TS幼女は神様に都合良く使われる
このネタを思い付いたのはローファンタジーのランキングを眺めていた時でしたかね?
ゲームキャラでTS、現代でダンジョン、ダンマス物、異世界からの帰還。 大体この辺でしたね。
それらが混ざって、強いダンマスが弱いダンジョンを運営して、地球の危機にはダンマスが出張って無双で大活躍! ……普段は弱いダンジョンでのほほんとしてるけど。
みたいな電波を受信しまして、それをコネクリ回したらこうなりました。
「世界の問題の解決、ご苦労様でした」
穏やかに聞こえる声を受けて目を開けると、いつか来た無機質な……灰色一色の空間。
前に真っ白な空間ではないのかと問いかけたが「目が疲れるから色を抑えた」と返され、何も言えなくなった空間。
そこに居ると認識した瞬間、即座に自分の姿を確認した。
ちっちゃい手、ほそっこくて白い腕、大きく膨らんだ胸に生っ白い肌。
細くて頼りない足腰、そのくせ妙に腫れている尻。
感情に連動して良く動く長いアホ毛にポニテ、まとめた髪の色……淡いピンク。 桜色?の髪。
そしてぷくぷくほっぺ。 自分の目と感触で分かるのはこれ位で、あとは鏡がないと顔の確認は出来ない。
出来ないが予測はできる。 綺麗に弧を描く細眉、藍色をしたちょっと垂れ気味のまんまるお目目、ちょこんとした小さな鼻。 おまけのちんまい天然ひよこ口。
「俺の元の姿に戻れてないのか……」
この状況に、俺の簡単な経歴を思い返す。
学生の俺が女神とか名乗る存在に、自分の世界――つまり異世界ね――が魔物で溢れてヤバいから助けて! 助けてくれないと帰さないぞ! と要請されて、応じた。
それで依頼遂行への支援として貰ったのが、過去に一番やり込んだゲームのキャラのデータ。
それが今の俺の姿。 雑に言えばピンク髪ロリ巨乳。
余計な事を付け足すと、この髪や肌は汚れない。 傷ついても少し待てばキレイに治るし、ロクな手入れをせずとも、いつもツヤテカなさすがゲームキャラ仕様。 この仕様にて異世界で知り合った女性達には、恐ろしい目でよく睨まれた。
出来るだけはやく要請を完遂するために、死ぬ気で駆けずり回って3年で解決させ、さあ戻ろう! とウキウキしていたのだ。
んっんん!
回想とかをしていたらシワブキがひとつ飛んできて、反射的に音の発生源へ意識を向けさせられた。
「こちらの世界に起きた問題の原因の特定と対処。 つまり完全解決、有り難うございました。 あの段階で止められていなければ、魔物達が世界中で暴走を始めて、国と言う国全てが潰されていたでしょう」
――――ん、原因はなんだったのかって?
