TS幼女は再びチョコ地獄へ
リアルでは、投稿日から見て翌月。
大型スーパーは投稿日時点で既に準備万端。
デパートもかな?
今はまだ買わずとも、商品を眺めて色々想像するのも楽しいもので。
ソファーに座った茂木の膝の上からこんにちは。
……こんばんは? おはようございます?
まあ何時でも良いわ。 取り敢えずまとめて“おはこ○ば○ちは”で通じるよな。
は? 古い? でも古いと突っ込めるんだから、通じてるじゃん。 ならオッケー。
どうも、この世界の主神からダンジョンマスターなんて仕事を押し付けられ、気が付いたらいつの間にか神から気に入られ、ダンジョンを司る神にまでさせられたアホ毛付きポニテTS幼女です。
今は部屋着代わりのクマ着ぐるみパジャマで、ジト目ちょい長身な茂木にいじられまくり。
最近はペアルックより、ふたりでひとつのファッションになる感じが好きみたいで、茂木がなんか乙女~な服装してる。
題名は、大きいクマぬいぐるみに後ろから抱きつく女の子。 ……うん、想像しやすく、鉄板の可愛さだな。
…………でもな~。
ちょい長身でモデル体型の茂木が、大きいぬいぐるみ抱える可愛い女の子っt――――
ミシィッ!
「ぐぬぅ…………っ!?」
肋骨が!?
マジイテぇんですけど!!
抱えられてる力が強くなって、骨が悲鳴をあげてるんですけどっ!?
アホ毛も痛みに驚いて、暴れまわってるんですけど!?
「どうせわたしに似合わない格好だな~、ぷすす~。 とか思ってるんでしょ?」
ひぃっ! 茂木の低い声が!!
バレてるバレてる! でもそれで誤魔化すともっと酷い目に遭うの知ってるから、正直になるしかない!
締められてちょっと声を出し難いけど、がんばれ俺の喉と肺!
「ぐ…………ご、めんな、さい!」
なんとか言えた! 後は茂木の沙汰次第だ。
ぐぎぎぎぎ。 なんとか締められる圧力に耐え続けていると、ふっと圧力が緩くなった。
「……ったく。 コイツはすーぐヒトをからかうんだから」
ふいー。 お許しが出た、助かったぜ。
頭のアホ毛も力が抜けてぐったりだよ。
所で、今なにしてるかってーと、
前回は当日含めて一週間、節分イベントを自分のダンジョンでやってみるか~となって実行したけど、終わったから反省会をやってる所。
〈利用者のほとんどが、低レベル者でした〉
タマちゃんにデータをとるようお願いしていた。
「予想通りだな」
〈元々チュートリアル色の強い低級ダンジョンですからね。 そう言ってしまえばおしまいですが、いつものイベントでは限定ドロップを求めて中級以上へアタックしている者達も、低級へ一時的に戻ってくるのを確認していましたので、ここまで少ないのは珍しいのです〉
タマちゃんがなんか長々と言っているが、俺はそれを前提として予想通りと言っているのだ。
「事前にイベント説明を関連ページやダンジョンの入り口で注意していたんだ。
特別なドロップは無い、普段より倒しやすくなっているだけだって。
そうなりゃイベント参加者は低レベル者が主だと察するだろ」
〈……なんだ、その辺は理解していましたか〉
「つーかイベント会議でその辺は、タマちゃんがとっくに指摘してただろうが」
なんかつまらなさそうに言われたが、俺が返した通り。
〈最近はダンジョン運営より、他に気になる事があるご様子でしたので、忘れていると思ったのですが〉
ぎゅっ。
タマちゃんが更に言い返した言葉に、俺じゃなく茂木が反応して、少し力が込められた。
……またさっきみたいに締められる可能性が頭に浮かぶが、それで逃げようとしたら絶対にやられる。
なので抵抗を諦めて、身を任せる事に決めた。
〈おや? マスターがなにやら遠い目ですが、どうなさったので?〉
ちょっと黙って察してもらおうか、タマちゃん!!
協力しろアホ毛! 口の前で、バツ字を作れ! お前なら出来る!!
