HP振り替えの闇
メイプルストーリーには『HP振り替え』という史上最強のバグもとい仕様もといテクニックが存在する。
明らかにバグとしか言いようが無い挙動であり、装備やステータスなどという差を超越した性能差をもたらすテクニックなのだが……間違いなく仕様だ。
このゲームはHP.MP.STR.DEX.INT.LUKと大まかに6つの振り分け可能な項目があって、基本的に1つの職業でHPとMPを除く2つのステータスが関わってくる。
『魔法使い』ならINTとLUK、『戦士』ならSTRとDEX。基本的にキャラの攻撃能力は前者ならINT、後者ならSTRによって増加し、もう一つのステータスは命中率や装備の着用条件に関わっていた。
つまり基本的にはこのどちらかのステータスに振るのが王道であってHPやMPになんて振ると火力の無いクソ雑魚ナメクジが誕生してしまうわけだ。
しかしクソ雑魚ナメクジになってしまうとしてもやっぱりHPに振りたいというケースはあって、それでもやっぱり火力も両立したい。
そんな強欲なるプレイヤーのためにNEXON様が用意したのがタイトルにもある『HP振り替え』だ。
詳しく説明するとややこしくなるので前提条件を箇条書きで記す。
・INTが高いとレベルアップ時に増加するMPが大きくなる
・レベルアップ時のHP増加量に関わるステータスは無い
・390円くらい課金すると間違って振ったステータスポイントを1回だけ別のステータスに振り替えることができるアイテムがある
・HP及びMPはステータスポイントを共用しており、HPに振ったあとMPから振り替えられる
最後の条件だけ見れば賢明な読者諸君ならわかるだろう。簡単に言えばINTのステータスを上げて基礎MPを増やし、HPに振る。その後MPからステータスポイントをぶっこ抜けばHPだけが同レベル帯の上位互換になったキャラクターが誕生するのである。
ばーかばーか!!!!
バグにしか見えない。ふざけてる。けれど仕様だ。
なぜならポイントを振り替える事ができる課金アイテムには『キャラクターのレベルに応じた下限値を下回る振り替えはできない』という制約がある。この条件が存在しているが故にINTの効果によってMPを増やすことが不可欠なわけだけど……。
そもそもの話。HPに振った後にHPから引き出す、MPに振った後にMPから引き出すという通常想定されるであろう使用パターンでは下限値を下回る事自体があり得ない。そのためこの一見すると意味不明としか思えない挙動は疑いの余地もなく間違いのない完璧な仕様なのである。
この仕様を活用するために低レベルでも装備可能なINTが増加する装備が高値で取引されたりするようになったのだけど、そもそも装備で増加するINTなんてたかが知れている。全身INT装備にしたとしても増やせる値には限界が有り、そんなにINT装備を確保するのは手間が掛かる。
ならどうするのか?簡単な話だ。
INTに振ればいい。
転職に必要な最低限の条件をクリアした上で若かりし頃からINTに振り続ける。これこそが最適解!
そもそもこのテクニックの前提となるアイテムがステータスポイントを振り替える課金アイテムである以上、必要なMPを確保したらメインステータスに振り直せばいいのである。何でこんなことにだれも気づかなかったんだろう!
数値を1回振り替える毎に390円を消費してしまうが、最近流行りのガチャなどとは違い、お金を支払えば支払う程にHPやMPが増える。キャラクターの強化が保証される!安いお買い物だ。やはりメイプルストーリーは神ゲーなのである。
ばーかばーか!!!!くたばれ!!!
と、こんな感じの課金による暴力が巷では流行していたようだけど当然ながら僕にそんなお金は無い。しかし課金をしなければ絶対にHPを増やせない。
リアルマネーを使わなくても時間を掛ければ課金に勝てる!MMOは『社会人』も『ニート』も等しく平等!そんなお題目を掲げるMMOマニアもいるが、そんな事はない。理想のMMOであればそうなのかも知れないけれど、少なくともこんなゲームもまた存在していた。
そもそも課金が存在する時点で最強なのは『金持ちのニート』である事は確定的に明らかであり、僕ら一般プレイヤーは逆立ちしても勝つ事など出来ない。
それで僕はこのゲームを辞めたのかというとそんな事はない。確かに今の僕はメイプルストーリーを遊んでいないけど、それは課金による格差が原因じゃない。
『風さんですよ』は山より高く、雲より高く、成層圏をも越えた先の世界で輝く一等星。
その差は余りにも大きく、端的に言うと別世界の存在だった。
巨人が蟻を認識しないように、蟻もまた巨人を認識しない。
別世界において次元を超越したプレイヤーが遊んでいようが、微課金の一般プレイヤーである僕には関係の無い話。
もしメイプルストーリーが課金の無い平等な世界だったとして。
それでも僕が『風さんですよ』に勝つことは有りえない。
課金があろうが無かろうが、究極的には意味がない。他者との比較を持ち出すことに意義は無い。
当時のメイプルストーリーには対人要素が無かったせいかも知れないけど、あの頃の僕は他者との比較なんて事に興味は無かった。
いつから僕は『エンジョイ』をやめたんだろう?