04話 南からの追跡者
僕はマリちゃんの胸へと駆け上がる。
身体に前掛けにした小さなピンクのナップサックの中に入り顔だけ出す。
これは近所の子供から借りた僕の特等席。
このせいでマリちゃんの胸の成長が阻害されないか少し心配。
「女、子供は家の中へ!
家長は武器になりそうな道具を持って集まれ」
右往左往する里の者の間を抜けて僕らは歩く。
「里長、誰も村から出すなよ!」
「おお英雄のみなさん。
里を救って頂けるのか!?」
「敵はどのくらい……」
ミルミルが里長と話していると。
「聞け―っ。
私はシラバ城国第二軍第13小隊隊長、ノラ=デ=シッラ!
魔剣を持った女を追ってきた!!」
里の東側出口の外から通りのよい若い女性の声が響く。
「んっっ!
なんだって!?」
ミルミルが速歩きから全速力で駆け出す。
「魔剣を持った女だ!
非常に危険であるっ。
その女は我が国統治下の村の者の半数を斬って逃亡したっ!!
女の情報を持つ者は……」
「ノラ!!」
僕らがミルミルに続いて村の外の広場に出ると、ちょうどそのノラさんがロバのように小さな馬から急いで降りているところだった。
全速力で走るノラ。
「レイズ!
ミルドレイズッ!!」
腕を広げて駆けるミルミルに飛びついて抱き合った。
百合的にいい光景だ。
ちなみに美少年同士が抱き合う姿もキライではない。
僕は雑食なんだ。
「生きていた、生きていてくれた!
よくあのシシーの街の大混乱で生きていたなっ」
ノラの瞳に大粒の涙が溜まる。
「俺はそう簡単に死なねえよ。
お前こそよく生き延びられたな!」
「アタシはお前を探して賊の方へ走っていったからなっ!
アイツらアタシを仲間だと思ったんだろうさっ」
2人で大笑いするとまた固く抱き合う。
その簡単に死なないヤツは山車の下で気絶してたと聞いたけどな。
そういう幸運や勘違いがないと生き延びられない程の大混乱だったのだろう。
シシーの街。
それがマリちゃんの故郷の街。
「なんて幸運な日!
魔剣を追ってここまで来た甲斐があった!」
「お前はシラバに士官したんだな」
「そうだ。
レイズは今までどこに……
いや、何でこんなところに居るんだ?」
ミルミルがバツが悪そうに頭を掻く。
「いやぁ…それがなぁ……」
左肩に装着したヤン・クオンを少し持ち上げる。
「たぶん俺がその魔剣の女なんだよ」
「んなあああっっ!?」
ノラが目と口を大きく開き後ろによろめいてミルミルから遠ざかる。
そこでやっとノラの風貌が観察できた。
全体的にはミルミルよりちょっと背が低く、スマートな印象。
肌が白く顔も美人の部類に入る。
問題はその深いグリーンの髪型。
前髪は斜めにパッツン、しかも左右で長さが違う。
後ろ髪も右がセミロングで左がショート。
左右で違うのはそれだけじゃない。
左肩にだけ肩当、右胸にだけ胸当、右腕だけ籠手、左腰にだけ腰当、左足にだけ脛当て。
装備が左右非対称だった。
佩刀は無く、腰に沢山のナイフをぶら下げていた。
今まで出会った野盗共は装備がチグハグで戦利品を適当に装備した感じだったけど。
彼女は何というか、わざわざキッチリとチグハグにして見える。
「うそだうそだ…そんな…
レイズが…そんな」
ノラはうずくまってしまった。
「お前はやる事がムチャクチャだったけど…
筋は通す女だった…
冗談なんだろう…だってこうして普通に話せているし!」
何かを望むような深い青の瞳でノラがミルミルを見上げる。
ミルミルが魔剣を右手で持ち構え、刃を覆っていたシャッターを開ける。
「よく見ろ、ノラ。
お前も感じるだろう、
この剣の禍々しさを。
俺は強さを求めコイツと契約をした。
だが正気を失っちゃいねえ!」
「本当にお前はムチャクチャだな……
昔から…」
ノラは立ち上がると肩を落としてヨロヨロと馬の方へ歩を進めた。
足を上げて馬に乗り込む。
ずいぶん派手に足をあげるなぁと思ったら、鐙がないんだな。
鞍も薄い座布団のようなモノを何枚もくくりつけただけ。
太ももの筋肉だけで身体を固定させるのだろうか。
中国三国時代には鐙がなかった、という説がある。
「髀肉の嘆」の話はそういうところからきてるんじゃないかと思ったり思わなかったり。
それはともあれ。
ここでもこの世界の古代感。
「シーワンで村人を斬ったのは、
あの村の傭兵だからね」
マリちゃんの横で様子見をしていたミサキが声を上げる。
「何!?」
「あの村で2本の魔剣が出てきて傭兵を狂わせたの!
その騒ぎを私達が止めたのよ」
「嘘をつくな!
あの村を調べたが魔剣は無かった!!」
「そりゃそうよ。
私達が、というかミルミル……
ミルドレイズが持ち出したもの」
「その剣はどこにある?
