05話 天使の反抗とサッカー女王
2メートルは超える毛むくじゃらの大きな壁が突然現れた!
土煙が壮大に立ち上がる中、ミルドレイズは身構えた。
ミサキは驚いてへたり込み、腰を抜かしたのか四つん這いになって落ち葉を蹴散らしながらどこかへ行った。
白いパンツが丸見えになっているのもおかまいなしに。
僕も驚いて毛を逆立てた。
マリースは…。
あれ? 何の反応も無い。
そればかりか腕の中にいる僕の背中を、
「いいこ、いいこ」
と言って撫で始めた。
不思議とこのコに撫でられると気持ちが落ち着く。
現時点でこの世界に来て一番落ち着いていられるのは彼女の腕の中だけ。
僕を食べる気らしいけど!
「マリースちゃんはびっくりしないの?
なんかとんでもない化け物が現れたのに!」
「私は大きなケガをして
そのせいで心を失くしたみたいだ、
ってミルミルちゃんが言ってたのです」
「今のこの状況、
怖くないの!?」
「怖い、て。
どんな気持ちになるのですか?」
少女は無表情で首を傾げる。
ホントに解らないらしい。
あーなんか今まで落ち着いていてボンヤリ立ってる事が多いと思ったら。
目に生気が無いのも何も感じていないからなのね。
マリースちゃんは僕を地に降ろすと背負っていた刀を投げ捨てた。
ミルドレイズも分捕った鎧を投げ捨てている。
「追いつかれましたよ、ミルミルちゃん」
「見ればわかる。
ってかその呼び方やめろや」
ん?
「ミルミルちゃんって誰?」
「ミルドレイズちゃんだと言いにくいです」
「何年一緒にいると思ってんだ!
いい加減、慣れろや!!
ってかその大笑いを止めろ、クソイヌ!」
「あーはっはっはっ…はぁー…
ってお前は何踊ってるんだ?」
ミルドレイズ改めミルミルが背中の大剣を抜くと激しく踊り出した。
いや、見間違いとかじゃない。
明らかに踊ってる。
「準備運動ですよ、ダルマちゃん」
マリースが代わりに応える。
夕日のオレンジ色の細い光が無数に射し込む中の舞。
こんな状況じゃなければ見惚れるぐらい美しい剣舞だった。
「マリー、
ミサキを連れて下がっていろ」
「降臨演舞、基本の型」
あれ? どこから出てきたんだ??
マリースの手には少女の腕の長さ程の金の棒が握られていた。
それを手にゆっくりとした単調な動きで同じく踊り出す。
「下がってろって言ってるだろ!
お前の力じゃ魔剣を受け止めきれねえんだよ!」
「でも、ほら。
また来ました」
再び轟音と大きな振動。
もう一つ毛むくじゃらの大きな壁が増えて逃げ出した山賊の一人が大刀に潰された。
ミルミルは大きな女性だ。
多分180センチはある。
だがその緑色の肌の猿達はミルミルよりふた回り大きい。
3メートル近くはあるだろう。
その巨体が上から降ってきた!
盛り上がった肩の筋肉、長い手足や短足な体は茶色の体毛で覆われている。
鼻筋とお尻が赤くて長い尻尾がある。
ゴリラと形容したかったけど猿だな。
その大猿が銀に赤い模様が入った大刀を担ぐと鼻を鳴らして辺りを見渡す。
「ぎひいいいいいぃぃぃぃっ!!!」
只一人生き残った山賊が悲鳴をあげながら逃げていく。
その姿はあれだ。
親がどうして四本足で生んでくれなかったのか恨みながら走る感じ。
大猿が声の方を向く。
ああ、これであの山賊も終わりだな。
って、おいおいおいおいおいおいっっ!!
二匹の猿は山賊を一瞥しただけで。
僕達に気付くと慟哭のような悲壮な鳴き声を上げて。
大刀をおろすとひきずりながらこちらへ揃って歩きはじめた。
右手に刀を持つのが一匹、左手に持つのが一匹。
「くそっやっぱ狙いは俺達かよ。
マリー、踊ってないで下がれってんだっ!」
「昨日はミルミルちゃん一人では無理でした。
だから私も戦います」
「くそっ!!
いつもみたいに大人しく俺の言う事を聞け、マリー!
なんで今日は反抗的なんだよっ」
ミルミルは黒い大剣を斧の形に変形させて飛び上がり、右手刀持ちの方に上段から斬りつける。
「死ねぇ、ヤンジ―ガ!」
剣が大猿に届く刹那、青い光が渦を巻く。
その光は空中で刃の進行を防いだ。
おお、この世界に来てやっと魔法っぽいものが見れた。
大猿が放つ1メートル四方ほどの青い光の壁を見て、やっとファンタジーな世界に来たと実感できた。
これが”バリア”の魔法。
人間の子供や攻撃魔法を持たない者、爬虫類や昆虫さえ持つ。
と、召喚術士に教えられた。
じゃあここの動物はみんな無敵かと言えば。
より強い魔力をぶつけるとバリアは壊せる。
結局弱肉強食の世界。
一人と一匹は魔法と剣をもつれさせたまま大地に降り立つ。
ミルミルは体を回転させて、光の輪の無い所から剣をヤンジ―の身体に叩き込んだ。
再び回転して、慟哭をあげるヤンジ―に別の角度から斬り上げる。
「聞けぇ猿共ぉ!
