マクロストーリー
このゲームはかつてマクロ&チートのすくつだった。
恐らく今はマクロ&チートはそこまで多くない筈だ。マクロで利益を得ることができなくなるほど過疎化が………ではなくメイプルストーリーの運営が極めて有能であるが故に減少した。きっと。たぶん。
現状のメイプルストーリーはエアプである僕が妄想で語っているだけなので適当ぶっこいているが、最低でも全盛期よりはマシになっているはず。
ではそんな僕が憂う全盛期のメイプルストーリーがどんなだったかと言うと……地獄だった。彼らが得意とするスキルをここに列記しよう。
・自動化
中の人はいない。何十、何百、何千と言う規模のアカウントを並行して稼働できる。
・無敵
ダメージは受けない。マクロの操作が少々失敗しようが死ぬことだけは絶対に無い。回復アイテム等も不要。
・引き寄せ
フィールドにいる全てのモンスターが自動的にプレイヤーの目の前に集まってくる。ヘイトを稼いだから寄ってくるとかそういう次元の話じゃない。例外なく全てのモンスターがぴゅーんって飛んでいく。そのまま範囲攻撃で圧殺される。
・瞬間移動
同じマップ内であれば自由に瞬間移動できる。広大なマップの端に移動ポータルがあるとしても彼らは1秒でそこに移動できる。これによってマップの超高速巡回を行う。
最強かな?
メイプルワールドのあらゆる場所に遍在し、あらゆる場所に一瞬で移動。距離に関係なく攻撃が当たる。というか相手が当たりにやってくる。ダメージを受けない。
ひれ伏せ、これがチートだ。
全属性魔法適性がどうたらとか経験値取得効率10倍がどうたらとかいう小説にチートチートと騒ぐ哀れで愚かなストレイシープ共がいるらしいが、僕からすればそんな物はチートでも何でもない。
こいつらが本当に一切の誇張なくどこにでもいた。良さそうなアイテムをドロップする狩場は例外なく彼らがいる。幸いにして彼らがいるマップはモンスターがびゅんびゅん謎の移動をしながら引き寄せられていく怪奇現象が発生するのですぐにわかる。そうしたらもう仕方ないのでチャンネルを切り替えるしかない。
そうしてぶつぶつ文句を言いながらチャンネルを切り替えると、当然のようにいる。彼らはメイプルワールド全てに偏在する存在。チャンネルを切り替えても無駄なのだ。
さらに彼らの迷惑は狩場の独占だけに留まらず、チャット欄まで荒らす。
マクロやチーターかチャット欄を荒らす理由は無いと思うかもしれない。しかし、彼らの行動の結果として意味のわからないレベルでログが流れていく。
[祝い]jdgddgg様が200レベルに達しました!
[祝い]lhh59ih様が200レベルに達しました!
200レベルとは当時におけるカンストレベル。つまりメイプルワールドにおける歴戦のプレイヤーである事の証左だ。そのためわざわざサーバー内でログを流しながら祝ってくれる素晴らしい機能がある。ただし、祝われるのは殆どマクロ勢のみ。彼らのキャラクターネームは決まってランダムな文字列なのですぐにわかる。
こうして歴戦のプレイヤーがバーゲンセールのように量産されていき、その度に運営が手ずからお祝いしてくれる謎の日々が続く。摩耗していくプレイヤー達。彼らがマクロである事は火を見るよりも明らかなのにいつまで経っても消えない。あるいは消えてるかもしれないけどその度に量産されていくのだろう。
そしてランキングが独占されていく。上位に連なる謎すぎるネーミングのプレイヤー達。こうして数々のランカー達が記載されるランキングページは実質的にマクロプレイヤーを一覧表示できる素晴らしいシステムとなった。
僕は度々バグを利用してダーティなプレイを続けてきたが、それでもチートをしたことは無い。腸が煮えくり返る。許せない!クリスマスプレゼントを1人で独占するなどという最低最悪の行為を行いながらもそれを棚にあげて怒りを顕にする僕。しかし、どうしようもない——
——いや、
そんな彼らに対抗できる唯一の手段があった。
『マクロ探知機』だ。
『マクロ探知機』とは簡単に説明するとログインとか会員登録の時に出てくるアレだ。人間にしか解けない感じの問題を出して解けなかったらマクロとして認定し、自動的に街へ帰還させる。明文化されてはいないけど、恐らくは失敗すると運営に情報も行くんだと思う。なんにせよこれを使えば狩場を独占するマクロ共を撤退させる事ができる……!
僕は意気揚々と探知機を起動、プレイヤーネームを入力する画面が出てくるので謎の文字列を入力していく。さあ、試験の開始だ。人間様にしか解けないとっておきの難問、貴様に解けるかな?
そして数十秒の時が流れ、唐突に消え失せるマクロプレイヤー。
……勝った……勝った!勝てるんだ!僕らはマクロに勝てる!諦めなければ明日はある。これが僕らのMMO!(タイトルコール)
そして数秒後、ワープして戻ってきて再び狩りをし始めるマクロさん。
マクロは探知機の出す問題を解くことは出来ないが、街から一瞬で戻ってくる事はできるらしい。
完
余談
この『マクロ探知機』、実は人類にとっても難しい。というよりは狩りの途中に唐突に現れる問題に対応できないのだ。キーボードで答えを入力したくてもその間はモンスターに対抗出来なくなるから安全地帯に移動する必要がある。安全地帯が無い狩場もあるが、その場合は無防備の状態で攻撃を受け止めながら回答を入力しなければならない。
と言う事で、明らかに中身入りとしか思えないプレイヤーを探知機に入力してやると、普通にマクロ認定されて吹っ飛ぶ。あるいは問題には対応できるのに無防備で攻撃を受けたせいで死ぬ。そうして空いた狩場を横取りするという恐るべき残虐行為が度々行われていた。ちなみに現代のマクロは探知機の問題を解ける。
人間って雑魚だわ。