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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
2章 ゼイタ動乱 からラストへ
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07話 馬と熊と

 敵兵の中に突っ込むノラ。

 ジャキッ! と音がして。

 ノラの防具や服や革のスカートから数えきれないほどの短い刀身が頭を出す。

 投げる動作もなく無数の短剣が敵兵にぶち込まれた。


 トローカの防衛線はすでに崩れ、里の人々が逃げまどって混乱状態。

 ゼイタの兵が魔法を使って柵や建物を吹き飛ばしていた。


 そこへ静観していたシラバ軍が横やりを入れてきたので敵も味方も大混乱になった。


「マリちゃん、いまのうちに干し肉を食べるんや!」

「はい……

 あ」

「どうかしたの?」

「これで干し肉最後です」


 マリちゃんさらに超々ピンチ!


「フホホホ、魔剣持ちといえどこの程度なのねぇ」

「クソッ、クソッ!」


 オカマ将軍の連環剣を一人で防いでいたミルミルも劣勢気味だ。


「どうしよう、マリちゃん」

「ミルミルちゃんを助けます」

「そうだね、まずあのオカマを何とかしないと……」


 その時。

 ゼイタ軍の左右から突然騎馬隊が襲い掛かる!


 援軍か?

 でも一体どこの軍勢だろう?


「タトウズ警ら隊副隊長、

 セント=オル=ジャムハ、ここに推参!」


 トローカの里の真ん中を東進してきた騎馬武将が名乗りをあげた。

 違う、あれは騎馬じゃない!

 半人半馬、正確には下半身に馬型の鎧を付けた武将。


「このトローカはこれよりタトウズ城国の領土となる!

 ゼイタのカマル将軍!

 命が惜しくば軍を引き上げろっ」

「ぬぬぬっ、よりによってジャムハが出てくるなんて!」


 そう言うとサイガーを転身させてカマルは城へ退却していく。

 自軍の兵を置いて。


 大将に置いていかれた哀れなゼイタ兵たち。

 訓練されたタトウズ軍に包囲されてほとんどが討ち取られた。


 ジャムハ副隊長、これが買い出し隊が密かに盟約を取り付けた武将である。

 トローカの里はこの援軍に喜び沸きに沸いた。


「おつかれーミルミルー」

「大丈夫ですか、ミルミルちゃん?」


 僕らが声をかけると座り込んで悔しそうに地面を叩く。


「クソッ!

 カマルのヤツ、昔より強くなってやがる!!」


 どうやら元気そうで無事みたいだ。


「無事か、レイズ!」


 ノラが駆け寄ってきた。


「人の無事よりも自分の心配をしろよ。

 お前の部下はみんな引き上げたでー」

「なにっ、あいつら!

 隊長のアタシを置いてゆくなんて……

 おいレイズ、

 行く所が無いならシラバの私の所へ来てくれよ!

 じゃあ元気で」


 僕の言葉に驚いて引き上げていくノラ。


 疲れてボンヤリとトローカの民がはしゃいでいるのを見ていると。

 僕らの元へモーリエが慌ててやって来た。


「ミサキ、ミサキさんはいますか?」

「そういえばアイツ、どこ行ったんや?

 マリちゃん見た?」


 首を振るマリちゃん。


「ああ、やっぱり!」

「どうしたんやー、モーリエ?」


 尋常じゃない慌てっぷりのモーリエ。


「里の人で、ミサキさんがゼイタ兵にさらわれていくのを見た人がいて!」

「なんだってー!?」

「チッ、あのマヌケお姉ちゃんが!!」


 驚く僕と怒るミルミル。


「ゼイタの王は”色欲王”と呼ばれている暗愚な王様です。

 城に連れていかれると何をされるかわかりません!」

「色欲王?

 とんでもないあだ名やね。

 何かしたの?」

「はい、ゼイタ城の若い女はみな城に幽閉されているって聞きました」


 無理やりハーレムを作ったのか。

 鎖国した目的はソレなんだろうか。

 だとしたら暗愚を通り越して大馬鹿野郎だな。


「それはヤバいな!

 早く助けにいかな……」

「いや、もういいんじゃねえか。

 別に助ける義理なんて……」

「え!?」

「え?

 だって姉妹になったのでしょう?」


 ミルミルの言葉に驚いて固まるモーリエ。

 僕も正直驚いた。


「姉妹つってもな、アイツが勝手に決めたことだし。

 ああいうヤツはどこ行ってもしぶとく生きてるモンなんだよ」


 地面に胡坐をかいて耳をほじくるミルミル。


「お前、結構ひどいヤツだな」

「そうか?

 割り切って考えなきゃ自分が生き残れない世界なんだよ!

 それに俺はマリー無事ならそれでいい」


 うーん、一理ある!


 でも。

 それまで黙って話を聞いていたマリちゃんが口を開く。


「ミサキちゃんは家族でお姉ちゃんです。

 助けます」


 マリちゃんが自分の意見を言ったことにさらに驚く。


「……チッしょうがねえなー。

 じゃあいっちょ助けるとするかー」


 ミルミルの変わり身の早さにさらにさらに驚く!