~~~
なんか良く分からんがもう一度茂木から締められたり、タマちゃんからイジり倒されたりした後、場を仕切り直す。
「イベントの感想をピックアップよろしく」
いつものタマちゃんよりひと呼吸遅れてから、それを読み上げる。
〈低レベル者救済イベントだった〉
はい。
〈炒り豆はどんなつもりで武器としたのか〉
節分なんだから無きゃ駄目でしょうと。 あと、手で投げるから【投擲】スキルの入手に役立ちます。
〈藁納豆剣、くちゃくて使えない〉
普段から使用者の多い剣スキル。 わざわざこんなネタ武器にした理由ですが、折角のお遊びイベントなので違う武器を使ってみて欲しかったのです。
〈穂が枝豆になっている槍は、棒として使った方が強かった〉
そこは使い方次第です。
〈ブルンと揺れるけど決して崩れない、豆腐の大槌がシュール過ぎる〉
ネタ武器です。 豆腐の角で死ぬゴブリンの不条理さは楽しめましたでしょうか?
〈大豆もやしの弓矢……まっすぐ飛びそうも無い印象だったのに、ちゃんと飛んだのが驚き〉
頑張って作りました(満足気)
〈ペラペラしない油揚げを刃に使った薙刀の意味は……〉
意味は特にありません。
〈拳武器の湯葉ンテージナックル。 駄洒落か〉
乱戦を主体にした今回のイベント、これが一番使いやすかったかもしれません。
……あれ、バンテージ? 帯……bandだからバンデージと名付けたはずですよ。
〈大豆ミートブレスレットって、なんだったの? アクセサリー?〉
杖の代わりとなる装備でした。 もう少し分かりやすくするべきでしたね、すみませんでした。
〈ゴブリンばかりで飽きる〉
他の鬼と言えばオーガ、低級ダンジョンではなくなりますので、出せるのはゴブリンのみとなります。
もし嫌で我慢できなかったら、次からは変化の無い通常ダンジョンをどうぞ。
〈短期間のゴブリン大量撃破でレベルがずいぶん上がった。 これで中級へ挑める〉
慢心は禁物です。 レベルが急速に上がった場合、スキルレベルの方が能力に追い付いておらず、上手く戦えない場合があります。
〈虎柄ビキニのダンマス幼女が居た気がします〉
アレはダンマスを似せた姿で、ダンジョン管理を補佐しているドッペルゲンガーやリビングドール達による悪ふざけです。
本物はそんな恥ずかしい格好を、絶対にいたしません。
〈虎柄ビキニ幼女をテイムしたい〉
テイム不可です。
〈幼女に豆をぶつけたら、理不尽な反撃を受けた。 こんな倒せない奴を配置するなんて、ゲームバランスが悪すぎてクソゲーだ〉
イベントの注意書きに有ります通り、その幼女達は管理者側の魔物であり、討伐対象ではありません。
つーかよく攻撃意思を見せない幼女へ攻撃しようと思ったな? まさかダンジョン外でも似たような事をしてねーよな?
〈幼女の装備品を奪いたかった〉
お巡りさんへ通報しますね?
〈もうしばらくすれば、花見の季節ですね。 神社エリアで桜の復活を希望します〉
もうあれから1年近く経つが、まだ言ってんのか? 復活させないと言ってるだろ、いい加減諦めろ。
〈神社エリアの花見には、巫女ダンマスの開催宣言が欲しい〉
なんで桜復活が確定した情報として扱われているんでしょうね? 復活はさせません。
〈もうすぐバレンタイン。 本命、待ってるからね?〉
この質問した奴誰だ? 特定してイベント中は出禁に設定してやる。 もしダンジョン外で接触してきたら、通報するからな。
〈子猫ちゃん、婚約指輪は用意してある。 本命チョコをくれたらすぐ結婚しよう〉
コイツは警告無しで通報だ。 タマちゃん特定よろしく。
お? ヒトのアホ毛を摩るなんて、どうした茂木?
寒くて震えるアイコンが出てた? それで、なんでアホ毛? 一番寒そうだったのがアホ毛? アッハイ。
〈今年はドッペルやドール達にもチョコをあげるのですか?〉
去年は勝手につまみ食いしてたからあげませんでしたが、つまみ食いしなければご褒美で能力アップの実を、ナッツチョコみたいにしてあげるつもりです。
〈ダンジョンコアにも、チョコをあげる予定はありますか?〉
タマちゃんは物を食べられないから、感謝の言葉を普段より5割増しでかける予定で……って、これと前の質問はタマちゃんが?
