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第六幕 --・-

秋はお好きですか?

 とは言え。何かが決定的に変わった、なんてことは、ありませんでした。


 夏休みが終わり。九月が終わり。文化祭が終わり。やがて秋めく。向日葵も、夏を彩る花々も、とうの昔に餓死し、朽ち果てる。木々は徐々に自らを紅に、[[rb:黄金 > こがね]]に彩り、北風が眠りから覚めたかのように弱々しく吹く。植物たちの、最後の灯火。


 どれだけ時が経とうとも、君は相も変わらず、その顔を刻一刻と変化させ、感情豊かに反応してくれる。悪戯めいた顔で僕を誂う。僕はそれを笑って受け流す。時には脇腹を突いたりして、じゃれ合う。その程度。


 そういえば、君を突然後ろから羽交い締めにする、なんてことはありました。それはあの学校で、もはや挨拶のようなものとなっていました。高校生と言えば、最も多感な時期です。そういう時期に人の温もりを欲するのは、無理もない話でした。そして、女子がいないだけで、野獣たちは簡単に狂ってしまう。


 だから、僕もそれを真似ていたに過ぎなかった。そうすれば君は決まって、ヒゲを飛び上がらせ、耳をピンと立て、毛を逆立たせて、またたく間に元に戻ってから、


「なんだよ、暑苦しいな。」


 と笑って、僕から離れようと藻掻く。その様子を見た友人が、僕らを茶化す、なんてこともありました。仲が良すぎるんじゃないか。それに対しても君は、


「そんなんじゃねえから。」


 と冗談めかして答える。その度、僕は、秋を感じるのでした。




 たまに、君を僕の上に座らせようとするときもありました。それも、あの学校では日常茶飯事でした。世間は、夏の熱気を懐かしむ、そんな時期。暖を取るためには、とても合理的で、お互いに益のある手段でしたから。周りの目を気にする者など、誰一人として存在しない。


 しかし、君は大抵拒絶した。顔をしかめ、激しく抵抗し、時には全身を逆立て僕を威嚇する。そういうとき、僕は胸に穴の空いたような心地がするのでした。まるであの日のことなど、なかったかのように、日々は過ぎていきました。




 変わったことと言えば、小さいことが、一つだけ。君と僕が向き合うとき。僕が君のラピス・ラズリを覗き込み、君が僕の赤い目を見るとき。あるいは、互いの温度を共有するとき。そこには必ず二人だけの世界が作られていました。


 あるときは二人とも立って。あるときは君が座り、僕は立って。周囲に誰もいなければ、君を僕の膝の上に乗せて。ただお互い、話しているだけ。


 しかし、文字通り、人も、音も、すべてなくなってしまったかのような、二人だけの世界。二人の表情、言葉、動き。そういったものだけが織りなす、誰からも干渉されない世界。


 そういうものが、確かに存在していたのでした。君もきっと、そう感じていたことでしょう。二人だけの世界で、君の尻尾は、必ず僕を捉えていたのですから。


 だが、たったそれだけ。愚かしいほど、緩やかに、滑らかに、高校生活が過ぎていく。


--・-


 高校二年生になり、別のクラスとなってからは、会う機会も徐々に減っていきました。毎休み時間だったのが昼休みだけになり、やがてなくなる。放課後は毎日だったのが、週何日か。そして、三年生。君はサッカー部の部長として。僕は文化祭の実行委員長として。お互い、守るべきものを背負う。


 最後には、週一日。


 連絡すら、碌に取ることもなく。欠かすことなく、週一日。


 それで十分だった。週に一回。小一時間、君と二人だけ。そういう、二人だけの世界。それだけで十分だった。自分の中の感情が何たる名を持つか、それはわからない。だが、お互いがお互いを必要としている。その関係があれば、それだけで。




 ああ、あと、星ヶ丘のイルミネイション。あれは、綺麗でしたね。

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