最初に被害に遭った国。 ――と言う自作自演。
魔物を特定地点に集める特殊な道具を使って世界各国の国力を魔物被害で激減させて、持ち直す前に侵略か世界復興同盟みたいなのの盟主として世界で一番の地位を国王が狙ってたんだと。
オチは真実をその国と近隣国にばら蒔いて、革命起こさせてハイお仕舞い。
今のを聞く限り、その特殊な道具がいつか暴走するか何かして、人間じゃあどうにもならないレベルの魔物の暴走が始まっていたのかもしれない。
「約束は守ってくれるよな?」
現実世界に帰れる。 女神に拉致られ、強制的にやらされた仕事だ。 その約束を信じてやって来たのに、ちゃぶ台返しとかされたらかなわない。
「守りますから、その可愛らしい姿で世の荒波にもまれまくってねじくれきった様な顔をしないで下さい。
あなたの中身が男性とは言え、罪悪感が強くて悲しくなります」
「お前がよこした姿だろうが。 それで苦労したんだからそうもなるわ」
どうにも作ってる感の強い困り顔になる女神に、冷静に返す俺。
旅先で出会って仲良くなった女の子達から、テンプレのごとく弄り倒される3年間にはまいった。
他にも幼女だからと侮られる事多数、幼女大好きな変態ドモに手を焼かされること数知れず。
「その姿のキャラクターでゲームをやり込んだのは誰かと……いえ、それは置いておきましょう。 今すべきは今後の話です」
だそうだ。
「もう一度訊く。 地球に帰れるんだよな?」
念のためと訊ねたが、そこにははっきりと頷いてくれた。
「帰します。 が、あなたの能力や今回の実績により、地球の神から依頼が有るそうです」
思わず「はぁっ!?」なんて変な声が出るのも、この状況じゃあおかしくないと思う。 また仕事を押し付けられそうだし。
「あなたが居ない3年間で、地球の神がこちらの世界のように魔力やスキルやステータス等の概念、そして減少した資源を補充する名目でダンジョンを地球に導入したそうです」
「マジか……」
「はい。 それで、ダンジョン作成が楽しくて調子にノリ過ぎたのか、初心者向けダンジョンを作るのを忘れて、地球が物理的にハードモードへ」
「……oh。 レベル1の人類に、レベルふた桁の敵がゾロゾロ出てくるダンジョンへ挑めってか。 犠牲者ばかり増えそうだな」
「まさにそんな事態でして、ダンジョンに挑むだけ損。 とか言われて鼻つまみもの扱いになっていると、涙ながらに愚痴られまして」
ゲームバランスを考えず、勢いで突っ走った地球のが悪い。 自業自得だ。
「そこで初心者向けダンジョンを地球に作りたいそうですが、そのダンジョンマスター(以降:ダンマスと省略)に、ナイスタイミングで帰還予定のあなたはどうだ? と打診がありました」
「いやいやいやいや」
そんな急に言われても。 って言うかなんでそんな尻拭いを俺が~とかゴネたが、結構マトモな返しが待っていた。
こっちでダンジョンを幾つも実際に攻略してきて、ダンジョンの構造とかを熟知している。
神が直接管理しているのが多過ぎて、初心者向けなんて色々気を配って細かい調整が必要そうな、特別作業量の多そうなのまで見ていられない。
それだけの難しい大任を任せられるのはあなたしか居ない。 とか。
「その話しを受けるメリットは?」
そこまで言われて、受けても良いかな~とか心が少し揺らぎ、先を促してみる。
「あなたの地球での居場所の確保をそれで出来るのが、一番のメリットですね」
???俺の居場所は、女神に拉致られるまで住んでいた実家が居場所のはず。 そう思ったが。
「体は別に用意して、魂だけの招待でしたので。 なので地球のあなたは既に死亡扱いで遺体も処理されているでしょう。
しかも時間経過はこちらと同期していますので、亡くなってから3年も経てば学校や勤め先を含めて、居場所なんて大体無くなっていますよ」
そんな理不尽な事が有るか! と殺気まで覚えるが、話しには続きがあった。
「ですので、地球に戻ってもほぼ孤立無縁のあなたに必要な居場所としてダンジョンを提供出来る事が、大きなメリットになります」
…………冷静でない頭でも分かる、この選択肢がない選択肢。
「分かったよ。 ダンマスをやるしかないのは」
