甘い報酬
あらすじ
勇仲がプロの役者だったことが
何故か操にバレていた
財布は返してもらった勇仲だったが、すぐさま別の問題が発生した。生徒達に自分の過去がバレたらせっかくの平穏が台無しだ。
地上百メートルの谷間にかけられた丸木橋の上に立たされたような、ピリッとした緊張感が頭の中で滞留する。
(落ち着け俺、選択を間違えると大変なことになるぞ)
心の中でそう自分に言い聞かせると、揺るんだネクタイを締め直した。
操が生徒会長という立場上、職員を通じて勇仲の過去について知ることも不可能ではないかもしれない。
今のところ言いふらす様子がないのがせめてもの救いだ。ここは波風を立てずにやり過ごした方が無難だと判断した。
「ねえねえ、どうしてやめちゃったのぉ?」
執務席に座る操は机の上で頬杖をついてニコニコしながら問いかける。
英房操は全校生徒から熱狂的な支持を受けている。
しかし、職員目線で見ると話が変わってくる。映画研究部での功績により一目置かれる一方で、その独特の感性と自由奔放さで一部の職員からは要注意人物としてマークされている。
区役所の許可を取らずに公園での撮影をして補導されたり、校舎内で火を用いた演出の練習をしていてボヤ騒ぎを起こしたり、一つ一つ挙げていてはきりがないほどに、ぶっ飛んだエピソードが絶えない。
空気が読めないというか、読まないというか、悪意が見受けられないところがかえってイラつかせる。
かといって、いつまでも黙っていても仕方がない。適当にあしらって逃げようと勇仲は口を開いた。
「やめた理由? 俺には向いていなかったからだよ」
「ええっ! 今さらぁ!?」
操は目を丸くした。
勇仲は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに語り出した。
「疲れるんだよ。自由な時間は奪われるわ、学校にはまともに通えねえわ、人前では楽しくもねえのにいつも愛想よくしてなきゃいけねえわ。
そういう生活ばっかしていると普通の生活に憧れるようになるんだよ。金輪際、芝居に携わる気はねえ。たとえそれが高校生の道楽でもな!」
勇仲は嘘はついていない。
だが、それは枝葉の話。
引退を決意した本当の理由を話すつもりはさらさらない。少なくともそれは、つい先日知り合ったばかりの間柄で話すようなことではないからだ。
「そのことなんだけどぉ―、入部の件はいいわぁ」
「んん? もういいのか?」
突然の手のひら返しに、怪訝そうに右眉を上げる勇仲。
「あ! いや、それはまた今度でいいって意味でぇ、今日呼び出したのは別件なのぉ」
「別件?」
「生徒会の仕事でぇ、ちょーっと手伝ってほしいことがあるのよぉ」
意味がわからない。
映研部の勧誘を諦めていないばかりか、さらに厄介ごとに巻き込もうとしている。勇仲は面倒臭さがより一層増した。
「どっちもお断りだよ! じゃあな」
そう言って踵を返すと、
「待って!」
操は両手で勇仲の右腕を掴んだ。
「……何だよ?」
勇仲はイラ立ちを胸の内に押し留めながら操を視界の端でとらえる。
「無料でとは言わないわ、あなたに報酬を用意したのぉ」
「報酬?」
『モギュッ!』
「――――え?」
右手には柔らかい感触、表面には指を押し返すほどの弾力がある。ほわほわと温かい感覚が手のひらを介して伝わってくる。何が起こったか理解するのに数秒間、
操が自らのふくよかな胸に勇仲の右手を押し当てていたのだ……!
お色気シーン入れてみましたw
まあ現代的なラノベのような雰囲気を出したかったので
軽い目で見てくださいw
次回から物語が大きく動き出しますよー……
2021年7月17日土曜日にて修正