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アイドルの妹を持つということ  作者: 磨穿兼哉
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兄は妹とライブに行くことを夢見た

作品を読んでくださりありがとうございます。

筆者は豆腐メンタルかつ低スペックなので、執筆がとても遅いですが、暖かく見守っていただけるとありがたいです。

妹がアイドルに興味を持った翌日、僕は珍しく上機嫌で学校に登校していた。

妹が閉じこもっていた殻から一歩を踏み出した。

その事実が、僕の体をこんなにも軽やかにしてくれる。

いつもは長く感じるこの通学時間も一瞬で過ぎ去っていく。

僕は改めて、人を笑顔にする"アイドル"の凄さを実感していた。

スキップしたい気持ちを抑えて校門をくぐると、後ろから声がかかる。


「おはよう秋山君」


「豊島さん、おはよう」


彼女の名前は豊島祐。

僕がこの学校で普通に話すことのできる数少ない女の子だ。

また、妹の事情を知っている人物でもある。


「今日はなんだかご機嫌だね、何かいいことでもあったの?」


「ああ、結がな」


僕は彼女に昨日あった出来事について伝えた。

妹の部屋から歌が聞こえたこと、CDを無理やり渡したこと。

妹がアイドルによって少し前を向けるようになったこと。


「結ちゃんが!、やったじゃん!」


彼女はまるで自分のことのように喜んだ。

いや、それもそうかもしれない。

何せ彼女も少し前までは結と同じように、いやそれ以上ひどい境遇にいたのだ。

そんな彼女だからこそ、結の話は他人事ではないのだろう。

当時の僕は彼女の影に結を重ねており、表立っては助けられないものの何かあればこっそり声がけをするくらいには気にかけていた。

まあ結局のところ、俺の努力虚しく一瞬で解決されてしまったのだが...


「あ!駿くん!」


「お!通と祐じゃん。おっす!」


噂をすればなんとやら、不安や杞憂を1mmも感じさせない明るい声が僕らを呼ぶ。

声をかけてきた人物は向井駿。

まるで物語の主人公のような存在である。

底抜けに明るく誰にでも優しい、彼の周りにはいつも人が溢れている。


クラスでもあまり目立つ方ではない僕にも気軽に声をかけてくれるまさにクラスの人気者である。

少し前までは遠い雲のような存在だった駿であるが、今では親友と言っても差し支えないほどには仲が良い。


「祐は今日も可愛いなあ」


「もう!駿くんっていつもそればっかりなんだから!」


「ん?なんか今日の祐、機嫌良さげだな」


「わかる?えっと、秋山君の妹の結ちゃんがね...」


(はあ...)

お気づきの方もいるかもしれないが、この2人は付き合っている。

まあ色々あるのでいつかゆっくり振り返るとして、簡単に説明すると・・・


豊島さんを気になっていた駿が豊島さんがいじめを受けていることを知り、クラス全員の前で公開告白。

その後、祐は俺の彼女だから手を出すな的なことを言い放ち一連のいじめ騒動はこの鶴の一声で幕を閉じた。

僕からしたらそんなキザなセリフは恥ずかしすぎて言えたもんじゃないが、存在が主人公な駿にしてみればごく自然なセリフなのかもしれない。


こうして2人はめでたく付き合う運びとなった。

まるで少女漫画にでも出てくるような激甘展開で事態は収束し、僕としても胸のつかえが取れ、一気にクラスのトップカーストへと駆け上がった豊島さんとの関係も終わりかと思っていたのだが・・


豊島さんから僕がちょくちょく裏で気遣っていたことを知った駿はそのことにひどく感激し、あろうことか休み時間にクラスのみんながいる中で「お前いいやつだな!俺と友達になろうぜ!」と言い放った。

まさか、クラスの人気者からそんな言葉をかけられるとも思っていなかった僕は動揺し、「こ、こんな僕でよろしければ」と返すのが精一杯だった。


あの日の恥ずかしさは今でも忘れられない。

豊島さんも僕に感謝しているらしく積極的に僕に話しかけてくる。


こうして、学年トップカースト2人と底辺カーストの僕という奇妙な3人組が誕生したのである。

とは言え、僕自身この2人が嫌いというわけではない。

2人とも根っからの善人であり、妹のことに関しても親身になって話を聞いてくれる。

周りからの若干の冷たい視線を除けば2人と過ごす時間は非常に落ち着くのだ。


「通、良かったじゃねえか!やっと努力が実を結んだな!」


「ようやく一歩踏み出したとこって感じだけどね」


「でも、結ちゃんが "ノブリジュ" に興味があるなんて嬉しいね! 」


「今度一緒にライブでも誘ってみるか!」


"ノブレス・オブリージュ"

古くは19世紀フランスで生まれた言葉であり、「貴族には貴族足らんとする義務が伴う」といった意味を持つ。

しかし、僕たちが話しているのはそんな高貴な話ではなく今をトキめくアイドルグループの名前である。


通称 「ノブリジュ」

僕が妹に勧めたアイドルであり、駿が豊島さんを気にかけるようになった理由でもある。

その人気は今や止まることを知らず、3年続けてレコード大賞を受賞している他、ライブは超満員。

最近ではワールドツアーも慣行しているほどである。


この2人はそんな "ノブレス・オブリージュ" がデビューした時から追いかけているほどの大ファンなのである。

当然、よく一緒にいる僕もいつの間にか巻き込まれており沼にハマってしまったというわけだ。

ライブチケットをとることすら困難なほどに人気なグループなのだが、何故か駿が必ず抽選に当たるのでよく3人でライブに行ったりもする。


流石は主人公といったところである...


初めの頃の僕は気を利かせて2人で行くことを薦めていたのだが、魅力を知らない者にその魅力を説くのもノブレス・オブリージュだとか言って毎回連れて行かれるので、最近は諦めている。


「まだ曲を聴き始めたばっかりだからあんまり強引に連れ回すなよ。せっかく興味を持ってくれたんだから」


「あたぼうよ!」


「でも結ちゃんもノブリジュのライブにくればすぐに大好きになってくれると思うの!」


駿が性急なのはいつものことなのだが、ノブリジュが絡むと豊島さんも性格が激変する。

普段はほんわか系の明るい女性なのだが、ノブリジュのことを話すときは完全にオタクと化す。

つまり、2人は全く歯止めが効かなくなるのだ。


「ほら、HR始まっちゃうから行くよ」


「ちょ、待てよ!」


ノブリジュのことを熱く語り始めた2人を置いて僕は教室へと向かう。

ああは言ったものの、やっぱり僕も妹とライブに行ける日が来ることを楽しみにしているのは隠しきれない。

下がらない口角をどうにか落ち着かせながら、いつもより少しだけ晴れやかな気持ちで僕は教室のドアをくぐった。


こうして兄は、妹とライブに行くことを夢見た。



登場人物が増えましたがいかがでしょうか?

この先の展開に色々迷っている部分があるので期間が空いてしまうかもしれませんがもしよろしければまた読んでいただけたら幸いです。

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