バリアの魔法を捨てて強くなる、それが人間様よぉ!
天女降臨演舞・閃斬演舞っ!!」
はい、僕のファンタジー世界への憧れは数秒で消え失せました。
バリアの魔法が破られるとヤンジ―ガは滅茶苦茶に大刀を振り回す。
大振りなそれは周りの木々を切り倒していく。
その攻撃の隙ついてミルミルは回転しながら斬りつけていく。
緑の猿でも血は赤いんだな。
バキバキと木々を倒しながら、左利きのヤンジ―ガがマリースに近づいてくる。
マリースは身長140センチくらいか。
大猿の半分以下やんか!
ヤバい。
逃げる。
美幼女をおいて自分だけ逃げるのは心痛いけど。
僕に出来る事は無い。
何となく親近感が湧いて「マリースちゃん」って敬称付きで呼んだけど。
正直コイツらがどうなろうと知ったこっちゃない。
誰かとツルむ気は無いし。
この世界で一人で生きていく。
回れ右すると脱兎のごとく走り出す。
獅子族だけどな。
暫く走ると首根っこを掴まれた。
「どこへ行くのかしら、
役立たずのゴミイヌちゃ~ん?」
ボロギレ女王ミサキだった。
少し離れたところにある大木の後ろに避難していたようだ。
僕を目の高さまで持ち上げる。
必死に暴れて抵抗するが逃げられないっ!
ネコちゃうんやから首根っこ掴むなやぁぁぁ!
反則やー。
「僕はお前たちと一緒にいるつもりはねえ!
だから逃げるんじゃぼけー」
「肉屋で買ったラビタ三匹分の肉を魔方陣の描かれた紙の上に載せて呼んだのが
アンタなの!
召喚紙は道具屋で安売りしていて興味本位で買ったの」
「それがどーした」
「つまりラビタ三匹分の肉と召喚紙を買った金額分は働けってのよっ!!」
「知るかぼけぇぇぇぇぇっ!!」
「痛っっっ!」
首根っこを掴んだ手が開き、僕の身体は自由落下を始める。
華麗に着地。
ミサキの手首にひっかき傷がありそこから赤い液体が盛り上がってきた。
自分の手を見ると鋭い爪と肉球がある。
爪は力の加減で出したり引っ込めたりできる。
自分の手の観察をしていると再び首根っこをつかまれた。
しまった、今のうちに逃げときゃよかった!
「ク・ソ・イ・ヌ―ッッ!!!」
ミサキの顔が怒りで歪んでいた。
金色の瞳がギラギラ光る。
いつだって他人をいじめるヤツの顔はブサイクだ!
それに爪で引っ掻いたのは事故だし。
「やんのかー、また引っ掻くぞ
ごらぁぁぁぁっっ!」
「その立派な爪で…」
重力に逆らって僕の身体が浮く。
上に放り投げ上げられたっっっ。
「猿と戦ってこいやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「痛えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!
思いっきりお尻を蹴り上げられた!
僕の身体は…
真っ直ぐ左利きの猿の元へ飛んでいく!
いいコントロールじゃねえか、クソアマァァァァァァァァ
地球に生まれてたら女子サッカー界で女王って呼ばれてたかもなぁぁっっ!
目の前に凛々しくもブサイクなヤンジーガの大きな顔が迫る。
大猿は僕を避けようと身体を動かしたが咄嗟の事で対処が遅れる。
結果、僕の身体は緑の顔に激突した。
僕は落ちまいと大猿の顔に爪を立てた。
それでも支えきれずずり落ちる。
自然とお猿様のお顔を引っ掻くこととなる。
40センチ程の身体にとっての2メートルは結構高い。
落ちまいと必死に足掻いて頭頂へ登ろうとした。
爪が肉に喰いこんで肉を引き裂く感覚が身体に伝わる。
キモチワルイッッ!!
ケモノクサイッッ!!
血が噴き出して血だらけだぁぁぁ!!!
「グガアアアアアアアァァァッッッッ!」
痛みで大猿が暴れてヘドバンし始めたあああっっっっっっっっっっっ!
振り落されないようにどこかにしがみ付こうと手を動かしていると。
ズボッ!!
ぎにゃああああああああああああっっ!!
手が喰われたあああああああああああああああっっっ
ちっ違うっ!
大猿の目に手が入っちまったあああああ!
キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイッッ!!
そして大きな手が迫って来たし!
僕を掴もうとしたその手を回避っっ!
そして僕は空中に投げ出されたあああああわあああああっ。
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