特撮大好き英房操
あらすじ
勇仲は入学直後に映画監督の少女、操から
映画研究部への勧誘を受けるが断る。
『ガラッ』
昼休みが半分過ぎた頃、生徒会室の扉を開いた勇仲。
しかし、そこには誰もいなかった。
「っんだよ、自分で呼んだくせに」
呼び出しを受けてから、やって来るのが早すぎたようだ。
勇仲は革製のソファーにドスッと音を立てて腰掛ける。
室内を見渡すと、校庭に面する窓は腰の高さから天井まで達していて日当たりは抜群。入口から向かって左の壁には、本やファイルなどの書類がぎっしりと詰まった棚があり、右にはオフィス用の白いパソコンデスクの上に、大きな段ボール箱がきれいに並べられている。部屋の中央には二つの革製のソファーを挟んで、高級そうな木製のテーブル。窓を背にして鎮座する黒い光沢を帯びた木製の執務机からは、まるで政治家が使っていそうな無駄な重々しさを――
「んん?」
机の上のあるものが勇仲の目に留まった。
生徒会室に、というより学校に全くそぐわないものがズラッと並べられている。
特撮ヒーローの、フィギュアだ。
オーソドックスな五人一組のレンジャー。
バイクに乗って戦う仮面のヒーロー。
はるか宇宙の果てにある、なんちゃら星雲よりやって来た巨人のヒーロー。
蜘蛛やら蝙蝠やらがモチーフの肉体美が特徴的なアメコミヒーロー達。
スポンサーロゴを背負って戦うバディヒーロー。
幼い頃に見た覚えのあるもの。最近流行りのもの。知らない世代のも。……等々、バラエティに富んでいる。ハード〇フで売ったらかなりのお小遣いになるだろう。
机には閉じたノートパソコンが置かれており、それをおびただしい数のフィギュア達が左右から挟み込む形で整列していて、全員が机に向かう者を見上げる形となっている。席に着くだけで集中力を削がれそうだ。
おそらくこれらは英房操の私物だ。
彼女は女子でありながら、無類の特撮オタクとして生徒の間でも有名だ。ヒーロー物の映画を作りたいのも、それが講じてのことなのかもしれない。
「自宅に置けよ………おっ?」
その時、一体のフィギュアに目を引かれた。
《獣人戦隊ロアレンジャー》。
動物の能力を手にした主人公達が悪の秘密結社と戦う特撮ヒーローで、勇仲が小学生の頃に放送していたシリーズだ。そのリーダーのウルフレッドのフィギュア。全体的に赤を基調としたボディ、狼を思わせる頭部のペイント。
勇仲は懐かしくなって思わず手に取ってしまった。
頭から足までゆっくりと視線を走らせながら、少しだけ幼い頃を思い出し――
「気になるのぉ?」
「うおっ!?」
勇仲は背後からの声にバッとを振り返ると、
「お待たせぇ~」
入り口から生徒会長・英房操がにんまりと口を曲げてこちらを見ている。
(変なところを見られてしまった……)
勇仲は気恥ずかしさを覚え、慌ててフィギュアを机の上に戻した。
「やっ、やっと来たか!」
その場をごまかしたい勇仲は、操から目を背けながら話を逸らす。
「お探しのものはぁ、これかしらぁ?」
「はあ……、やっぱりアンタか」
操がブレザーの腰ポケットから取り出したのは、赤い合成革でできた長財布。
今朝も登校するや否やスカウトにやって来た操を、勇仲は突っぱねた。
その直後に財布がなくなったことに気づいた。
親からもらった昼食代はバッグの中にあるもう一つの財布に保管しているため、差し支えはなかったようだが。
「何が落とし物だ、盗んだんだろ?」
「だってぇ、こうでもしなきゃ相手にしてくれないじゃないのぉ」
操はすねた子供のように唇を尖らせる。この言葉の端々を伸ばすだらしない口調、さっきの校内放送の声も彼女だ。
「さっさと返せ。それとも警察に通報するか?」
「つれないわねぇ。もう少し構ってくれてもいいじゃないのぉ……正城義高君」
「なっ!?」
――――戦慄した。
操は知っている。勇仲が少年役者《正城義高》だと。
この時、勇仲ははっきりと認識した……。この学園において、彼女はせっかく手に入れた勇仲の学校生活を脅かす、
――――――――天敵であるということを。
真面目な勇仲と、ユニークなキャラの操。
上手く伝わってたらいいな。
2021年7月17日土曜日にて修正