05話 魔砲台と天使
放たれた多量の尖った杭が高速でミルミルへ襲いかかる!
「おふぅっっ」
身体の横から高いGがかかり思わず声が出る。
直後にカンカンカンと鳴り響く金属音。
「サンキューな、
マリー」
ミルミルがいてマリさんの頭を荒く撫でる。
状況を説明すると。
杭が発射されたと同時にマリちゃんが前に躍り出て、身体に巻き付けて隠していた金の杖を取り出して傘状に広げた。
金の杖は魔力で尺を伸ばしても面積を拡げても全体の質量は変わらない。
つまり伸ばせば伸ばすほど杖は細くなっていく。
直径2メートルの傘にすると傘地部分は薄くなるわけで。
木の杭が金を突き破って止まっている、という珍しい光景が見れる。
突然の金色の障壁の出現に敵は一瞬怯んだが。
すぐに杭の雨が降り高音の金属音が鳴り響く。
うーん、さすが戦いのプロ。
「もう傘はそんなに長く持ちませんよ」
マリちゃんの声は冷静だが、杖への魔力供給に限界を感じているらしい。
「敵の左右が散開。
横に回り込むつもりや!
真ん中のヤツが牽制してるっ」
僕は金の傘に登って状況を説明。
魔砲台は一人左右2門ずつ計4門、合計12問。
それぞれ砲身の長さが違う。
発射時の反動は少なく女性兵は歩きながら発射している。
真ん中の女兵が一番長く、向かって右のが一番短い。
解りやすいように砲身の長さで名前を勝手に決めよう。
真ん中の長いのが「松子」。
次が左の「竹子」、右の短いのが「梅子」。
「梅子」が速射度が高いが命中率が低い。
後ろの砲弾供給係の後輩ちゃんは大忙しだ。
「砲術師との戦い方は教えたよな」
「はいです。
糸は使わないので弾は曲がりません。
砲身の正面に立たなかったら当たりません」
魔砲台を持つ者は砲術師って言うんだね。
「よし、合格だ。
俺達も左右に散開、
ヤツらが俺を撃つ間にマリーは杖で傷を負わせろ。
出来るな?」
「了解や。
その前に質問ええかな」
ナップサックに戻りながら、マリちゃんの代わりに僕が答えた。
「何だイヌ。
時間がねぇんだよ」
「堅固魔法はあっても装備は潰せるよな?」
「あー強化の魔法かー!?
より強ぇ魔法が攻撃をぶつけりゃ無効化できるぜ。
モーリエの家だって俺が本気で殴れば潰せるぜ!」
潰すなよ。
モーリエママに怒られるぞ。
「わかった、
早く行け!」
「イヌのクセに俺に命令すんな!」
ミルミルが左へマリちゃんは傘を閉じて右に散開する。
ミルミルに向かって敵の一斉射が始まる。
杭は目に見えない速さで飛んでいく。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!」
左右に走り回るミルミルに対して砲術師達は照準器無しで目測と感で撃っているが、かなり良い狙いをしている。
「よし当たる!」
「梅子」が叫ぶと同時にカーンという小気味よい金属音が響く。
「汝、我を盾にするな!」
「うるせえー!
俺を守らなきゃ剣が持てない身体になっちまうぞ。
それじゃあお前も困るだろうがよ!」
魔剣コンビがいつものように口ゲンカをしながらも杭を避けて弾く。
僕らは麦畑の端に身を隠した。
とりあえずマリちゃんが干し肉を食べるの待ち。
「あの杭ってどうやって射出してるんやろうなあ」
僕が何となく思ったことを口にすると。
「あっちの人は弾に魔使石を使ってます。
あの人は筒の中に魔使石を並べていて、
こっちの人は魔砲台全体に魔法をかけています」
マリちゃんが干し肉を持たない左手で指しながら説明してくれた。
「そんな事までわかるの?」
魔力が感知できるのはユーエンの砦で見たけど!
「魔力の流れを見て、そう感じただけでふ。
魔使石に、魔力を込めるのに、時間がかかるけど、正確。
魔使石使わない人、撃ちまくりまふ」
干し肉をはみはみしながら教えてくれた。
以上の情報と状況を見てまとめると。
竹子、魔使石を埋めた杭を使用して撃ち出し、速射度中。
松子、杭を操作する魔使石を砲身に並べて撃ち出し、速射度低、命中度高。
梅子、砲台に魔力を流してそれに触れた杭が順次放り出される。
現在部隊の指揮を執ってるのは松子。
ミルミルを助けるには命中率の高い松子と竹子を先に倒したいが。
今の位置から一番近いのは梅子になる。
「まあいいか。
一番杭をばら撒いている梅子から黙らせるか」
「梅子?」
僕は胸のナップサックからマリちゃんの顔を仰ぎ見て真剣な声を出す。
「いい?
