02話 王城国の輸送隊
「やだっもう!
マリちゃんたら…」
ミサキが再び色っぽい声をあげる。
やっぱりお得感ゼロ。
モーリエパパが「うほっ!」って声をあげてママに引っ叩かれていたが。
マリさんがミサキの背後から腰に抱きつく。
背に顔を埋めて。
まるでコアラの親子みたいに。
こうなると気が済むまで離さない。
”三姉妹の契り”を交わしたあの夜。
感動した僕たちは仲良く並んで寝ころがって野宿をした。
マリちゃんの心にも響いたのか。
”シルト” が発動して仲良く4人と一匹が吹っ飛ばされた。
それ以降、ミルミル・ミサト・モーリエに時々こうして抱き付いて甘えるようになった。
契りの夜に居た者が対象。
それ以外には甘えない。
「家族になる」という言葉がトリガーだったのかなって推測している。
「マリーちゃん、まだ甘えたいトシなのねー。
お姉ちゃんはご飯中だからお母ちゃんところに来る?」
モーリエママが手を差し伸べてもマリさんはイヤイヤと首を振る。
「モーリエもこんなカワイイ時期があったなあ。
そういえば…」
モーリエパパの「将来はパパと結婚しゅるの!」時代の話はスルーで。
夕食が終わって元モーリエの部屋。
部屋、といってもスダレのようなもので囲ってあるだけの簡単なモノ。
僕たちがご厄介になっている間、モーリエは母親の部屋で寝起きしている。
なので今は僕らの部屋。
シルトに襲われる危険を承知でみんなで雑魚寝。
4回目と5回目のシルトを考えるに、よほどマリちゃんの心を揺さぶらない限り発動はしないはず。
たぶん。
天井からぶら下がるロープの高い位置に魔剣を括り付けるミルミル。
誰も魔剣を誤って触らないよう彼女なりの配慮だ。
僕はミサキに出した課題の採点をする。
使用している紙は木を極限まで薄くスライスして魔法で加工したモノ。
植物の繊維を濾して造る紙は存在するが、それは高級品という話だ。
ふむ、満点だ。
ミサキは元々3ケタ同士の掛け算なら暗算で答えられる程だ。
正直僕より頭が良い。
発言はバカみたいだけどな。
「今、なんか失礼な事考えてたでしょ」
布団の上に寝転がったミサキと目が合った途端これだ。
うるせーバーカバーカ。
マリちゃんも布団の上に転がるとすぐに寝息をたてる。
ミルミルは
革のつなぎから質素な綿の服に着替えると横になる。
マリちゃんのお腹に顔を埋めて。
コイツは時々こういう寝かたをするから困ったもんだ。
「お前は変態か。
マリちゃんに迷惑やろがー」
と異議を唱えると。
「うるせー、湿地まで投げ飛ばすぞ!」
と返ってくる。
やれやれ。
僕は頭上にぶら下がる魔剣を眺める。
「なあ。
最近魔剣に遭遇してないな。
どうしてだろう」
ユーエンの砦とシラバ、シーワン村と立て続けに遭遇してからは特に何も起きていない。
「なに、会いたいの?
あんだけ遭遇する方がおかしいのよ」
ミルミルは既に寝息をたて始めて、ミサキが答える。
「きっともう一生分の遭遇率を使い果たしたわよ。
もう灯りを消すわよ」
ミサキが光の魔使石のランタンをいじると闇が視界を支配した。
隣のモーリエママの部屋からボソボソと話し声が聞こえる。
僕とマリちゃんは白い長髪の少年の話を2人には話していない。
魔剣の遭遇と関係がありそうではあるが確証が無い。
付いてきている様子はないのでストーカーでもないらしい。
いや、ストーキングのプロなら誰も気付かない。
なんだよプロって。
うーん……
けたたましく鋭い音で目が覚めた。
藁のわずかな隙間から入り込む光で周りがほんのり明るい。
いつのまにか眠り込んで朝が来たらしい。
このけたたましく鳴り響く板木を叩く音は確か。
この里のエマージェンシーコール!