〈はい。 楽しみにしてます〉
おぅ……責任重大だ。
(神のメッセージカードシュバッ!)
[今年こそ本命下さい。 ママの本命希望]
いつものカードヒラヒラ落としじゃない所に気合いを感じるが、お前へは変更なんてねーよ!
上司へ出す少しだけお高い感じの義理チョコだオラァ!
(べしーん! と床へ強く叩きつけてカードを消滅させる)
「去年はダンジョン内で配ってた義理チョコだったけど、今年はわたしに本命をくれるんでしょ?」
あげる相手は決まっています。 諦めてください。 しつこいなら通報します。
「だからその相手って、わたしだよね?」
違います。
「わ・た・し・だ・よ・ね?」
サブマスです!
「やっぱりわたしじゃん!」
………………ん?
〈ピックアップした質問は、子猫ちゃんとか書かれた物が最後でした〉
んんん? もしかして俺は勢いのまま、知らぬ間に恥ずかしい事をしちゃった?
〈本人からの質問へ、思いっきり〉
oh…………。 穴があったら入りたい。
「んふふ♪ 当日、本命チョコを交換しようね?」
…………やめろ、髪の毛に口つけるな。 匂いをかぐな。 ヘンな所さわるな。 くっコロ言っちゃうぞコラ。
アホ毛もだよ。 勝手にハートマーク作るなよ。 メチャクチャ恥ずかしいっつの。 本当にやめてください、お願いしますアホ毛様。
~~~
憎い憎いバレンタイン。 だが乗っからねばならないイベント。
……あん? お前今年は同棲してるんだから、ラブラブでイチャイチャだから憎くねーだろ?
いや憎いよ? いくら同棲していようが、別にラブラブなんざしてねーし。
それと、公然でイチャつくカッポゥを見てイラッと来るのは、別に相手がいようがいなかろうが変わらない。 リア充共はとっとと爆発しろ。
……鏡を見せてきてどうした? お前が言うなってなに? 俺は恋人なんてまだいないぞ? は?恋人通り越して嫁がいるだろって? まだいねーって言ってるだろ。
…………こほん。 前回の騒動を踏まえ、対策はしている。
チョコ獲得条件は前と同じだが、システム的にチョコ配布ダンジョンのアタック回数を制限。
正確に言えば、チョコをひとつ入手した者は当日+前後の計3日、チョコ配布ダンジョン利用不可とする。
入れなくなったのに、無理矢理入ろうと暴れるなら「君? ちょっと落ち着こうね?」とお巡りさんに活躍してもらう。
タマちゃん管理により同一人物が獲得条件を何度達成しても、配るチョコはひとつだけとして、ドッペルやドールがふたつ目を配ろうとしたら止める指示を出してもらう。
今年も義理チョコを6万用意するが、半数はチョコが生る異世界植物をダンマスルームから行ける大農園エリアで栽培して済ませて労力削減。
チョコを配るダンジョンは3ヶ所。 3日間で配る量を上手く調整して、最終日残っていませんでした~なんて事態は回避させる。
ダンジョン周辺警備のお巡りさんや、いつも買い出しで世話になってる商店街各店は別枠で確保。
家族? 義理じゃなくて家族チョコだから特別枠に決まってるだろ。
これによりひとりで沢山集める行為が減り、前回より多くの人へ配れるはず。
前回用意が足りずに有り合わせを着せた、ドッペルやドールのイベント中衣装は、今回どうするかって?
今回着せるのはドッペルが過去の自由時間で自主的に色々縫ってたから、自分達で勝手に選びなさい。
最近は俺に変なのを着せようとする神の野郎から服が送られてこないし、ドール達の恥ずかしい服装を見て、俺がそれを着てる気分にならず気が楽だ。
…………と言えれば良いんだけどなぁ。 俺と茂木を混ぜた姿のドッペル達、胸は俺の大きさを真似ていて、苦しいからって胸元が開いた服とか好むんだよ。
ドッペル達の衣装絡みで絶対にトラブルが起きる。 間違いない。
お前ら、ダンジョン内トラブル対策で覆面お巡りさんに巡回を頼んではいるが、自衛はちゃんとしろよ?
