対人はなくてもPKはある
『モンスターカーニバル』が対人でも何でもないよくわからない談合を行うコンテンツであることは説明したが、実はこのゲームにもPKがある。
そう、MPKだ。
Monster PlayerKill。略称MPK。なろうに置いてはゲーム系以外においても馴染み深いワードかもしれない。よくトレインとかそういうワードが出てくるからね。
メイプルは横スクロールRPGであり、モンスターをマップ外に引き連れて誘導したりすることは出来ないのでそういう類のPKは無い。狩りをする際には纏めて敵を倒したほうが都合がいいが故に、モンスターが群れをなしてプレイヤーを追いかけている構図が見られたりもするが……。別に1匹でも複数匹でも受けるダメージに大した差が無い以上、その行列に巻き込まれて死ぬようならわざわざそんな場所に来たお前が悪い。
メイプルにおけるMPKとはそんな生温い代物ではない。陰湿かつ極悪なプレイヤーによって行われる不意を狙った残虐行為である。
その前にこのゲームにおける『狩場』の概念について説明しなければならない。
もしかしたら未プレイの方の中でもメイプルストーリーについて風の噂で聞いたことがある者ならこの言葉を知っているかもしれない。
「横やめて」
メイプルストーリーは基本的に1エリア1人独占制。もし自分が経験値効率の高い敵を倒しに行ったとして、そこに先客がいたら一緒に狩りをしてはいけない。チャンネルを変えなければならないのだ。(グループ狩りを除く)
そういった状況において、無言で挨拶もせずに同じマップで狩り始めるのが『横狩り』という行為。
なぜこのワードがメイプルストーリーのプレイヤー以外にも浸透しているかというと、『横狩り』という概念はメイプルが他のゲームに輸出したものだとされているからだ。
もちろん他のゲームでもプレイヤーが攻撃してるモンスターに対して他人が一緒に攻撃する事はマナー違反であることが多い。システムにもよるけどね。こういうのは『横殴り』と区別されることがある。
しかし同じマップの関係ないモンスターを倒す行為までマナー違反と定義するのは、メイプルのシステムと効率の追求が生み出した独自の概念である事は間違いない。
メイプルは子供……今風の言葉にするとキッズが遊ぶMMOの登竜門的な立ち位置だった事もあり、メイプルでネットマナー(死語)を学んだThe子供が他のMMOの広大なマップを独占しようとした事によって広まったとされている。
もちろんメイプルにおいては『横』をされると効率が悪いのでマナー違反ということでまあ間違いないだろう。
話が明後日の方向に飛んでしまったので軌道修正しよう。とにかく先客がいたのでチャンネルを変えたのだ。
チャンネルというのは簡単に言えば全く同じ構造をした別マップがたくさん用意されているという仕組みのことで、チャンネルを変えれば同じ敵が出現する先客が居ないかもしれないマップに飛べるという訳だ。
しかしそこでもプレイヤーは狩りをしている。チャンネルを変える。狩りをしている。チャンネルを変える。狩りをしている。
チャンネルはサーバーにもよるが基本的に多くても20個くらい(超適当)なので、そのマップで狩りができるのは20人までと言う事になる。
別に同じマップに拘らなければ何処でも敵は出るのだけど、20個のチャンネル全てに先客が居るようなマップは逆説的に言えば経験値効率がいい最強のマップと言う事。
どうしても狩りがしたい。そう思いながらチャンネルを変えていくと……見つけた。狩りをしているプレイヤーがいない場所だ。
しかし、先客自体はそこにいた。
モンスターの出現しない安全地帯。そこに椅子を出して腰を降ろし、五目並べの対戦パネルを表示させながら放置を行っているプレイヤーが1人。
五目並べは対戦相手を募集すると露天のようにキャラクター上部に吹き出しが表示される。つまり、吹き出しにメッセージを書くためのツールとしても利用されているのだが、今回はその吹き出しにこう記されていた。
『横やめて』
意味がわからない。
何が横なんだ?
あなた、放置してますよね?
理屈はわかる。このゲームは1MAP1プレイヤー制。このプレイヤーはせっかく確保した狩場を取られたくないにも関わらず何らかの事情でゲームを離れねばならなくなった。
だからこそ、苦し紛れの秘策として書き置きを残したのだ。
別にこんな意味不明な書き置きに従う必要はない。放置しているのだから無視して狩っても文句を言われない。しかし、戻ってきたら?正当性が僕にあるとしても面倒なことになる。
服装を見るに、こいつは課金勢のようだ。ご丁寧にも派手なエフェクトが付くかっこいいアバターをフルセットで装備している——恐らくは『拡声器』を使える。
ワールド全体にメッセージを投げ込む『拡声器』。30円の課金によって発言権を得ることができるアイテムだが……。恐らく奴が放置から復帰したらこう叫ぶに違いない。
『hikoyukiは横師です。人気度下げyr』
社会的PKだ。
僕は普段このようなクソみたいな発言を気にすることなどない。他のプレイヤーも聞き流しているだろう。しかし、それでも嫌だ。なんか嫌だ。
特定個人に対してメッセージを送る機能で野次馬が殴り掛かってくる可能性もあるし、このプレイヤーのフレンズ達が一斉に嫌がらせしてくるかもしれない。
PvPはすでに始まっている。相手が反撃の手札を持っているのは間違いない。しかし僕はこの狩場を使いたい。どうする?
そう、潰せばいい。
ここでようやく最初の話に戻る。五目並べの対戦相手を募集しながら椅子に座っている狩場独占野郎。こいつに勝つ方法——それこそがMPKだ。
奴のHPを全損させ、墓ドロさせて街へと帰還させればこの狩場は僕の物。たとえその後に戻って来たとしても、「実際居なかったから仕方ない」で押し通す——!
しかし相手は安全地帯にいる。そもそも安全地帯でなければ放置という行為自体が不可能である以上、当たり前のことだ。しかし、このゲームにはモンスターを打ち上げるスキルが存在している。
「おっと手が滑ったぁ!」
そう言い訳をしながらもスキル『ファイナルトス』を発動。モンスターを打ち上げる事によって上の足場まで乗せてやる。
僕は悪くない。
そもそも『ファイナルトス』自体が狩場では当たり前のように使うスキルなのでMPKをする気がなくてもこの狩場で狩りをする時点でいずれはこうなっていた。
強いて言うなら『ファイナルトス』で打ち上げられる程度の安全地帯で放置したお前が悪い。
理論武装は完璧。勝った——!これでこの狩場は僕の物。貴様は街に帰っておねんねしてな!
『hikoyukiはPKをする悪質なプレイヤーです。人気度下げyr』
あっ。