打ち上げ
あらすじ
準備に取り掛かる勇仲達。
作戦を成功させることができるのか――
午後八時過ぎ。
蜂学の校区から離れた客もまばらなファミレスにて
「かんぱぁ――い! 好きなものを注文してねぇ、今日は私のおごりよぉ!」
「声でけえよ」
操は作戦が思い通りに進んだことで無駄にテンションが高まっている。ドリンクバーのグラスを高らかに掲げ、ご満悦の様子。
一方、勇仲は集中状態から解放され、今までやったことのないタイプの演技をさせられた疲れがまとめて押し寄せてきたようだ。
何はともあれ、作戦は台本通りに遂行した。
蓮川あり奈を夜の蜂須賀学園に呼び出し、井原大樹に成り済ました勇仲が応対する。
伎巳による井原音々の亡霊を装った電話、モスキート音を聞かせてニセの心霊体験を信じ込ませる。
大樹を模したダミー人形で首つり自殺を偽装し、音々の亡霊に扮した勇仲による憎しみのこもった演技によって蓮川にトラウマ級の恐怖を与えた。
作戦が一段落したところで、二人はちょっとした打ち上げをしていた。
「そう言えば、副会長はどうしたんだ? 大荷物を抱えてどっかに行っちまったけど」
「伎巳ちゃんは事後処理を頑張ってくれてるわぁ。今頃スマホの解約とか、衣装やダミー人形の処分をしているはずよぉ」
「あれ全部捨てちまうのか? もったいねえな」
「仕方ないわぁ、どこで足がつくかわからないものぉ」
大義名分こそあれど、蜂学に忍び込んだ行為は手放しに誉められたものではない。万が一にもバレるようなことがあってはならない。
「あ、事後処理といえば……」
「んん、勇仲ちゃん?」
勇仲がズボンのポケットから一枚の紙を差し出した。
「賄賂女を呼び出すのに使った手紙、隙があったから回収しておいたぞ」
「まあ! 素晴らしいわ勇仲ちゃん、期待以上の働きよぉ!」
「証拠は残さねえに越したことはねえだろ? 詰めが甘いよアンタら」
蓮川がモスキート音で苦しむ間、勇仲には若干の心の余裕があったようだ。
操が頭を撫で回すのを、勇仲はサッと振り払う。
「上手くはいったけどなあ、もっと楽な方法を使ってもよかったんじゃねえのか?」
「え、例えばぁ?」
「わざわざ俺が井原先輩に成り済まさなくても、先輩本人にやってもらうんじゃ駄目だったのかよ。肉襦袢を使っても、身体を大きく見せるので必死だったんだぞ」
「そんな単純なことなら苦労はないわよぉ。本人を起用してもぉ、台本通りに蓮川を誘導できなければ意味がないわぁ、それにぃ――」
「それに?」
「フフフッ、彼にはもっと重要な役割を任せてあるのよぉ」
「重要な役割?」
「いずれわかるわぁ、フフフ……」
「…………そうか」
不敵な笑みを浮かべる操、――きっと何か狙いがあるのだろう。勇仲はそれ以上追及はしなかった。
「とにかくぅ、あとは結果を待ちましょう」
「あそこまでさせておいて、失敗とかだったら許さねえからな!」
そう、作戦はまだ終わってはいない。
蓮川をただ懲らしめただけでは駄目だ。
悪事を暴くことが目的なのだから。
ここまでは前準備に過ぎない。――――数日後には結果が出ている頃だろう。
(うまくいきますように――)
そう心で願いつつ、勇仲はファミレスのメニューを開くのだった。
混乱している人もいると思うので捕捉。
今わかっていないことは
このあとに蓮川、蜂学の悪事をどう暴くのか?
操がわざわざ勇仲に大樹を演じさせた理由。
これらがこの後の話で明らかになるので
もう少しご自愛ください。
2021年9月24日金曜日にて修正




