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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
4/50

04話 天使の命名

 とうとうお釈迦様の掌の上に来たのかな。

 暗い闇の中、大きな手が僕を優しく撫でる。

 ああ癒される。

 体中の熱や痛み全てが癒されて消えていく気がする。


「おいマリー。

 その雑巾みたいな生き物を連れていくのか」

「うん、かわいい」

「かわいくなんかないわよ。

 そんなゴミなんか連れて歩くと不幸になるだけよ」


 撫でる手が止まったので僕は目を覚ました。


 最初に見えたのは透き通るほど白い肌の少女のアゴ。

 どうやら僕は少女の胸に抱かれているらしい。

 そこは天国のゆりかご。

 少女の甘く優しい香りに包まれて。

 少しばかり顔にあたる布越しの肋骨が気になるけど。


 僕が身じろぎしたのに気が付いて少女が視線を下ろす。


「気がつきました?」

「…あ、うん」


 無表情な顔の上にある左右で色の違う瞳の澄んだ美しさに一瞬だけ心を奪われた。


「マリー、

 こっちを手伝ってくれ」


 少女は僕をそっと地におろすと黒いマントの女の方へ歩いていく。


「…さっきから何してるのよ…えっと…」


 赤いドレスの女が黒いドレスの女に尋ねる。

 破れた赤いドレスはあちこちを結んでなんとか服としての機能を保っていた。


「俺はミルドレイズ。

 レイズって呼んでくれ。

 見ての通り獣人の末裔だ。

 こっちの小さくてぼーっとしてるのがマリース。

 こっちは人間な。

 お前は?」

「私はミサキ」

「死人に装備なんかいらねえ。

 これを街で売って日銭を稼ぐんだよ」


 ミルドレイズが男の死体から装備を剥ぎ取っていた。


「ふーん、じゃあアナタも野盗?」

「違えよ!

 見てわかんねえのかよ」

「わからないから聞いてるんでしょっ!」


 確かに見てもわからん。


 紫のクセのある髪の毛は盛り上がってはうねり、その中から髪と同じ色の大きく尖った耳が生える。

 2つの赤い目を持ち、浅黒い肌は返り血で濡れていた。


 マントの下では破れて申し訳程度の面積になったタンクトップかブラか判らなくなった布の中で大きな胸が揺れる。

 ズボンも破れて半分半ズボンになったハーフアンドハーフ。

 その合間からのぞく腕や足、胸元には無数の古傷が刻まれている。


 女盗賊と言われたら誰でも信じるぞ。


「前は傭兵をしていた。

 今はワケがあって休業中だがな」

「ふーん、ただの無職じゃない」

「うるせぇっっ!

 お前こそどこのお嬢様だよ。

 こんな山の中をドレス着てイヌ連れて一人で歩くなんて頭の中がお花畑過ぎるだろ」

「うっさいわね…

 今日初めて城国の外に出たばかりなのよ…」


 レイズとミサキの会話を聞き流しながら身体を動かす。

 あれだけ殴られた割には傷も骨折もなかった。

 痛みはまだ残ってるけど。


 光にすこしずづつ朱が混じり始めた山の中で辺りを見渡す。

 昨日は雨だったのか大きな水たまりがある。


 そういえば自分の姿をちゃんと見ていないな。


 汚れた水鏡に自分を写す。


 獅子族と言うだけあってライオンカラーの身体。

 耳と手足、フサフサの尻尾の先と端っこ部分は濃い茶色の毛が生えている。

 髪の毛がタテガミ風にはねて、そこだけイケメンに見える。

 顔が丸っこいのは殴られて腫れてるのか、こういう顔なのか。

 それにしても。

 何だこの丸っこい体は。

 お腹の肉をつまむ。

 前世では細身な方だったので変な感じだ。


 あ、今気が付いたけどこの身体、二本足で立てるやん!


挿絵(By みてみん)


「まるでダルマだな…」 

「ダルマ?

 ダルマちゃん?」

「おわっ!」


 自分の姿に気をとられて3本の剣を背負ったマリースがすぐ後ろ来たことに気が付かなかった。

 驚いて尻餅をつく。

 後足で立つのはやはり不安定。


 いや名前ちゃうねん、ダルマは。

 まあ、この世界に達磨大師はいないからダルマが何かは通じないか。

 ……あれ。

 僕の元の名前は何だっけ。


「そろそろヤツラに追いつかれる。

 行くぞ、マリー」


 マリさんが僕を抱き上げる。


「行きましょう、ダルマちゃん」

「いやダルマって名前ちゃうねんけど」


 …いいか、元の名前が思い出せないし。


「そのイヌは置いていきなさいよ!

 不幸を呼び寄せるだけの薄情なイヌよ」

「イヌじゃねえ、獅子族だ!

 覚えろやー、脳みそに虫湧いてるのか!?」

「黙れこのクサレイヌ!

 また殴って欲しいの!?」

「うるせーっ

 僕もお前らと一緒にいるつもりはねーよ!

 死ね死ねみーんな死んじまえっっ」


 僕とミサトが言い争っている間、マリースは僕を抱いたままボーッっと突っ立っている。

 でも僕がその身体から降りようとするとしっかり抱きしめられた。


「えーっとマリース?