「うんうん、きっとそう言うと思って!

 村にあったナババの実をかき集めたから持って行って」


 こうして僕らはゼイタ城国へ目指す。

 トローカの民にとっての「英雄」は僕らからジャムハに変わった。

 だから挨拶もせずに里を出ても誰も気が付かなかった。


 

「あー、荷物持ちがいねえと大変だな」


 ゼエタへの街道をナババの入った袋を引きずるミルミル。

 ナババを歩きながら黙々と食べるマリちゃん。

 僕はリュックの中でナババを頬張る。


 ナババはまんま、バナナみたいな食べ物。

 味もほぼバナナ。

 里の周りにはご神木以外木がなかったから畑で採れるのか。

 それを裏付けるように土が付きまくっている。


「マリー、いっぱい食べて荷物を軽くしてくれ」

「はいー」

 

 そこへ草むらから山のように大きな影。

 ミルミルは急ぎ魔剣に手をかけた。


 が。


「久しぶりだな、ダルマ殿」


 同じ召喚獣のくまあらし族のベアルだった。


「姫から伝言があるのだが、ちょっといいか」


 「姫」とは召喚術師マスター、レナレナを指す。


「いいけど。

 でも今は少し急いでるねんけど」

「では歩きながら話そう」

「ああ、そういえば砦で見たヤツだな。

 おい、デカいの!

 俺たちは朝から戦っていて疲れてんだ。

 背中に乗せていけ」


 ミルミルのワガママにベアルは怒ることなく頷く。

 二人は背中に、僕は頭の上に乗せてもらう。


「ベアル、伝言って何?」

「うむ。

 『この世界の歴史を変える知識の披露は禁止』と。

 発電したり火薬を作ったり。

 身近なところだと透明なガラスを作ったりだな」


 おう、知識チートか!

 こっちの世界に来てから色々ありすぎて思いつかなかった、不覚!


「もし披露したらどうなる?」

「即回収します、って話だ。

 姫は我々召喚獣の思考をある程度トレースできる」

「二人に文字や計算を教えたけど、それはどうなの?」

「それぐらいなら許容範囲だと言っておられた」

「相対性理論を教えたとしたら?」

「即回収」


 まぁ理数の苦手な僕には、人に教えるほど理解してないけどね。


「私は転生前は軌道エレベーターのエンジニアだった」


 へっ、きどーえれべーたー?

 突然のSFチックな言葉を聞いて、その単語の知識を思い出すのに時間がかかった。


「ええ!?

 それが本当なら僕が元居た世界よりも化学が発達した世界?」

「そうそう。

 ここに来て魔使石マジカストーンを使って計算機を作ったよ。

 大きなお屋敷の大きさになったけどね」

「それは……すごい!

 今度見せてよ」

「姫の命令でもう壊しましたよ。

 理論的にはコンピューターも作れるよ。

 大きさは城レベルになるけどね」


 おいおい、それって。


「ベアルほどの知識があればこの世界を救えるやないか!」

「確かにこの世界は不条理があふれている。

 しかしダルマ殿もゲン殿も、そして私も。

 この世界に逃げてきたんじゃないか?

 姫もこの世界を救うために召喚術師をやってるワケじゃない。

 あの方は友達が欲しい気持ちからその魔法を身につけられた」

「レナレナ、ぼっちだったんか……」

「そう。

 だから私は彼女に寄り添い、従う。

 ……おや、もうすぐ城国だ。

 みんな降りてくださいな」


 クマの巨体から降りるとミルミルがベアルに話しかけた。


「お前、ダルマより力が強くて使えそうじゃねえか。

 俺たちと一緒に来ないか?」


 うるせー。

 僕も好きでこんな小さな身体になったんじゃない!


「私は姫の命令が無い限り君たちの事に干渉はできない。

 ではさらば」


 突風と共にベアルが駆ける。

 あっという間に米粒ほどのサイズになると山陰に消えた。


「……マリー。

 ダルマたちの言ってる事、理解できたか?」


 ナババを食べながら首を振るマリちゃん。


「だよなー。

 ダルマ、てめー頭だけはいいんだな」

「いやぁ、ベアルの足元にもおよばへん」

「ははっ、

 じゃあお前はアイツに勝てるところは何一つないんだな」


 なにひとつ反論できないな、ぐぬぬ。


「さて、じゃあ魔の鎖国の国、ゼイタへ入ってみるか」


 ミルミルは軽くなったナババの袋を担いで歩き出した。



 粗末な城壁の、粗末な城門の前に来た。

 長く高くはあるものの、土とレンガを適当に積んであり急ごしらえ感が半端じゃない。


 城門脇の小屋から男女の話声と笑い声が聞こえる。


 通用門兼番兵の控室と思われる小屋を覗くミルミル。


「なにやってんだよ、お前!」

次話 明日投稿。

次回から一気に話を進ませます。

11話でラストになります。


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正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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