マリちゃんは人を殺さない」
「殺しません」
「そして無闇に人を斬らない」
「斬りません」
「武装破壊かぶん殴って黙らせる」
「壊します、殴ります」
シーワン村の時のように、マリちゃんが惨い切り裂き魔にならないように。
この数日毎日教えてきた約束。
「人を殺さない」というマリちゃんのポリシーと、操金術という凶器の妥協点。
もちろん自分の命優先をするようにも教えている。
すべては自衛の為の攻撃。
「じゃあ行こう!
一番近い砲術師の近くにワイヤーアクションッ!!
レディー…ゴーッッ!」
これが秘密の特訓の成果。
要は巨人を駆逐する立体起動装置を操金術でやってしおうって話。
里のご神木様で練習していたのは申し訳ないです。
「梅子」の近くの地面に金の杖を伸ばして先端を撃ち込み、一気に縮小して身体を運ぶ。
砲術師たちはミルミルを追い込むのに必死でこちらには気付いてない!
「梅子」がマリちゃんの着地音に気が付いた時にはもう遅い。
「マリちゃん、砲台にアンカー!」
「はいっ」
木の砲台に金のアンカーが撃ち込まれる。
マリちゃんの魔力の高さを舐めんな!
「なにコイツ!?
アタシの魔砲になにしてんの??」
慌てながらも「梅子」は身体を反転させて僕らを砲撃しようと行動する。
「杖を一気に縮めて、
斧で砲台を叩き壊して!」
「はいっっ」
杖のアンカーとは反対の先端を斧にして左の魔砲台に叩き込んだ。
「くそおおっこのクソガキがああああっっ!!」
「梅子」は口汚く罵りながら右の砲台をマリちゃんに向ける。
ほぼゼロ距離で腰撃ちでも絶対ヒット確実、ヤバい!
と、思った瞬間に視界がぐりんと回る。
元の位置に戻ると「梅子」がひっくり返っていた???
「蹴り倒しましたが、
これでよかったですか?」
回し蹴りで足払いして転ばしたってことか!
頭でも打ったのか「梅子」は気絶していた。
「オッケー、上出来!
右の砲台も潰して」
アンカーを地面に打ち込んで金の斧で叩き割る。
「お姉様ぁぁぁっっ!
おのれえええっっ」
「梅子」の後輩ちゃんが涙目で取っ手の付いた太く短い筒を構える。
これは考えなくてもわかるぞ。
単発で杭を打ち出す魔法装置。
同時に「松子」「竹子」が「梅子」が落ちた事に気が付いた。
「アタイが対応するからアンタは魔剣に集中しろ!」
「松子」が砲身をこちらに向けてきた!
「マリちゃん、
退避いいいい!?」
僕の指示の前にマリちゃんは近くにいた後輩ちゃんをスライディングで転ばせ、地面に押さえつけていた。
「これでいい?
ダルマちゃん」
「お、おう。
百点満点ですよ」
5回目のシルトの効果なのか。
戦闘では自分で考えて行動している。
いや考えているのか?
敵意を向ける相手に反射的に動いていた気もする。
それって戦闘のプロレベルやないか!
我が主は時々得体が知れなくて恐ろしい。
しかし状況はよくなった。
後輩ちゃんに当たるのを恐れて「松子」は杭を撃てない。
「マリちゃん、ここからアイツの砲台を壊せる?」
僕は「松子」を指さす。
「無理です。
遠いです」
「じゃあ、ジグザグに弾を避けて近づける?」
「やります」
言うが早いが金の杖を伸ばしてワイヤーアクションを行う。
後輩ちゃんから離れたマリちゃんを「松子」は杭を一発ずつ撃つ「4段構え」で狙う。
マリちゃんは右へ左へと地面に杖を打ち込み杭を避けながらワイヤーアクションを使って「松子」へと近づいていく。
素晴らしい特訓の成果だ。
しかし、ナップサックに乗っている者にとっては地獄だ。
酔うううううううぅぅ。
「くっ!?」
「松子」が近くに迫ったマリちゃんを睨む。
速射度の低さを「4段構え」で補ったのは素晴らしい。
でもパワーアップしたマリちゃんの方が上でしたー、残念!
「マリちゃん、
砲身をぶった斬って!」
「はい!」
砲台を壊された「松子」は戦意を喪失、後輩ちゃんと一緒に幌馬車まで退避した。
近接戦闘は出来ないっぽい。
「竹子」は風車のように魔剣を回し杭を避けるミルミルを、一人では止められなかった。
ミルミルにドロップキックを喰らって伸びてしまった。
「ハァハァハァ……
やっと止まれたぜぇ、チクショー!」
「契約者よ、
早くこの者を斬れ」
「無抵抗のヤツは斬らねぇよ」
ボロボロになって肩で息をしているミルミルと魔剣と合流。
「マリちゃん……」
「はい」
「酔った、
き゛も゛ぢわ゛る゛い゛……」
そう言った途端、ナップサックからポイッと捨てられた。
扱いが酷くないですか我が主、でもこれでマリちゃんを汚さなくオエエエエェェ……
そこへ。
「この小娘がああああぁぁぁ!!」
鬼の形相でノラが突っ込んできた!
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