怪奇譚のメイキング後編
あらすじ
勇仲達は作戦のための打ち合わせるする。
最初に取り掛かったのは、作戦の舵取り役となる大樹に扮するための役作り。
勇仲は土日をフルに活用する。大樹を呼び出し、会話など通して積極的にコミュニケーションを取った。
大樹の内面が反映された表情、しゃべり方、声色、仕草。加えてこの時大樹の根幹にあるべき感情。妹を気遣う優しさ、蓮川への怒りと憎しみ、小心者の人柄に隠れたほんの少しの反骨心。それらを脳内にインプット。
実際に動いて言葉を発して操の前で演じて見せる。その上で助言を受けて、本物との誤差を埋めていく。
二日を費やし《雄方勇仲》の精神の中に、《井原大樹》という人格が構築された。
平日になり昼は授業、放課後は作戦への準備に励む。
音声、小道具の作成。
大樹が持ってきてくれたホームビデオ。参照するのは主に音々が蜂学に入学してから事故の起こる十月まで。それらをもとに伎巳は自らの声をベースに、音々の声をパソコン編集で再現する。音声編集ソフトに取り込んで、ほどよく歪みを加えることで心霊的なおどろおどろしさを演出した。
ダミー人形には、石膏で大樹自身の顔から型を取った仮面を作り、伎巳が塗料でペインティングしたものを張りつけた。気持ち悪いくらいリアルな仕上がりだ。
衣装を用いての稽古。
勇仲は肉襦袢を着用し肩の張りを意識、より体を大きく見せるように心掛ける。シークレットシューズを履いて廊下を走り、階段を駆け上がる際にも自然かつスムーズに動けるよう、放課後に玖成学園内の階段で練習。自分の心に、身体に、呪文をかけるかのように何度も何度も反復する。
さらに蓮川を誘導するまでのシミュレーションも行なった。
一階で吊るされた大樹を模したダミー人形に蓮川が恐れおののく間、勇仲は二階で操達と合流。大樹の扮装を解いて次の役へと移行する。
カツラ、眼鏡、顎に盛ったシリコンを取る。
塗り足した太い眉、肌の色の調整に使ったメイクを落とす。
喪服から蜂学の女子制服に早着替え。
真っ白なドーランと血糊で死に顔メイクを施す。
音々そっくりのショートヘアのカツラを被る。
もたもたしていると蓮川が逃げてしまう。時間との勝負だ。
それからいよいよ、この作戦の総仕上げ。
階段落ちでの登場の際には体を丸めて頭を守りながら転がり落ちる。怪我をしないよう注意を払うのはもちろん、少しでも派手に見えるように大きな音を意識。
そして最後のとどめ。ゆっくりと起き上がりながら井原音々として、蓮川への憎しみの声を上げる!!
最後まで不安が残ったのが音々になるための役作り。
本人が植物状態である以上、参照できる情報は限られている。
井原家のホームビデオで、学校行事などの姿は見れたものの、細かいところまで深掘りできているか勇仲には確信が持てなかった。足りない分は想像で補うしかない――。
こうして、一週間に渡り行なわれた予行演習を終えた勇仲達。
「勇仲ちゃん、調子はどうかしらぁ?」
「上々だ。一流の役者は台本の持つポテンシャルを最大限に引き出す。上手くいかなかったとしたら、それは台本が悪かったということだ」
「あらぁ、言ってくれるわねぇ。もちろんこちらも抜かりはないわ。作戦は日曜日の夜に決行よぉ。覚悟はいいわね?」
自信に満ちた表情で悠々と語る勇仲達。
やるべきことも、できることも、全てやってきた。
あとはイメージ通りに芝居を展開できるかどうか。
誰も何も恐れてなどいなかった。
元天才役者と美少女映画監督、最高の二人が手を組んでいるのだから――。
以上が勇仲達の作戦の種明かしでした。
この段階では「あれ? おかしいな」と思うところも
あとから明らかになっていくので、見守ってください
(o*。_。)oペコッ
あと、この回はアップする直前で
気になるところをいろいろ修正しました。
おかしなところがあったら後日修正するかもしれません。
2021年9月24日金曜日にて修正




