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怪奇譚のメイキング前編

あらすじ

音々の亡霊からの恨みの声に

蓮川は絶叫しながら逃げ出した。

この日起こった出来事は全て

勇仲達による芝居だったとも知らずに……。

 作戦決行の九日前。

 勇仲達は土曜日にも関わらず、玖成学園の生徒会室に集まっていた。

「フ~ン、フンフフ~~ン」

 伎巳は膝立ちになってテーブルの上でノートパソコンを立ち上げている。イヤホンをして音楽を聴いているのか、鼻唄まじりに画面を見ながらマウスをいじっている。いつも通りの眠たそうな目蓋だが、それでいて上機嫌だ。

 そしてテーブルを挟んで勇仲は操と向かい合ってソファーに座る。

「それでは作戦会議を始めるわよぉ。台本は読んでくれた?」

「ああ、とんでもねえことを思いつくよなあ……」

 先日、勇仲はA5サイズで十数ページ程度の小冊子を操から手渡されていた。

 それにはこれから行われる作戦の詳細が描かれていた。

「じゃあ作戦の確認するわよぉ。気になるところがあったら何でも聞いてねぇ」

 操は『コホンッ』と咳ばらいをすると、

「知っての通り。この作戦の目的はぁ、蜂須賀学園の揉み消された悪行を暴くこと。舞台になるのは蜂学の旧校舎の一階。音々ちゃんが蓮川に突き落とされた現場よぉ。

 ここには伎巳ちゃんに偵察(ロケハン)に行ってきてもらったわぁ」

「はい、こちらが夜中に忍び込んで撮ってきた旧校舎内の資料写真。それからおおよその見取り図を作ってきたッス!」

 伎巳はドヤ顔で小冊子の後ろから三、四ページの参考資料の項を開いて見せびらかす。

 作戦時に立ち入るであろう、旧校舎内の教室や廊下などの写真が印刷されていた。

 パソコンで描かれた一階の見取り図は、方眼紙の上にレイアウトされていて距離感が掴みやすい。

「忍び込んだのか。バレてねえだろうな?」

「無論ッス。旧校舎周辺には監視カメラが設置されていなかったッスから、思いのほか難しくはなかったッスよ。念のため紙袋を頭に被って侵入したんスけど……」

「銀行強盗か」

 Vサインを向ける伎巳を勇仲は呆れた目で一瞥する。

 監視カメラの機能を維持するだけでも予算がかかる。蜂学も捨て置かれた旧校舎の警備までは、気が回らなかったのだろう。

 こちらとしてはお誂え向きだ。

「まず蓮川の自宅の郵便受けに手紙を送ってぇ、蓮川を旧校舎に呼び出すの。勇仲ちゃんには、――――()()()()()()()()()()蓮川を誘導してもらうわよぉ」

「いや、無理だろ?」

「あらぁ、どうしてぇ?」

「どうしてじゃねえよ! 井原先輩と俺とじゃ体格が違いすぎるだろ!?」

 大樹は蜂学から追い出される前まで、その恵まれた体格によりバスケットボール部のスタメンを務めていたほど。

 勇仲との身長差は少なく見ても十センチ以上あり、肩幅にもかなり差がある。

「ああ、それなら大丈夫よぉ」

「これの出番ッスね!」

「うお! 何だよそれ!?」

 伎巳はスーツケースから引っ張り出したのは、肌色のゴツゴツとした厳めしい筋肉がデコレーションされたボディースーツだ。

「この作戦のために用意した肉襦袢ッス。肩と背中に綿を詰めてあるんで、これを着れば肩幅を補正してくれるッスよ。あとはシークレットシューズを履いて、足りない身長差も補完すればいいッス」

「そのスーツケースは四次元ポケットか何かなのか?」

 お笑い芸人のコントの小道具のようなふざけた見た目はともかく、確かに体格差の問題はある程度緩和できそうだ。

「それから顎にシリコンを盛ってぇ、輪郭を整えたらメイクで肌の色を微調整。最後に長髪のカツラと眼鏡を身につけたら完成よぉ」

「……………………大丈夫か?」

「見た目のことは私達に任せてぇ、勇仲ちゃんは内面の再現に集中してちょうだい」

 これは元役者の勇仲から見ても前代未聞の試みだ。

 物語の上での架空の人物になりきるのとはわけが違う。

 実在する井原大樹という一人の人間になりきる。それも本人と面識のある蓮川に気づかれないレベルの再現度が求められる。

 どう転ぶかはやってみるまでわからない。

「そしてぇ蓮川を教室まで呼び出して告げるの。『井原音々が死んだ』――と」

 ――――生徒会室を二、三秒の沈黙が通り過ぎる。

「……それ、嘘だよな?」

「当たり前でしょ。もちろん蓮川も最初は真に受けたりはしないでしょうけどぉ、それは想定内。

 それからこの作戦のためだけに契約したスマホを使ってぇ、伎巳ちゃんが死んだ音々ちゃんになりすまして蓮川に電話を掛けるのぉ。音々ちゃんそっくりに、パソコンの音声編集ソフトで加工した音声でねぇ」

 操が一つのスマホをスカートのポケットから出して言った。

「電話を掛ける? 賄賂女の電話番号は知ってんのか?」

「ええ、大樹君のスマホの電話帳に残ってたわぁ。音々ちゃんが蓮川と仲良くなったのをきっかけに交換したそうよぉ。その時はまだ蓮川が本性を見せてなかったらしいけど」

「そうだったのか。賄賂女め、墓穴を掘ったな」

「大樹君のお父さんが使ってたホームビデオを借りれることになったからぁ、過去の音々ちゃんの動画を参考にそっくりの声を作る。

 私達は二階で待機しているからぁ、今回も雄方君の服の胸ポケットにカメラとマイクを装着しておいて、タブレットで部屋の様子を見ながら電話するタイミングを合わせる。

 そしたらぁ、ここで……秘密兵器の登場よぉ!」

「秘密兵器? 肉襦袢の他にも何か――」


『ビリビビビビビビビイイィィ!』


 突如周囲を羽虫が飛び回っているような音が部屋の空気を劈いた。産毛が震え立つかのごとく、なんとなく不快な気分になる音だ。

「ん、何の音だ? …………あ?」

 その時だった、――勇仲は突然自分の身体の調子がおかしいと感じた。

 目がチカチカする。

 息が苦しい。肺が酸素を受けつけなくなったかのような感覚。

 突然の不快感の中、音の出どころを探ろうと耳を澄ますと――、伎巳の近くから聞こえてくることに気づく。背後に回り込むと、ノートパソコンの画面内で何かの音声ファイルを開いているようだ。

「ちょっ……何だよ、これ」

 さらに異変は続く。

 次第に頭の中がグラグラと揺れるのを感じる。うつむいて腹を抱えながら急激な体調の変化に耐えようとする。だんだん胃の中が煮えたぎるマグマに焼かれるように、吐き気を催し――

「伎巳ちゃん、もういいわよぉ」

「はいッス」

 伎巳はマウスでクリックし、謎の音声ファイルを止める。するとその瞬間、勇仲を取り巻いていた不快感がスッ……となくなっていった。

「お?」


リアリティと嘘のバランスが大丈夫か

正直書き終えた今でも不安です。

まあ物語の整合性が多少取れてなくても

面白いと思ってくれれば

ラッキーだと思ってます(*´ー`)



2021年9月24日金曜日にて修正

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