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幻だった怪奇譚

あらすじ

蓮川がたどり着いたのは

半年前に音々を突き落とした場所だった。

すると階段の上から人影が

転がり落ちてきた!

 肌はところどころ打撲傷のように青黒く変色している。手足の関節をカクカク揺らしながら、揺らめく陽炎のごとく立ち上がる。黒髪のショートヘアは赤黒い血でべっとりと汚れていて、制服の襟元にまで飛び散っている。

 目の前に広がるその光景は、まごうことなき蓮川が犯した罪の再演。あの日、全てを奪われた井原音々そのものだった。

「お……オお……」

 音々の亡霊は少しずつ言葉を発し始める。


「なんで……? ワタシ…………死ニたく……なカッた」

 ドクン!


「許さナい…………恨む……呪ウ……」

 ドクン!


「償え…………ないな……ラ……」

 ドクン!


「お前も……地ごくニ…………落ちロ!」

 ドクン! ドクン! ドクン! ドクン!


 もう鼓動がいうことを聞かない。『誰かこの心臓を止めて』、そう言わんばかりに蓮川は両腕で胸を押さえる。それでも鼓動はより深く、より強く鳴り響く。

 過呼吸気味の肺を上半身の筋肉で押さえつけようとする。それでも呼吸は嵐のように荒れ狂うばかり。

 蓮川は今この瞬間、自らの過ちを心底後悔した。

 緊張で思うように声すら出なくなり、心の声で必死に許しを請う。

 ――悪いのは私です。

 ――許してください。

 ――――――――もう、誰もいじめたりしませんから。

 そんな懇願も空しく音々だったものは、へたり込む蓮川をギラギラと殺意に満ちた眼光で見下ろし、言い放った――


「一緒に――、死ねえエええエエえエえええぇェぇェぇぇぇェぇぇぇ!!」

「ぎぃああああああぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 大罪人に裁きを下さんとする処刑人の刃のごとき、重く、冷たく、鋭利な、井原音々の亡霊の怨嗟の声。

 それに呼応し、絶望の中で首をはねられるその直前まで、必死に情状酌量を乞い願うかのような、蓮川あり奈の号哭。

 地の果て、宇宙の果てまで届くのではないかとさえ思える、二人の魂の叫び声が旧校舎中にこだまする。

 蓮川はすぐそばのアルミ製の扉から飛び出す。胸の高さほどある金網のフェンスを忍者のような速さでよじ登って道路へ。

 涙、鼻水、よだれ、顔から出るあらゆる液体を盛大に垂れ流しながら泣き叫び、蜂須賀学園に背を向け、両腕を大きく振りながらとにかく逃げる。

「助けてえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」

 叫び声も遠のいていき、旧校舎は再び静けさに包まれた。

 大樹の遺体が風に揺られて、配水管と大樹の首を繋ぐロープがギシギシと軋む音だけが鳴り響いている。

 ポツンと取り残された音々の亡霊は、ただただ物静かに佇んで――


「オッケーよぉ、お疲れ様ぁ!」


 上の方から何者かがパチパチと拍手をしていた。

「台本通りッスね、お嬢!」

「当然よぉ、キャストがよかったものぉ」

 上の階から伎巳がノートパソコンとタブレットを小脇に抱え、操と談笑しながら階段を降りてきた。

「ああ、そうそう。もう着替えていいわよぉ。……勇仲ちゃん!」

 操にそう言われると、音々の亡霊が自分の血まみれの頭。――もとい、カツラを外した。

「ふぅ~~~~、しんどかった!」


 カツラの下から出てきたのは、――――一仕事を終えて緊張から解放された勇仲だ。蓮川と接していたのは、音々になりきった勇仲だったのだ。


「女装は二度とごめんだよ、ったく」

「ちょっと雄方君! こんなところで剥がしたら駄目ッスよ! 痕跡が残っちゃうじゃないッスか!」

 勇仲が手の平で顔を擦ると、乾いた血糊がポロポロと剥がれ落ち、伎巳がそれを慌てて拾い上げる。

「すぐに撤収するわよぉ。勇仲ちゃん、()()降ろすの手伝ってぇ」

「へいへい」

 二階から操は自分の股下ぐらいの高さの脚立と、高枝切りばさみを持ってくる。

 吊るされた大樹の真下に脚立を置く。勇仲がそれに乗って高枝切りばさみを手渡されると、大樹の首と天井付近の配水管を繋ぐ縄をジョキジョキと切る。

『ドサァッ』

「しっかしマヌケだよな、あの賄賂女め。()()()()()を死体と見間違えるなんて」

勇仲はしたり顔で、床に落ちた()()を見下ろす。


 蓮川が大樹の遺体だと思ったものは、――ウレタン素材でできたダミー人形だ。


「アンタが初めてだぞ。今日みたいなめちゃくちゃな演技を要求した監督は」

「勇仲ちゃんならやり切ってくれると思ったから要求したのよぉ。実際、期待を上回る働きをしてくれたものぉ」


 ――――今宵の怪奇譚はフィクションです。――――


 もちろん井原大樹も、井原音々も、誰一人死んでなどいない。

 全ては蓮川あり奈、並びに蜂須賀学園の悪事を暴くべく、操が作り上げた壮大な作戦(シナリオ)であり、種も仕掛けも満載だ。


全部ドッキリでしたー……的な回でした。

まんまと騙された人、予想が付いた人、

どれくらいいるでしょうか?

次からこの夜起きた怪現象の種明かしをしますよ( *´艸`)。



2021年9月17日金曜日にて修正

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