それがあるならその話、
信じてやってもよい」
「そんな物騒なモノ、
どっかに埋めたわよ!」
そうだ。
三姉妹の儀式の後、仲良くシルトで吹っ飛ばされた次の日。
あの山中で僕達はシーワン村の2本の魔剣を地中深く埋めた。
「それではっ!
証拠が無いなら話にならないっ!」
ノラが激昂した。
が、すぐに溜め息をついて馬首を廻そうとする。
「ちょ、ちょっとぉ!
待ってください、隊長!!」
「このまま魔剣を放っておくつもりですか!」
「王になんと報告するつもりなんです!?
あの女は村人をたくさん殺した大罪人なんですよ!」
ノラにつき従っていた3人の女性兵士が一斉に非難の声を上げた。
「おおっ!!」
僕はシラバ兵士達の武装を見て声をあげた。
急に大きな声を上げたので干し肉を食べていたマリちゃんの身体がビクンッと揺れる。
驚かせてごめんね。
ノラばかり見て気づかなかったが、その部下の武装。
戦艦擬人化キャラの武装そっくりの砲台を担いでいる!
「ミサキ、ミサキ!
あの女兵士たちの艦砲は何だ!?」
「何アンタは興奮してるのよ。
カンポーってあの”魔砲台”のこと?」
「マホウダイ…ああ、うん」
「アレに魔力を流して鉄球とか石とかをすっ飛ばすのよ。
魔剣を警戒して遠距離攻撃の兵を連れてくるのは妥当な考えね」
マホウに鉄球…つまり火薬はまだこの世界には無いな。
火薬の詰まった砲弾とかあったらミルミルみたいな剣士は廃れているよな。
シラバ兵の後ろの幌馬車の中から3人の少女が出てきた。
皆が手に帯状に連なった木の杭を手にしている。
女兵士の後ろまで来ると 艦砲…じゃなくて魔砲台に杭を詰め込んでいる。
何で木の杭?
よく見ればノラもシラバ兵も兵装が全部木製。
当然魔砲台も。
そうだ、シラバは木の城国だった。
城国内は全て木製だったのでスルーしていたが、城外で木の鎧を見ると異様に見える。
「なあミサキ、
木の鎧なんてミルミルの一太刀で割れそうだけど。
アイツら正気なんかね_?」
「堅固魔法がかかってるに決まってるじゃない!
あー魔法の無い世界から来たアンタには、
鋼の鎧が一番強く見えるのかしらね」
「あたり前じゃん」
「魔法で強化するから鎧は鋼でも革でも木でも硬さはあまり変わらないわよ。
そりゃあ鋼の方が堅固ではあるけど革だと動きやすい利点があったり。
まあ、好みとか地域で材質は変わるわね」
そこで僕は考える。
「その堅固魔法って布にもかけられる?」
「ええ、そういう職人ならね」
「じゃあ…」
「みんなで堅固魔法をかけた服を着てたら平和に暮らせると思った?
残念でしたー。
私のこの服、防刃魔法がかかってるけどいくらすると思う?」
「……庶民じゃ買えない値段ってことか」
「そーゆーこと」
何故かドヤ顔のミサキ。
僕はマリちゃんの服を見てから再度ミサキに視線を戻す。
「せめてマリちゃんにもそういう服着せろやー。
あーあー冷たいお姉さんやなーー」
「うっさいわね!
子供用の戦闘服なんてその辺に売ってるものじゃないのよ」
「私は子供じゃないです」
僕とミサキの会話にマリちゃんが割って入る。
「あーそうねーごめんねー。
子供じゃないよねー」
そう言いながらミサキはマリちゃんの頭を撫でて子供扱いしている。
僕らが雑談している間に、
「お姉様、装填終わりました」
「こちらも」
「準備できました、お姉様」
シラバ軍の少女達が声を上げる。
彼女たちは血のつながった姉妹?
には見えないけど断定はできない。
後輩に「お姉様」と呼ばせる文化があるならシラバは良い国だ!
「隊長!」
「ノラ隊長!」
「手ぶらで城国に帰れませんっ!」
「あーうっさい、うっさいっ!」
ノラがキレイなストレートで非対称な髪を揺らしてミルミルに顔を向けると。
「あーレイズ。
そのぉ降参して一緒に来てくれないカナ?
け、決して悪いようにしないからサ!」
ノラがミルミルとすごく仲が良いのはわかった。
しかしミサキや部下と話す時と態度が変わりすぎないか?
「面白ぇ冗談だな、ノラ!
俺を連れて行きたいなら久しぶりに本気で殺りあおうぜっ」
ミルミルは剣舞と言う名の準備体操を始める。
「そうだよな、お前はそういうヤツだよな」
ノラは深くため息をつくと、顔を部下に向き直す。
「おいお前達、好きに戦え。
だがなるべく生け捕りにしろ!」
「ハッ!!!」
3人の女兵士が進み出た。
自分の身体が隠れる大きな盾を地面に突き刺すとその左右から砲身を突き出す。
照準をミルミルに合わせて。
もし火薬での発射ならドドドドーン!!
そして吹き荒れる硝煙!!!
なんだけど。
雄々しい木の艦砲の発射音を字面にすると。
ぽぽぽぽぽぽーーーーん!
あいさつするたび ともだちがふえる、わけではない。
何とも締まらない音で、トローカでの動乱の第一幕が切って落とされた。
放たれた尖った杭が高速でミルミルへ襲いかかる!
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