昔日
心地よい風は丘の上を吹き抜け、草花と土の匂いを運んできた。
その香りを胸いっぱいに感じ取った私は自然と伸びをしていた。どこまでも続く青空は私の存在を頭の先からつま先まで許してくれている気がした。
恐らく、多くから弾かれた私を許容してくれるのはこの空だけなのだろう。
私は両足でしっかりと土を踏みしめ、丘の上を目指した。
少しでも空へと近づきたかった。
しかし、そんな私を真正面からの向かい風が吹き抜けた。
慌てて脱げかけてしまった帽子を押さえ、反射で目を閉じた。
風が収まり、再び丘に向かって目を開くとそこには何かの影があった。
ピントが合い始めると人影だと気づいた。
大きな傘を持った少女は紫色のワンピースをはためかせ、こちらを見ていた。
その温かさと寛容さを滲ませる瞳孔はどこか空に似たモノを感じた。