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ディライト・イン・トワイライト

あらすじ

蜂須賀学園にはびこる悪事が全て明かされたことを

勇仲達はニュースで見ていた。

その後、操が勇仲をある場所に連れて行くのだが……

「おーい、あんまり張り切り過ぎるなよ!」

「ずっと寝たきりで筋肉が落ちてるの! たくさん歩いて鍛えなきゃ!」

 暖かな夕日に包まれる市立病院の裏にある広場。青々とした雑木林で囲まれており、日当たりは最高で入院患者のお散歩コースとして人気のようだ。

 芝生の上に二つの人影が伸びている。

 二本の松葉杖を両脇に挟んで、よたよたと不安定ではあるが一歩ずつ一生懸命に歩く、薄いピンク色の検診衣の少女。

 そんな少女の一歩後ろに付き添いながら見守る、一際大きな身体で長髪の兄の姿がそこにはあった。

 そしてその兄妹を遠くからじっと見つめる者が三人。

「音々ちゃん、あの件が公けになった途端に意識が回復したそうッスよ」

「随分タイミングがいいというか……三流作家が書いたシナリオみたいな、ご都合主義ここに極まった展開だな」

 勇仲と伎巳が広場に繋がる病棟の出入り口からひょっこり顔を出して、井原兄妹の微笑ましいやり取りをひっそりと見守っている。

「これは必然だったのかも知れないわよぉ」

 二人の後ろで操が白いバラの花束を胸の高さで優しく握りながら言った。

「必然? どういう意味だ?」

「人間の脳はね、意外と強くできているのよぉ? 致命的な損傷でない限り、何度傷ついても再生していくものなの。

 けれどその働きを活発にするにはぁ、周囲からの助けが必要になってくるの。例えば、たくさん話しかけてあげたり、握手したりして体に触れてあげたりとかねぇ」

「それって……病室で井原先輩が妹さんにしていたことじゃねえか」

「そう、とにかく外からの刺激があると脳の働きが促されるわけ。大樹君がそれを知ってか知らずかは置いといてぇ、ずっと音々ちゃんの回復を願ってやってきたことが功を奏したのかも知れないわねぇ」

「アンタ、そんなことまで知ってるのか。脳の働きとか」

「ちょっと前にテレビで聞いたのよぉ」

「受け売りかよ!」

 意識を取り戻してからというもの、音々は驚きの回復力を見せ、意気揚々とリハビリに励んでいた。

 薄暗い病室のベッドで眠っていた時の姿からは想像もできないほどの、快活なオーラに満ちあふれている。少しエネルギーを持て余しているようだが……、意外と活発な女の子だったようだ。

 大樹と音々がふと振り向く。勇仲達の存在に気がついたようだ。

「ねえ、勇仲ちゃん」

「どうした?」

 隣に立った操の呼びかけに、勇仲が目を向けると――

「私ねぇ、()()が見たくって人助けがやめられないのぉ」

 操が指を差した方を、改めて井原兄妹の方を向く。

「あ――――」

 音々は片方の松葉杖を倒すように芝生の上に置くと、さんさんと輝く太陽のような笑顔で勇仲達に向かって大きく手を振った。

 その隣で大樹もまた、木漏れ日のような優しい微笑みを浮かべてこちらを見ていた。


 勇仲は役者として邁進すればするほど、自分が一人になっていくのを深く感じ、憂い、自分の手でその道を閉じてしまった。

 最後には『こんな才能、持たなければよかった』とさえ感じた。

 

 しかし、そうやって忌み嫌って、一度は手放したはずのその力で、他人を救うことができたという事実。


 それが今、目の前にあるということに、枯渇していた心が潤いを取り戻すのを勇仲は確かに感じ取った。

(そっか…………嫌なことばっかじゃなかったよな)

 ――誰かの笑顔が見たかった。

 ――誰かの希望になりたかった。

 ――ただそれだけだった。

 ――――それこそが勇仲が憧れたヒーローだったのだ。

「どう、頑張った甲斐あったでしょ?」

 操から温かく優しい眼差しを向けられ、勇仲は笑みを隠そうと唇をグッと結ぶ。その後に軽く息を飲むと、

「まあ、――――悪くはねえかな」

 深くて長い暗闇のトンネルを抜けた先に見たのは、天空から降り注ぐ星々のような眩い光に満ちた世界だった。


 その至高の喜びを勇仲は浴びるように、目一杯堪能するのだった。 


勇仲の成長を感じさせる回にしたつもりです。

音々の意識が戻ったことについての操の言葉ですが

だいぶ昔に見たテレビドラマから

インスパイアを受けました。

どれとは言いませんが……。


いよいよ次回はエピローグ、すなわち最終回です。

約一カ月長かったような短かったような(´;ω;`)



2021年10月1日金曜日にて修正

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