TS幼女は遅い成人式を迎える
今話の時期が正月~成人式。
タイムリーではありますが、それは偶然。
正月を迎えた薄ピンク髪のアホ毛付きポニテ青目ダンジョンマスター幼女だぞ。
いつもは俺の直轄となってる低級ダンジョンで時事イベントを行っているが、実は正月用のイベントを用意してない。
その旨を、国からダンジョン情報を発信するサイトのダンマス幼女コーナーでも通告している。
なぜか? 正月から仕事なんてしたかねーからだよ。
だからダンジョンの現状は、年間ずっと変わらない配置の常設ダンジョンと、時事イベントが行われていない季節で変化する基本状態のイベントダンジョン。
正月はダンジョンアタック以外の、別の事でもしてろ。 折角の正月休みを戦って過ごす事はないぞ。 とこちらからの気遣いのつもりである。
……まあそれでも息抜きで暴れたいとか言うのも少数は居るから、タマちゃんに管理を任せてダンジョンに受け入れはするが。
それでダンマスである俺と、サブのダンマスであり現在同棲中の茂木晴夏がダンジョンから離れてどこにいるかと訊かれると……。
「お姉ちゃん達、いつ結婚するの?」
「知らねーよ。 っつーか茂木とは同性で、結婚は不可能だと何度言わせるんだよ。 あと何度言えば分かる、俺は兄で男」
俺の実家で、茂木の家族も一緒に新年の集まりへ顔出し。
外出とかの予定は無いから、今日の服は適当。
ブラウスとハーフパンツとタイツ、今は外しているが上にケープコート。 茂木も似たような物で、パンツじゃなくてスカートになってる程度。
……しばらく見ない俺の親友は何してるか? 一緒に新年で騒がないのかって?
あいつはネトゲの新年イベントで、ネットの向こうにいる友達と遊ぶので忙しいってよ。
もし時間の都合がついたら、俺と茂木と3人で会ってどっかへ遊びに行くさ。
「言い訳は良いんだよ。 年末の騒動でお姉ちゃんの、晴夏さんへの気持ちはご近所にまで知れ渡ったんだし」
抱えられて茂木の膝に着かされている俺は、妹からアホほど絡まれているのだが、誰も助けてくれない。
こっちの両親は呆れ顔だし、向こうの両親はこんな茶番にニッコニコ。
肝心要の茂木は俺の頭を撫で繰り回すだけ。
いつもは感情直結で俺の分身とまで言えそうなアホ毛でさえ助けてくれず、茂木の手とじゃれているのみ。
「お前、まだ未成年なのに酒でも呑んでるのか? 不可能な事を認めずに、ウザ絡みしてくるなんて素面じゃねーぞ」
孤立無援。
なんか最近こんな展開とか多い気がする。
「お前らいい加減、くっ付けよ」
特に、実家のご近所。 異世界の女神から目的があって殺されたとか知らずとも、俺がここの家に居た元男だったと知った人達とか。
こればかり言われるが、今も茂木に抱えられてくっ付いているから、言われた通りにしてるぞ。 これで文句なかろう?
……いや、本当に言いたいだろう意味は理解してるんだよ?
地球の主神が相手は同性でも、一緒になれれば神の力で子供を作れるって保証してたし。
でも、法律でその辺は認められていない。 だから諦めるしかないんだって話なんだよ。
しかし、妹はめげない。 意見を曲げない。 異論を認めない。 煽って場を滅茶苦茶にしようとしても、乗ってこない。
「晴夏さんから、子供を作れるって話は聞いてる。 条件も聞いた。 でもその条件は国の法律で満たすものじゃないって思わないの?」
「あ……」
言われて気付く。
そりゃそうだ。 神の言うそれと、国が決めているそれ。 同じである必要はねーんじゃね?
もしかしたら、神前結婚式とかで神に「コイツと一緒になる!」と宣言するだけのお手軽な話だったんじゃね?
俺のその様子を見ていた妹が、これ見よがしにため息をついた。
「……この鈍感でグズでヘタレな馬鹿兄貴め」
こっそり洩らした呟きを聞き逃さなかった俺は、辛辣過ぎだろ! と抗議したかったのだが、言い返せる感じがしなかったので黙るしかなかった。
ぎゅー。
「むふ~♪」
…………あの、茂木さん? なんだかとても満足そうな荒い鼻息を出した様ですが、なにかありましたか?
それとマイアホ毛? さっきまで遊んでいたお前は、今なにしてるのかな?
触覚の錯覚じゃなければ、茂木の唇をツンツンつついてる感覚がするんだけど。
素の状態でそんな事出来るって、いつの間に俺より仲良くなってんの?
なに、主人への反乱? 下剋上とか狙ってんの? ケンカなら買うよ?
ついでに我が家族よ、なんでお前ら疲れた顔をしてるんだよ?
