みんなの夢
あらすじ
放課後に生徒会に呼び出されなくなった勇仲。
蓮川への憤りを募らせ、自らの過去を振り返る。
《劇団ひいらぎ》。
一九五〇年創設。
新聞やネットで入団希望者を募り、芸能事務所の管理下のもとにレッスンを通して演劇に必要な技術をレクチャーする。優秀な者には芸能活動が許される。
舞台や映像作品に必要な実践的な演技、歌唱力、ダンス、日舞、アクションといった多種多様なレッスンの中に組み込まれている。
役者、アイドル、タレント、モデル、声優、多方面にわたり、芸能界に優秀な人材を多数輩出している。
当時六才だった雄方勇仲は、ミーハーな母親の思いつきで劇団に入れられる。
同じ劇団の仲間と共に芝居の楽しさに目覚め、昼は学校、放課後はレッスンという目の回る忙しさの中、日々奮闘していた。
「おーいみんな、始まるぞー!」
「はーい」
講師の呼びかけに勇仲を含めたクラスの五人が集まる。同期のみんなには共通の楽しみがあった。
レッスンを終えるとフリータイムが設けられており、それぞれがDVDやブルーレイなどを持ち寄って観賞する。小中学生向けの映画や女児アニメ、着ぐるみキャラが主役の教育番組、中でもみんなが揃って熱中していたのが《獣人戦隊ロアレンジャー》当時放送していた大人気特撮ヒーローだった。
殺陣のレッスンを見学していた影響もあり、アクションシーンが魅力の特撮ヒーローはみんなの興味を惹いた。
そんな中、勇仲がみんなの前でこんなことを言い出した。
「おれ、やくしゃになったらヒーローになる!」
その時は漠然と言っていたが、しばらくして――
「さ……さなかくん」
「ん? どうしたんだあやちゃん」
「わたしも……なりたい、ヒーロー……」
そう言ってきたのは同期のあやだ。黒いおさげ髪に丸いレンズのグリグリ眼鏡をかけた女の子だ。
「え? ほんとか!?」
勇仲は驚いた。あやは同期の中では一番大人しくて、これまで自分から話してくることはほとんどなかった。
けど、だからこそ彼女の方から名乗りを上げてくれたことは、なかなか気持ちがよかったようだ。
「そうか、じゃあおれがレッドであやちゃんはピンクだな」
それから数日後、
「おれはブルーをやる!」
さらに数日後、
「あのさ、おんなのやくってピンクしかないの? あたしもやりたいんだけど……」
「おれレッドしかやりたくないんだよな」
運動神経抜群の佑馬。
話し上手なゆるふわ系女子の沙織。
人を笑わせるのが大好きな吉次。
勇仲とあやに触発されるかのように、クラス全員が集まってきた。その思いは日を追う毎に確かなものになっていく。
『みんなでヒーローを演じる』
生まれて初めてできた友達と約束した、生まれて初めてできた夢だった。その頃の勇仲には目に映るもの全てが輝きに満ちていた。
そう、――――――――まだこの時は。
結論からいうと、この約束が果たされることはなかった。
まだ誰も知らなかったのだ。役者として生きていくことが、どれだけの苦労を伴うかを。
五人を待っていたのは、たとえ子供だろうとお構いなしに飲み込んでいく、この世界の厳しい現実だった。
回想に入りました。
不穏な感じで終わりましたねw。
主人公には試練を与えたくなっちゃうのが
僕の作り方なんですよ。
2021年8月28日土曜日にて修正




