潮させ、思わず声を上げたアリーチェに、デメトリオはほっと息を吐く。
「やはり、今でもこの花がお好みだったか」
「もちろん! 修道女の薔薇は、辺境伯領の花ですもの。私の一番好きな花ですわ」
修道女の薔薇は、学術的には薔薇ではなく、クレマチスやアネモネなどに近い種である。
寒さの厳しい地域でも真冬に花を咲かせる強い植物であり、その慎ましくも可憐な姿を、辺境伯領の人々は古来より薔薇と呼んで愛でていた。
さらには、かつて貧民を救うために尽力したと伝わるとある修道女が愛した花とも言われており、それが今日の名の由来となったのだ。
侍女は二人の話を遮らないよう、いそいそとアリーチェの髪に髪飾りを留めていく。
さほど待つこともなく完成した淑女の姿に、デメトリオは満足げに目を細めた。
「うむ。立派な武装だ」
「武装、ですか?」
思わず零れた言葉に、アリーチェが首を傾げる。
「あぁ、すまない。先ほど閣下から伺った夫人の話を思い出したのだ」
「お母様の?」
「あぁ。夫婦とは互いを尊重し合い、補い合うものだと。夫人は閣下の代わりに社交界という戦場で戦ってくれたと仰ってな。それが妙に、胸に来たというか」
「まぁ。お父様がそんなことを……私達にはお母様のことをどう思っていらしたかなんて、あまり話してくださいませんのに」
アリーチェは少し拗ねて見せたが、もちろん本気ではない。
ジャンマルコはデメトリオよりは気さくな性格とはいえ、武骨さでは負けていない。
娘には話せなくても、自慢の婿殿には話せることもあるのだろうと内心で微笑ましく思いながら、アリーチェは目の前の婚約者へと向き直った。
「社交界が戦場であれば、私の装いはまさに武装です。それに、デメトリオ様も」
「うん? そうだな。今日は祝勝会も兼ねているので、騎士団の礼装だからな。正しく武装だ」
「えぇ。とっても素敵です……」
残念ながら朴念仁は気付いていないが、長年彼女に仕えてきた執事や侍女、そして扉の外で待機していた優秀な副官は、少女の声に込められた甘さと熱に気付き、甘酸っぱさを噛み締めながら必死に表情を整えていた。
デメトリオは侯爵家の令息であるが、その外見や本質は貴族よりも騎士、もしくは軍人寄りである。
そのため細身の貴族向けの正装よりも、体格の良い騎士に合うように作られた隊服や正装の方が、より彼の良さを引き立たせるのだ。
黒を基調とした辺境騎士団の隊服や礼装は、詰襟や袖口などに銀で装飾が施されている。
先日アリーチェから贈られたシルクの眼帯も、おそらくこれを意識したのだろう。
実はそちらをつけるか直前まで迷っていたのだが、「ここは惚気よりも、迫力と威厳の見せ所なので」と、ヴィートにいつもの黒革のものを勧められて断念した件は、主従の間だけの機密事項だ。
「では、そろそろ参るか」
「はい」
デメトリオが手を差し出し、アリーチェがそれを取る。
ただエスコートするだけだというのに、二人の間にはどこか儀式めいた厳かな雰囲気が漂う。
「……なぜか初陣の時を思い出すな」
「似たようなものですわ。だって社交界は戦場、なのでしょう?」
「ふっ。そうだったな。だが、君にとっての初陣といえばデビュタントの夜会だろう。今日はいわば前哨戦だ。気楽にいこう」
「ふふふ。王城の園遊会が前哨戦だなんて、贅沢ですこと」
些か不敬な言葉を交わしつつ、二人は微笑み合い、馬車へと乗り込んだ。
修道女の薔薇=クリスマスローズのイメージです。