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アイドルの妹を持つということ  作者: 磨穿兼哉
1/4

妹はアイドルを知った

処女作です。

暖かい目で読んでいただけるようお願いします。

突然だが、妹の結はひどく閉塞的である。


小学校の頃は底抜けた明るさが印象的だったが、中学に入学する直前に友達と喧嘩してしまったらしい。

それがきっかけでいじめとまでは行かないもののあまりクラスに馴染めなかった妹はいつしか自分を塞ぎ込むようになってしまった。

家にいる時も基本的には自分の部屋から出てこず、会話も必要最低限。

両親も時間が解決してくれると信じ、特に何も言わない。


「トオ兄、そこ邪魔」


兄である僕に対しても中々に辛辣だ。

昔はことあるごとに僕の部屋を訪ねては、一緒に寝ようとせがむ甘えん坊であったが、今の彼女は触れるもの全てを傷つけるナイフのようだった。


--だが僕は知っている。


誰かを傷つける時それ以上に妹は傷ついている。

根は優しい子だから。

だからこそ妹には昔のような愛嬌を取り戻してほしいと思っている。

兄バカなのかもしれないが、彼女の笑顔にはみんなを笑顔にする力があるから。

そんな想いを抱きながらこの変わらない日常を僕は生きている。



------------------------------------



今日も今日とて時間が過ぎていく。

妹は部屋に篭り、父は盆栽、母は韓流ドラマとそれぞれの時間を過ごす。

例に漏れず僕も自分の好きなアイドルのCDを自分の部屋で聞いていた。

今話題のアイドルグループで、テレビなんかにもたくさん出ている。

僕は所詮ミーハーレベルでしかないが、僕の友達にもファンは多い。

うん、今回の新曲もなかなかいい。


"何度も掬っては僕の手からこぼれ落ちていく、とめどなく溢れ出す君への想いはあなたにどれだけ届いているのだろう"


まるで今の僕のようだ。


"何も変わらないのかもしれない、それでも足掻かずにはいられない"


僕だってどうしたらいいのかわからない、ただこのままではいけないことだけが確かだ。


そうして、新曲の感想を友達とLINEしていると声が聞こえてきた。



「〜〜〜〜〜〜〜ぁ」



聞こえてきたのは隣の妹の部屋から。


歌だ、それもかなり古い曲。


僕は正直驚いた。

ある程度懐メロも嗜む僕ですらかろうじて知っているレベルの古さ。


普段物音一つしない妹の部屋から歌が聞こえてくる。

妹が部屋に籠るようになってから一度たりともそんなことはなかった。

妹は何を思っているのだろうか。

急に歌い出してどうしただとか、どうしてこんな古い曲を歌っているのかとか様々な思考が頭をよぎる。

だがそれ以上に



「綺麗だ...」



妹の歌声に僕は聞き惚れていた。

今までだって妹の歌声はカラオケなどで聞いてきたが、ここ数年はそういうこともなくなっていた。

体にすーっと浸透していく柔らかな声。

いつまでも聞いていたい、素直にそう思った。


しかし、その声に徐々に雑音が混ざり始める。

何かがつっかえたような、形容しがたい嗚咽のような音。

僕はすぐに気付いた、いや気付かされた。


泣いているのだ、妹は。


そうか、そうだったのか。

それもそうだ。彼女はまだ13歳。

まだまだ多感な時期に友達との些細な喧嘩が原因でクラスに馴染めないというのは妹の心にどれほどの傷を負わせているのか。

いくら本人が強がって周りに強く当たろうと心では傷つき、泣いているのだ。


僕はどうするべきなのだろうか?

この声を妹の心の叫びを聞いているのは僕だけだ。

妹からしてもまさか聞かれているとは夢にも思わないだろう。

数瞬の思考の後、気付けば僕は妹の部屋の前に立っていた。



「結...........話があるんだ」



「...何?」



特に何か話題があるわけでもない。

それでも、もう十二分に妹は傷付いたのだ。こんなにも傷ついた妹を放っておけない。

僕ができることはあまりにも少ない。


(ただ、それでも何か、妹の心の支えになるもの....)


僕の口から出たのは思いもよらない言葉だった。



「アイドル、興味ないか?」



「へ?と、突然なんなの?」



「いいから、とりあえずこれ」



妹が僕の突然の来訪に動揺している間に僕は、聞いていた最新曲のCDを無理矢理妹に押しつけ扉を閉めた。

扉越しに声をかける。



「それ聞いてみてよ。僕は何もしてやれないけど、もう何もしないのは嫌なんだ」



妹からの返答はなかったが僕の心は少しだけモヤが晴れたようだった。

こんなことで傷付いた妹が立ち直るようであれば話は簡単ではない。

この行為は僕にとっての自己満足でしかないのだろう。

それでも、あの”声”を聞いてしまったから。


一縷の希望に僕は望みをかけた。


----------------------------------


結局、あの日僕ら兄妹が言葉を交わすことはそれ以降なかった。

翌日の夜、帰宅した僕の部屋にノック音が響く。

扉を開けると妹が無言で立っており、僕の胸にCDを押しつけた。


(気に入らなかったかな...)


内心しょぼくれていた僕だったが、妹はなぜか扉の前から動こうとしない。

不審に思っていると、



「他の...他のCDも貸してほしい...」



妹がわずかにつぶやいた。



僕の心を風が吹き抜けた。

やっぱり"アイドル"の力はすごい、閉塞的な妹の心をこんなにも簡単に動かした。

止まっていた妹が一歩を踏み出す力をくれた。


僕は浮き足立つ気持ちを抑え、妹に次のCDを渡した。

どの曲がよかったとか、誰が好みだとか勢いのままに喋り続けてしまいそうな気持ちをグッと堪えた。

今はただ、妹が僕の好きなアイドルに興味を持ってくれたというその事実だけで十分だ。

ここから少しずつまた僕ら兄妹の関係を紡ぎなおしていけばいい。

そしていつか、あの頃のような明るく元気な妹に戻ってくれればいい。


その日、僕はいつもより少しだけこれからの未来にワクワクしながら眠りについた。



こうして妹は、アイドルを知った。



いかがでしたでしょうか?

まずはここまで読んでいただきありがとうございます。

小説を書くのは初めてなので勝手がわからず、読みづらい部分がありましたら申し訳ございません。

もし、少しでも良いと思っていただけたら次話も読んでいただければ恐縮です。

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