 僕を自由にして欲しいんだけど」

「ダルマちゃんは一緒に行きます」

「お前ら誰と話しているんだ?

 おいマリー。

 その雑巾みたいな動物は

 気持ち悪いから置いていけ」


 ミルドレイズの言葉にポニーテールを揺らして首を振るマリース。


「マジかよ…

 マリーが俺の言葉に従わない!?

 どうなってんだ…」


 何故かすごく驚いている。

 まるで拒否されるとは思っていなかったように。

 大きな身体の賊を3人切った気丈な女が頭を抱えるほど狼狽していた。


「雑巾ちゃうわー、ぼけー」

「うわっキモッ!

 こいつ喋れるのかよっっ。

 お前らコイツと話してたのか!?

 何だよこの生き物!!」

「召喚術の生き物よ。

 知能はあるけど役立たずで憎たらしいだけのイヌ」

「 イヌじゃねえって言ってるだろ!

 僕は元の世界では人間だったんだよっ。

 用済みなら元の世界に返せやーっっ」

「ああっうるせーうるせーうるせーっっ!

 お前ら黙れや!!

 もう何でもいい、急ぐぞ。

 ミサキは俺の後ろに、マリーは後方を頼む」


 各人荷物やポーチを背負う。

 ミルドレイズはアーマープレートなどを両脇に抱えた。

 ミサキは機能的な2ウェイバッグを背負った。

 賊の魔法は服だけ破ってカバンは無事だったらしい。


「マリー。

 言っておくがそのイヌは食えないぞ」

「え」


 えっ!?

 今「え」って言ったか?

 僕を食べるつもりだったんかい!


「僕を食べても美味しくないからな」


 少女は何も答えず無表情で僕を優しく撫でる。

 このコが何を考えているか全くわからない。


 ヤバい。

 早くこのパーティから抜け出さなくては。


 ミルドレイズはズンズンと道の無い森の中を速足で歩いていく。

 所々ぬかるんでいる場所があって、たまにミサキが足を取られてずっこける。

 裸足で大変だろう、と思ったらどこから持ってきたのか木靴を履いていた。

  

「ちょ、ちょっと待って!

 もうちょっとゆっくり歩いてよっ

 それになんで道のないところをわざわざ歩いてるのよ」


 ミサキがたまらず声をあげる。


「屍肉を喰らう猿にずっと追われてんだよ」

「ほー、ププッ!

 野盗3人を速攻で叩き斬れるヤツが猿にビビッて逃げてんの」

「うるせえ、イヌがっ。

 魔剣を持ってるから厄介なんだ!」

「魔剣?」


 僕の疑問に、


「魔剣は人に憑りつく悪い剣です」


 マリースが抑揚の無い声で答えた。

 うん、名前から考えると正義の剣じゃねえわ。


 召喚術士マスターよ、そんな話は聞いてないぞ。


「恐ろしいものなのか、魔剣って」

「ああ、恐ろしいな!

 アレは狂った鍛冶屋の怨念みたいなモンだからな。 

 持ったが最後、人を斬ることしか考えねえ」


 ぶっきらぼうなミルドレイズの返答を聞いて悶々とする。

 僕が望んだファンタジー世界はこんな血生臭いトコじゃない、召喚術士!


「ヤツらを人通りのない所を選んで誘導して、

 そのままユーエン城国にぶつけようとしてたのに

 お前らに会っていらん時間を使っちまった」

「ちょっと!

 ユーエンに連れて来てどうすんのよ!?」

「デカい城国なら高い城壁があるだろうよ。

 俺達で手に余るから兵士共で処理させたかったんだよ!

 …ああ、お前はユーエン出身なのか」

「そうよ!」


 なんでかミサキが偉そうにしている。


「とにかく厄介なヤツらだからさっさと歩…」


「待て!お前ら」


 突然野太い男の声に呼び止められて皆振り返る。


「あちゃー」

「ちっ、こんな時にっっ」

「この山からなら誰にも知られずにユーエンから逃げれると思ったけど。

 山賊の巣になってたのね」

「それぐらい調べとけや!

 お前はホントに頭ン中花だらけなのか!?」

「うっさいわね!!」


 ミサキとミルドレイズが口ゲンカを始めた。


 山道に小汚い装備の5人の山賊が立ち。

 野草と木が密集する道なき道を行く僕達を凝視している。


「アナタなら5人ぐらいあっという間に片付けられるでしょ!」

「無茶言うなっ!

 不意打ちならなんとかなったかもしれんがな」


「女と子供?

 こんなところで何してやがる?」

「向こうの見張りの奴らは何してんだ?」

「とにかくお頭に報告して指示を仰ぐ…」

「おい見ろよ!

 あの武器と装備を…」


 僕らが持っているのが味方の装備だとわかると山賊どもは口々に呪いの言葉を吐きながらそれぞれの得物を手にした。

 そして一斉に駆け出した、その時。


 轟音と大きな振動と共に2メートルは超える毛むくじゃらの大きな壁が突然現れた!

 男の慟哭のような不気味な鳴き声が響き渡る中で。

 銀の大刀が振り下ろされて山賊3人がトマトみたいに潰される。


 ナニガオコッタ!?

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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