ここで今までしていた女神の困り顔から、明るい表情へ変わる。
「受けて頂けて、あちらも喜んでいると思いますよ。 こちらとしても良い人材を派遣して頂いたお礼になりますから、とても嬉しいです」
「そりゃ良かったな」なんて返すが、今度は俺の方が困り顔だ。 無理難題を押し付けて来やがる相手に、ちょっとでもこの嫌な気分が伝わってくれれば良いな~とか思って。
だが効果はあまり無さそうで、胸の前で両手をあわせてとても嬉しそうにする女神。 逆にすんごくイライラでモヤモヤする俺。
「それでですね、私の世界の問題解決をした報酬と合わせまして、引き続き能力もそのまま使えるその体。
当面の生活費として戻す先のあなたの故郷の国の、一般男性の年収分と新しい戸籍。 そして身に付けている間は、あなたの元の姿に“見える”腕輪をお渡しします」
ちょっと待ておい、その腕輪があれば元の居場所を取り返せるじゃん。 なんて言おうとしたが、欲しい回答はすぐやって来た。
「腕輪の使い所は、あなたの家族やとても仲の良かった友達へこっそり会って話し合う時に、自身の証明で使う程度ですよ。
死んだはずの人間が普通に生活してる、なんてご近所さんが騒ぐのをきっかけにして、社会へ知られたら大パニックです」
「……そうか、そうだよな。 故郷では死亡扱いなんだよな、俺」
マトモじゃない精神状況で考えが足りなかった。 元の俺のままでの生活を諦めるしか無い状況に、神自ら俺を追い込んでいるんだと言う認識が。
これは冷静にならないと。 と感じて、深呼吸を数回。 眉に唾を塗って、耳の穴も魔法で綺麗に掃除してっと。
「まずあなたが向こうへ帰還してからすべき事は、ダンジョンを作りたい場所を見つける所からでしょうか」
「作ったダンジョンは、税金とかかかるのか?」
これはとても大切な質問である。 当面の資金はくれると言っているが、基本そこで生活すると言うことは、国民の義務として税金が嫌でもついて回るのだから。
ついでに他の、ダンジョン設置に関係する質問も幾つかしていく。
それらの主な返答だが、直接税とか言うのは国の特例で免除。 払うのは消費税とかその辺。住所はダンジョンを設置した地域の役所に作ったよと申告すればOK。
ダンマスがダンジョンの外に出ても死ぬとかはない。 あとは国のダンジョン関係の組織と相談して、大まかな方針を決めて運営すれば良しのお手軽さ。
質問への回答はなかなかに誠実で、警戒する必要は無かったかもな。
「訊きたい事はもう有りませんか?」
「大体はな」
「では、向こうへ送ります。 もしまた疑問が湧いたら、地球の神へお願いしますね」
分かった、じゃあな。 女神との別れは、あまりツラくない。 だって奴のせいで俺の人生はメチャクチャにされたのだ、まだ恨み辛みはたっぷり残っている。
足元に俺の人生を壊してくれたあの魔法陣が現れ、これで帰れる。 とぼんやり考えていたその時だ。 奴はまだ隠し玉を持っていやがった。
「おっと忘れていました。
あなたは地球の神の代理人……その庇護欲を誘うとても可愛らしい容姿で、神からの通達を記者会見等で行い広める広報係以外に、地球人類からのダンジョンや神へのヘイトを薄める苦情処理係としても、働いて欲しいそうです。
大変でしょうが、頑張ってくださいね~」
「ふざけんな! それ、わざと伏せていただろ! それ聞いてたら――」
――断られるかも~とか予想して伏せてただろ~~!!! 最後の最後で本当に厄介な仕事まで押し付けやがって、嵌めやがったなチクショ~~~!
神への文句を最後まで言い切れずに魔法陣の光で視界が埋め尽くされ、ついでに意識も薄れていった。
帰還し家族への挨拶も済み、ダンジョンも設置し、これから(初心者に優しい)ダンマス業を始めるぞー。
そう気合いが入ってしょうがない時期に、地球の神から代理人として働く時に着てほしいと贈られた、衣装の入った箱。
封を開けて中身を覗くと、主人公は瞬時に苦虫を何匹も噛み潰す。
「ミニスカメード服にスク水セーラー、バニーセットに改造巫女服……果ては深スリットシスター服」
地球の神はまともではない、奴は筋金入りの変態だ。 それを心に強く刻み付けた主人公であった。