~~~
結局あの場は妹の大勝利で終わり、帰省中は家の手伝いで終わった。
合間に茂木の実家とも往復し、なんか気付けばそれぞれの親が相手の子へ「ウチの子供をよろしくお願いします」とか挨拶した気分になっていた。
意外なのが、実家にて俺抜きで作って食べた料理。
アレらの味付けは茂木がやっていたそうだが、ほぼウチの味で違和感はなかった事。
その感想を伝えたら、久しぶりに首を絞められて落ちそうになった。
んで今はダンマスルームで集まって何をしているかと訊かれれば、
「本拠地ダンジョンにある【神社エリア】で、成人式が出来ないか提案された」
会議だ。
参加者はタマちゃんと、ワニ着ぐるみパジャマを着た茂木と犬の尻尾みたく揺れるアホ毛が刺さった俺。
もはやデフォルトとなっている、茂木の膝にちんまり座らされているこの状態から、会議は始まる。
――別に会議だけじゃなくともずっと膝の上だが、たまには逆で膝枕をしてやる事もあるな。
ダンジョン設置に当たり、役所の敷地で隅っこを間借りしている手前、そうそう無下にはできないのだ。
現に正月の初詣ではその神社エリアと言う存在を利用して、ダンジョン周囲を祭会場にしていたし。 除夜の鐘は神社エリアに置いてあるお堂で鳴らすとかしている。
……今度の夏辺りに夏祭りだ~とか言って、会場として使う提案なんか来るかもしれない。
「良いんじゃない?」
軽く答える茂木だが、逆に俺はちょっと不満だ。
「どうにも最近、役所の奴らが調子に乗ってきている気がする」
なんかそんな感じなのだ。 催し物があるとすぐ俺の所へやって来て「イベントをそちらで行えませんか?」って投げてくる。
イベント会場を都合良く、タダで使いたいと狙っているように感じてしまう。
それに反発するのはタマちゃん。
〈結婚秒読みで守りに入り始めた会社員ですか、マスターは?
ただ単に、ダンジョンを管理する神となって高まった知名度と面倒見の良さにあやかりたい、あやかって町おこし出来ればいいなぁ。
とか言う魂胆なだけだと思いますが〉
「そっちの方がもっともらしく聞こえるね」
それと、タマちゃんに同調した茂木。
……なんだろう。 最近の俺、敵が多すぎるかもしれない。
心持ち全てのものに警戒をしようかと考え、茂木の膝から離脱しようと体に力を入れるタイミングで、
「不貞腐れないの、みんなは敵じゃないからね。 おふざけが結構混じってるけど、わたしはその胸をもいでやるって決意は鈍ってないけど、根っこはあなたが楽しく幸せに生きてくれれば良いなって気持ちだからね?」
全てを見抜いているみたいに、
俺が離脱する事を望んでいないみたいに、
後ろのこいつが優しくも力強く、まるでどこにも行かせず繋ぎ止める様に抱き締めてきた。
そうされた俺は、その腕へ静かに手を添える。
ついでにアホ毛が伸びて、その添えた手と腕に巻き付いてきた。
「晴夏」
晴夏の腕がすぐさま強張り、動きが止まった。
「………………なに?」
たっぷり時間をかけてから俺の耳元で呟かれた声は水分が足らず、少ししわがれていた。
何が理由でそうなっているのだろう? 首を思いっきり動かして、晴夏を横目で見上げる。
いつもジト目が大きく開き、見せてくれたその顔は驚きだった。
そこまで驚くことなんて有るのだろうか? なんだか面白くなって、小さく笑う。
「…………っ!」
今度は紅が差した。 ふふっ、変なやつだ。
こんな時に突っ込みを入れたらどうなるんだろうな?
空気的にはやるべきではないんだろうが、義務感に負け晴夏へ心からの笑顔でぶっぱなす。
「お前まだ俺の胸をもぐ野望、忘れてないんかい」
~~~
…………えらい目に遭った。
茂木がもっともらしく偉そうな事を言ってる中に、恨み節が混じってたのを突っ込んでやったら、もがれかける危機が過去最大級でやって来た。
〈ほらほら、夫婦でじゃれあって疲れている場合では無いですよ。 参加するって決まったのですから、詳細を詰めないと〉
「まだ夫婦じゃないって言ってるだろうが!」
「はぁっ!?」
「なんだよ茂木、なにが言いたいんだよ?」
「ま……ううん! なんでもないっ!」
〈…………はいはい、脱線しない〉
『ごめんなさい』
タマちゃんの仕切りにより、場は落ち着きを取り戻す。
「曲がりなりにも、神社エリアはダンジョン。 冒険者カードは全員持っているのね?」
「知らんが、こっちに持ちかけているなら大半は持ってるんだろ。 それと開催日が近いのを考えれば、予定してた会場でトラブルがあったとかだな」
「役所からは、細かい要望とか来てないの?」
「受けてくれるなら、ついでにやって欲しい事も聞いてる」
確認を求める茂木と、応じる俺。
粛々と進む様子はまさに、完全な会議モード。
「成人式に参列する連中の座る椅子、司会、式の余興で出す景品幾つか。 司会の服は式に見合うなら自由」
「椅子を出す程度のDPは消費ですらない、司会は問題ない、景品は支所ダンジョン最奥ボスのドロップを用意すればいいかな? あと衣装は……」
ここで茂木が言い淀んで、口をもにょもにょさせているだけに見えるが、それは間違いだ。 耳をすませてみよう。
(こいつに大正ロマンな和装をさせたら絶対に可愛い、それ以前にふたりで司会? それって共同作業よね? 共同作業共同作業共同作業………ふふ、ふふふふふ)
ヤバい。 本気でヤバい。 真面目な会議モードなんざ、俺達じゃあ長くもたない。
つーか俺、同棲は認めてるけど、茂木に一度も「好き」とか「愛してる」とか言ったこと無いんだぞ? 流れで恋人~みたいな雰囲気になってるけど。
それでここまでずっと来て、コレ。
この流れに水を差すなんて気が引けるが、こんな状況を見逃せないならやるしかない。
「なあ」
「なに?」
今見ている茂木の目は、少し濁っている。
少し腰が引ける気分だが、まともな話に戻さなけばきっともっと酷い事になる。 直感系スキルがそう言っている。
「成人式に随分積極的みたいだけど、なにか思い入れでもあるのか?」
まずは軌道ずらし。
それをもう少し挟んで、ちょっとずつ修正していこう。
……なんて思っていたんだが、茂木の変な様子が一瞬で落ち着く。
「無いから、参加したいのよ」
は? ずらした軌道が、もっと変な方向へ飛んだかな?