僕と3姉妹とカナイ一家が外へ出ると。
他の家族も外に出て里の北側に集まっていた。
「何だ、敵襲か!?」
ミルミルが普通の剣を振り回し叫ぶと里の人々が道を空けた。
僕らは先頭に躍り出る。
「これは英雄のみなさん。
敵ではないのですが。
見張りにはゼイタの兵に動きがあれば報せるよう言ってありますので」
この里の長が声をかけてきた。
長は50歳前後で精悍な体つきの短い髭を持つ男だ。
名前は何とか=トローカ。
祭りの時に聞いた名前を忘れた。
僕らのためにささやかな祭りというか夜の飲み会を開いてくれて。
酔ってミルミルに告って大笑いのミルミルと嫁さんにシバかれた、お茶目な長だが今日は真剣な表情。
「ゼイタって言えば、情勢不安な上に鎖国してる城国だよな!?」
「左様で。
この里とはまだ多少取引があるので襲ってくる事は無いと思いますが。
しかし正規兵が逃げ出し野盗の国となり下がったので油断はできません」
里の北は緩やかな下り斜面が続き、遠くの街道に赤く長い登りをいくつも立てた馬車の群れが見える。
その馬車へ武装した集団が襲いかかっている。
「野盗が馬車を襲ってんなー?
里の馬車なのか!?」
「あれは王城国の輸送隊の馬車。
禁を破って襲うなんて最低ねー」
誰とはなしに疑問を投げかけるとミサキが答えてくれた。
が。
ゴメン、よくわからん。
いつもみたいにマリちゃんが抱き上げてくれないと思ったら。
眠そうにモーリエの身体にへばりついていた。
馬車隊の前を歩いていた武装した兵士が反転して殿の兵と合流。
見事に野盗を打ち倒し野盗は退いた。
「敗走したのはゼイタの兵だな」
「王城国の馬車を襲う程、城内はひっ迫してるんだろうな」
見学していた男達の言葉を聞いてもイマイチ理解できない。
まあそれよりも、だ。
目の前の丘に広がる畑の方が気になる。
パサの花の畑。
ユーエンの砦の山賊幹部たちを狂わせたクスリの原料。
「ケッ、なんだよおい。
取引ってパサを売ってんのかよ」
「アンタがパサを嫌悪するのはわかるけどね。
コミューンじゃこうして生計を立ててるところは多いわよ」
「この世界じゃパサは普通に流通してるんやな」
「そうよ?
そんな当たり前の事、何を今更」
商家の娘だけあって、こういう話はミサキとしか出来ないな。
「僕のいた世界の僕の国では違法扱いや」
「はー、
ご立派なことねー」
「でも昔は普通に流通してたって聞いた」
「まぁ人のいるところではどこにでもある話なんでしょうね。
パサも人間の為に咲いてるわけじゃないし」
「医薬としても使われてるしねえ。
結局使う側の問題やね」
悲しい話だ。
「みんな、
今日は仕事を止めて家に籠って外敵に備えなさい」
長が里のみんなに告げる。
「これからの対策について話し合いたいので家長は私の家に集合。
…英雄の方々も参加願いたいのですが」
長はミルミルに顔を向ける。
ミルミルはミサキに視線を向ける。
「あーはいはい。
交渉事は私にお願いします」
「そうですか……」
「がんばれー、お姉ちゃん」
ミルミルの言葉にミサキがベッ! と舌を出すと長の後について歩きだした。
「ミルミルさん、ダルマさん!
さっきからマリーさんのお腹がグーグーと鳴りっぱなしで。
朝食にしましょう!」
モーリエがぐったりして腰にひっついているマリちゃんを引きずって歩いていた。
ぐったりマリちゃんの腰に手を回してミルミルが持ち上げた。
そこに再び板木が鳴り響く。
今度は短めに。
「買い出し隊が返ってきたぞーっ!」
「買い出し隊?」
「ああ、ゼイタ城国が鎖国をしたからな。
少し遠いが隣のタトウズ城国まで隊を組んで買い出しに行くそうだ」
なんでミルミルはそんな事知ってるんだ?
「マリー、ちょっと寄り道すんぞ」
「はいー」
ミルミルが死体を抱えているようにしか見えないんだが。
その疑似死体から返事があった。
向こうから9人の子供を連れた男がやってくる。
「やぁ英雄さん、ちょうどいいところに。
ご希望通り街の噂を聞いてきましたよ!」
「パパー、おみやげーおみやげー」
「パパーお腹すいたー!」
買い出し隊の一人らしい、里で一番子持ちの気さくなパパだ。
「その子は大丈夫なのかい?」
見たら心配になりますよねー、ぐったりマリちゃん。
「コイツは問題ない。
それより大きな動きは無かったか」
「南の大陸中央で大きな魔剣が暴れているらしいって話だ。
アイゼンなんとか?」
「アイゼンスルト」
ミルミルがその名を口にすると急に疑似死体が首を持ち上げたので、男を驚かせた。
「あぁそれだ!」
「他には?」
後の噂話は僕らには関係ない話なので割愛。
ミルミルは男に礼を言って別れる。
男は集会で報告の為に長の家へ向かった。
「アイゼンスルト……
……ガラン・クオン……」
カナイ家に運ばれるまで、ぐったりマリちゃんが魔剣の名を呟いていた。
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