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創世記(ジェネシス)

 僕は当時、『プリースト』という支援職業でゲームをプレイしていた。


 『プリースト』とは、メイプルにおいて一般的に5段階あるとされる転職で言うと3段階目。今回のエッセイはまだ4段階目すら実装されていない時間軸から話が始まる。


 支援職業と言えばおおよそどのゲームでも似たような立ち位置だろうか。パーティプレイには引っ張りだこだけど、1人で戦うのはちょっと辛い。


 メイプルにおいてもだいたい同じイメージで、他の職と比べると火力が低いこともあってレベルを上げるのも一苦労。得意技は『ヒール』だけ。


 『ヒール』は一見するとただの回復スキルなのだけど、近くにアンデッド的なモンスターがいると巻き添えでダメージを与えられる。こう言った敵相手では有れば高効率で狩りを行える事もあり、他の職業のプレイヤーが次々と段階を踏んで強い敵に挑戦していく所、『プリースト』だけは延々と『レイス』と『ゾンビ』を回復し続ける。


 『ゾンビ』は他の職業にとっても適正レベルにおいては美味しいモンスターなのだけど、それでもいくらレベルを上げても延々と同じモンスターを倒し続けるのは少し辛い。


 狩りにおいてはこんな感じだが、パーティを組む時はやはりと言うべきか引っ張りだこだ。『ホーリーシンボル』というプリーストの持つ最強のスキルのために誰もがパーティを組みたがる。


 そんな他職が羨む『ホーリーシンボル』、その効果はと言うと……経験値1.5倍。


 強い。強すぎる。


 パーティを組むとモンスターを倒した時の経験値は分散されるので、本当にそのまま1.5倍になる訳でもないのだが、それを差し引いても効率が段違い。当時は広い狩場を単独で制圧するようなスキルも無かったので、『横』はともかくとしてパーティのみんなで狩るという行為の効率も高かった。


 『プリースト』の価値は完全にこのスキルのみに全てが集約される。確かに『ミスティックドア』とか『ディスペル』とか他の支援スキルも豊富だけど、それはそれとして『ホーリーシンボル』が無いのならパーティを組む意味はない。


 経験値のための奴隷。支援職としては仲間に求められる事こそ理想のプレイなのかも知れないけれど、僕はそれが嫌だった。だから『ホーリーシンボル』を後回しにして攻撃スキルに振った。


 そうして『プリースト』の他職に比べれば劣る攻撃スキルで狩りを行っていると、チャンネルを変えて突然同じマップにプレイヤーがやってきた。


 基本的にプレイヤーが狩りをしていればチャンネルを変えるのがこのゲームだが、そこで狩りをしてるのが『プリースト』であれば話は別だ。


「グル組みませんかw」


僕とグループを組んで狩りをすればソロで狩るよりも経験値がお得。そう錯覚した哀れで愚かなストレイシープが下心を剥き出しにチャットをし始める。


 これが女の子が胸をチラ見されている時に内申抱いているであろう感情。僕はそれを深く理解した。男性諸君はこのようなグループ直結厨みたいな言動をするのは即刻やめるべきである。


 さて、誘われたのはいいが僕が返す言葉はたった1つ。僕は孤高のロンリーぼっち支援職。もちろんグループで狩るのは構わないが1つ前置きをさせていただこう。


「『ホーリーシンボル』無いけどいいですか?w」


そうして無言でチャンネルを変える脳を経験値に支配された雑魚。まったく……僕達支援職にはそういうやらしい視線はバレバレなんだからね!


 もはや『プリースト』でプレイする意味がないレベルの謎すぎる育て方だけれど、それでも頑張ってレベルを上げた。そうして経験値を稼いでいる間に何度もグループへ誘われはしたが、僕の経験で語らせていただくと撤退率100%。敗北を知りたい。


 兎にも角にも『プリースト』の支援とは経験値の増加、その一点に集約される。たとえば強いボス相手に普段は敵わないけど『プリースト』が居れば支援や回復で勝てるとかそう言う類のキャラクターではなかった。結局どんなに強い攻撃を受けても即死さえしなければラーメンのどか食いで生き残れるゲームだった事もあり、お得意の『ヒール』もあれば便利ではあるが別に必須ではない。


 恐らくはマゾプレイヤー御用達の職業というのが共通認識だっただろう。



 さて、そんな扱われ方で日々を過ごしてきた『プリースト』だけれど、四次転職である『ビショップ』の実装で全てが変わった。


 その頃の僕はなんだかんだでとっくの昔にメイプルを引退しており、それでも四次転職の実装となれば見学くらいはしてみようかなーというノリでゲームを始めた。しかしその直後、『拡声器』によって意味のわからない全体メッセージが流れ始める。



「『ビショップ』さん、時給20,000,000メル出します。グル組んでください」


 何言ってんだコイツ。頭大丈夫か?


 そう突っ込みを入れたくなったが、それからも度々流れる同様のメッセージ。どうやら『プリースト』は『ビショップ』になったことでお金を出してまで組みたくなる存在になってしまったらしい。


 搾取される側であった『プリースト』が、搾取する側に回った瞬間だ。


 あまりにも意味がわからないので速攻で調べてみると、その頃のメイプルでは『ジェネ吸い』と呼ばれる行為が一般化されていた事がわかった。


 ジェネとは『ビショップ』のスキルである『ジェネシス』のこと。ポチッと押しただけで画面全体に派手なエフェクトと共にダメージを与えるとんでもないスキルで、同じ魔法使い仲間である『アークメイジ』達も同じような範囲スキルを持っている。


 とんでもないスキルが追加されたんだなーとは思ったのだけど話はそこからで、当時の最前線とも言える狩場に生息するモンスターは通称『骨』と呼ばれていた。名前から明らかだと思うが絶対聖属性の攻撃に弱い。


 つまり最前線に置ける狩りでの適性が最高峰だったのだ。


 どのくらい最高峰かと言うと、他職は頑張ってレベルを上げるよりも『ビショップ』が『ジェネシス』で骨共を瞬殺しているのをぼーっと眺めている方が経験値取得功率が高い。(もちろん『ホーリーシンボル』込み)


 ここまでの前提を踏まえると先のメッセージの意味がわかるだろう。


 つまり時給雇用で『ビショップ』様が骨をお狩りになられている所を拝見させてください、と言っているのである。


 かつては仲間に『ホーリーシンボル』を掛け続けるだけの奴隷とも揶揄されるような存在だった『プリースト』が、今や最強の火力職に転じている。


 そんな恐るべきメイプルの変化を目の当たりして僕が抱いた感想は1つ。



 立場は変わってもある意味やってる事は変わってないね。


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