「わたし達ふたり、自分の成人式に出てないでしょ?」
……何を意図しているか分からないけど、乗っておくか。
「俺は異世界に居たし、茂木は俺が死んだのをきっかけに引きこもったんだったよな」
「うん。 だからせめて、成人式に少しでも関わって思い出を作りたいの」
「そうか」
そこに繋がるのか。
「だからね?」
……うん? 落ち着いていた様子が、それより前に戻りそうな雰囲気へ。
「大正ロマンな矢絣着物と袴を着て、式へ出てみない? それとふたりで司会なんて、支え合ってひとつの事を為す感じでステキだと思わない? ねえ、ねえ!?」
oh…………。
茂木の目がドロットロに濁りきっているはずなのに、ギラギラと強い光を放ってら。
俺の狙いが大外れして、むしろ暴走の後押しをしちまった様だ。
「さっきはドロップ品とか言ったけど、なにかお菓子を焼いて行くとかも良いと思わない?」
「おい」
「年末で家事に関係するスキルを、みんなに手伝ってもらって結構上げたし!」
「年末に家を出たのはそれやってたんかい」
「そうそう、成人式イベントダンジョンとか良くない? 登場する魔物の格好をヤンチャ成人にして、行動パターンもそんな感じで設定して、他人の振り見て我が振り直せ的な?」
「おーい」
「成人式の台本は、どうせ役所が用意するんでしょ? それ以外でこっちが用意出来るものって、他に無いのかなぁ?」
「……止まらん」
〈一緒に暴走してあげれば良いのでは?〉
「しないよ」
〈つまらないですね〉
「タマちゃん!?」
「こら! わたしを見なさい!」
「お前が全てを置いてけぼりにして、突っ走った結果だっつうの!」
「ひとりで盛り上がってもつまらないの!」
「だったら暴走するんじゃねぇ!」
「付いてきてよ!」
「無理っ!」
「なんでよ!? 付いてこないと、その無駄にデカい胸を掴んで引っ張り回すわよ!」
「すぐそう、もごうとするんじゃねーよ!!」
〈…………ったく、この馬鹿っプルは〉
~~~
クールダウン後
「所でさ、茂木」
「どうしたのよ?」
「最近俺の心を読んだみたいな行動を、お前がしてるように感じるんだけど」
「読んでないわよ?」
「……だよな、俺の勘違いだよな」
「アンタの頭からポップアップアイコンみたいに、ぽわんっと記号化された感情が浮かんで見えるけど」
「はぁ?」
「わたしが抱き上げると、ハートマークがいくつか浮いてきて可愛いのなんの」
「はぁ!?」
「わたしへ一度も好き~とか言ってくれないけど、アンタからの感情が見えるから不満は少ないのよ」
「はぁあ!?」
「あれは……たくさんのダンマスから神の座を頂くって、アンタが絡まれた少し後かな? 何を言っても誤魔化したりとぼけられたりして、寂しくて。 アンタの気持ちが知りたいって願ったら、見える様になったのよ」
「はぁ? はぁぁあ!?」
「【真実を求める眼】ってスキルが応えてくれたみたいでね」
「はぁあっ!?」
「今のアンタは「はぁ?」しか言ってないけど、恥ずかしがってるのも見えてるからね?」
「…………はぁ(ため息)」
「んふ♪ 下の名前も含めて、いつか言って欲しいなぁ。 今すぐ言ってくれれば最高。 一応向けてくれる気持ちをざっくりとは知ったけど、直接言われた方が本当に嬉しいから」
「考えとく」
「今はそれで良いわ」
久し振りの神(変態)メッセージカードひら~。
[ママ同士、仲良くって良いなぁ。 いつかこっちへ来たら、仲良しのお裾分けが欲しいな~(チラッチラッ)]
床へビターン!
「俺はテメーのママなんかにゃなる気はねーよっ!!」