他にイベント用魔物の配置は、基本2体1組。 奇数で登場すると、1匹だけ少し攻撃的なヤバいのが交ざる。
あとホワイトデーでもやった極低威力の自爆魔物を、もちろん配備。
ダンジョン内はそんなもんかな。 残りはイベントで配るチョコ製造。
1月中に注文しておいた大量の製菓用チョコとラッピング用品があるか、作業の多さを思い出して軽く悲嘆しながらインベントリ収納品一覧で確認。
「やりたかねーが時間もない。 しゃーねー、やるかぁ……」
汚れ防止の装備品に身を固めた。
今回は茂木も義理チョコ作成を手伝ってくれると言っている。
極めて高いステータス値で、感情を持たないドールは最強の助っ人。
なんとなく吐き気や胃の辺りがムカムカする感じもあるが、覚悟を決めて今年も地獄の戦場へ踏み入った。
イベント開始(つまり13日)
「タマちゃん、冒険者はどんな具合だ?」
〈ひとつしか貰えないと、不満を見せる以外は概ね問題ありません〉
「入り口の注意書きでデカデカと書いた通り、迷惑の程度次第で国内低級ダンジョンを完全出禁にする措置も用意しといて」
〈警告は有りですか?〉
「程度の問題だな。 酷過ぎれば警告無しでも良い」
〈了解しました〉
「……ねえ」
「どうした?」
「チョコの交換はいつやる?」
「明日の当日で良いだろ」
「え~……」
「何が不満だ?」
「早く欲しい」
「我慢しろ」
「え゛え゛~」
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14日朝、TS幼女の実家。
妹「あのふたり、ちょっと顔を出して帰っちゃった」
母「晴夏ちゃんの実家へ行くって言ってたから、仕方ないわね」
妹「それで、お母さんは気付いた?」
母「あのヘタレな唐変木が名字の茂木じゃなくて、下の名前である晴夏って言ってたわ。 ようやく進んだみたいね」
妹「晴夏さんにこっそり訊いた。 チョコの交換してからだって」
母「今朝から……このペースだといつ結婚まで行くのか、心配だわ」
妹「ねー?」
母「ねー?」
妹「…………それと、ふたりのコーデが凄かったね」
母「それは見なかった事にするのが一番。 アレを見続けていると、性癖が歪むわよ?」
妹「それは言えてる。 少しヤバかった」
父「……」
妹「お父さんが静かなんだけど、何をしてるんだろ?」
父「……」
母「……なにか食べてる」
妹「朝ごはん食べたばっかりなのに、なんだろ?」
父「娘のチョコ。 去年はお前達に横取りされたからな、オレの分をすぐ食った」
妹「ああーー!! ズルいっ!!」
父「今年は3人分全部同じだって言われただろ? ズルいも何もない」
母「中身はどうだったの?」
父「チョコ詰め合わせ。 ミルク、コーヒー、ナッツ、トリュフ、ジャム入り、アルコールを飛ばした酒ペースト入り、ハイカカオの割合違い4種、抹茶入り。 どれもこれも旨かった」
母「トリュフはトリュフチョコね。 それにしても、気合い入りすぎねぇ」
妹「……料理スキルマックスで、そこまでやったチョコアソート! これ絶対、お高過ぎるやつっ!」
母「そもそも使ってるのは、溶かす用のチョコでしょ? どうやってハイカカオチョコを作れるのよ」
妹「【錬金術】スキルかも。 友達がそのスキルで薄いジュースの水分を抜き取って、濃くし過ぎて噴水してたから。 多分それの応用」
母「…………気合い入りすぎねぇ(肉食獣の目)」
妹「なんか悔しいからお父さんの目の前で、夜にゆっくり食べよっか?」
母「良いわねぇ」
父「っ!? 早く食べてもみんなで食べても、オレは嫌な思いをする事になるのか!」
妹「もしゆっくり食べてたら、横取りしてたね!」
父「ひどい!!」
あとがきでさらっと出てきた重大事は、次話の他人視点で。




