表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/45

大きな体に小さな度胸

あらすじ

アンケートの結果を見て

違和感を覚えた操が

再調査をすると宣言するが……

――玖成学園の玄関にて、

「勇仲ちゃーん、準備できたぁ?」

「別に待ってなくてもいいって……」

勇仲が下駄箱の前で上履きからスニーカーに履き替えていると、操が数列向こうの下駄箱の方から茶色のレザー素材のスクールバッグを片手に駆け寄ってくる。

 勇仲は生徒会の活動以外、操達と干渉する気はさらさらないようだ。

 それなのに操は否応なしに話しかけてくる。

「いいじゃないッスか。どうせ最寄り駅までは同じ道なんスから」

 遅れて伎巳がやって来るのに気づいた勇仲だが、あるものが目に留まる。生徒会室や潜入調査の時にも見たスーツケースだ。伎巳はそれを下部についた四つのキャスターの音をゴロゴロと立てながら引いていた。

 伎巳の小さな体との対比で、遠近感がおかしいというか、どこにでもあるサイズのスーツケースのはずがやたらと大きく見える。

 おまけに背中には迷彩柄のリュックサックまで背負っていて、かなりの大荷物だ。

「アンタ、それいつも持ち歩いてんのか?」

「ええ、いつでも小道具の手入れができるように手の届く所に置いてあるんスよ。カツラとか衣装とか」

「教室にまで持ち込んでんのか? 邪魔くせえな」

 玄関から出てグラウンドを横断する形で、向かいにある校門へと三人は歩く。

 日光が夕焼けに変わる境目の時間。

 校庭ではサッカー部がランニングをしたり、野球部が声を上げながらキャッチボールをして汗を流している。

「それで? やり直すにしたってどうするんだよ? まさか、蜂学にもう一度潜入させたりしねえよな?」

「そんなことしないわよぉ。同じ場所で同じ形式の調査をしたところで、同じ回答が返ってくるだけだもの」

「俺にかかる負担は一切気にかけてはいねえんだな……」

 勇仲は声を低くしてぼやく。

「調査の指向を変えるにしても振り出しねぇ、どうしたものかしらぁ?」

 操が顎に人差し指を当てながら思考を巡らせている、――――その時だった。


「なめてんのかコラア!」

「「「?」」」


 学校の外から天を突くような怒号が聞こえる。校門を出て左を見ると、歩道の十数メートル先に二人の人がいる。

 一人は玖成の学生服を着て学生カバンを背負った男子。太くて濃い眉毛、黒縁の眼鏡をかけていて、肩まで伸びた毛量の多い長髪は全体的に毛羽立っていて、荒々しい野性味をかもし出している。ネクタイの色は黄色、三年生であることがわかる。

 そして、そんな彼を学園の塀に押しつける形で、二十代後半くらいの男が怒鳴り散らしている。骨太な顔つき、アロハシャツにチリチリパーマをかけた男。派手だけど安っぽいチャラチャラした格好を好む、いわゆるチャラ()だ。

「そう言われても……謝る以外に、僕には……っ」

「人の足踏んどいてそりゃねえわ。この靴履くの楽しみにしてたんだぞ! 下ろしたばっかなのに! あーあ、こりゃあ弁償だな。十万出せ、十万!」

「十万円、その靴が?」

「馬鹿にしてんのか? 慰謝料込みだ、慰謝料!」

 遠くから様子をうかがう勇仲。

 どうやらチャラ男が靴を踏まれたことに託けて、玖成の生徒からお金を巻き上げようとしているらしい。

 仮にも学校の目と鼻の先で堂々と恐喝。

 怖いもの知らずというか、あるいは馬鹿なのか。職員に見つかれば一発で通報モノだろう。実に短絡的な犯行だ。

 ――と、それはそれとして、

「何だ……この状況」

 さっきから勇仲には変な感じというか……気になっていたことがあった。それは、


 絡まれている玖成の生徒が大男だったことだ。


 身長は少なく見ても一八〇センチぐらいはあるだろうか。人込みにいてもすぐに居場所がわかる高さ。すごんでくるチャラ男もそこそこ高めの身長ではあるものの……、それを大きく上回り、肩幅も広くてがっしりとしたアスリート体型だった。

「自分より小さいやつに絡まれるって、どんだけ気が弱いんだよ?」

 荒々しい出で立ちと体格に反比例して、やたら腰が低い。ちょっと強気に怒鳴りつけてやれば、チャラ男の方から逃げ出しそうな気もするが。

「あれ? 井原(いはら)先輩じゃないッスか?」

「あらぁ、ほんと!」

 勇仲の背後からひょっこり顔を出して、伎巳と操が言った。

「どうした? アンタらの知り合いか?」

「井原大樹(だいき)君、昨日の調()()()()()()よぉ」

「何……だと!?」

勇仲は目蓋をひん剥いた。

(あいつが、あの厄介ごとの元凶?)

一瞬恨みが込み上げてきた勇仲だったが、ひとまずそれは後回しだ。

どうしたものか……職員を呼びに行くべきか?

思考を巡らせていると――

「大変だわぁ、早く助けなきゃ!」

「ち、ちょっとお嬢! 何する気ッスか!?」

今にも恐喝の現場へと突っ込んで行こうとする操を、伎巳が慌ててブレザーの裾を掴んで制止する。

「はあー、また厄介ごとか……」

首に繋がれたリードを引き千切らんとする猛犬のごとき操の勢いを見て、勇仲は諦めたかのように腹を括るのだった。


大樹のキャラはギャップを意識して作りました。

身体が大きいのに気が小さい。

ここからの物語の鍵を握るキャラになっていきます……。




2021年8月14日土曜日にて修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