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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
38/50

38話 そして3人は堅く結ばれる 【第一部 完結】

「一番大事なことを忘れていないか?」

「なによ、それ?」

「なんだよ、イヌ」


「イヌじゃない、獅子族だ!

 そうじゃなくて。

 マリちゃんの気持ちだよ。

 マリちゃんがどうしたいって思っているかってこと」


 皆の視線がクッキーをかじる少女に集まる。


 本当は聞かなくてもマリちゃんがどうしたいか知ってる。

 だって度々口にしてたもの。

 でも誰もその気持ちを汲み取ろうとしない。


 心を失くした少女の意見は聞けないと?

 何かさ、子供の気持ちは考えないで恋人作って離婚する夫婦みたいじゃん。

 まあウチの両親はマジメだけが取柄でそんな経験してないけど。

 というか、例えが微妙か。


 ともかく。

 僕は光の無い澄んだ瞳を見上げて問う。


「マリちゃん」

「なあに、ダルマちゃん」

「例えば。

 世界中の人がミルミルの敵になりました。

 ミルミル VS 人間全部です。

 マリちゃんはどっちの味方になるの?」

「ミルミルちゃん」


 迷いのない答えが返ってくる。


「お前なぁ…」

「ちょっと、

 その質問はズルくない?」


 皆何か言いたげで、それでいて苦笑している。

 緊張していた空気が脱力感に変わる。


「みんな敵になるの?」

「例えば!

 例えばだからね。

 マリちゃんの気持ちを聞きたかっただけ!」

「私の…気持ちですか」


 マリちゃんの誤解をちゃんと解かないと純真な少女は本当に世界と戦いかねない。


 ミサキが居ずまいを正して背筋を伸ばす。


「私さ、商人の女王になるって言ったよね。」

「言ってたな」

「あはははは!

 何回聞いても意味わからねー!」

「笑うな、イヌ!!」

「商人の女王って言葉が微妙なんだよ。

 商売女王?

 …ってなんかいかがわしい気がするな。

 交易女王?」


 僕は訂正と提案をする。


「それ、交易女王!

 …語感はどっちもどっちじゃない?

 まあいいわ。」

「冗談じゃなかったのかよ。

 で、その女王様がどうした」

「女王になるにはどうしても必要なモノがあるの」


 勿体を付けるようにミサキは一呼吸置く。


「強力なボディーガードよ!

 2人に出会えたのはきっと天啓、

 ”女神の涙”のお導きなのよ!!」

「会ったのは昼だけどね」

「うるさい、イヌ!

 2人で組めば魔剣も倒せたし」


「負けてはいない」


 ヤンじいさんがいきなり会話に割って入る。


「このお喋り魔剣の件はどうするんだ?」

「あなたが強くなってなんとかするんでしょ」

「…まあな」


 珍しくミルミルが頭を掻いて言い淀む。

 無理もない。

 どう強くなってどうしたら魔剣を支配できるかなんて誰も知らない。


「私はその言葉を信じる。

 だから私の傭兵になりなさい」

「だがな…

 正直ダルマの言ってた通りだぜ。

 信用とかそんな青臭いモノでどうにかなる話じゃねえ」

「魔剣とは契約できて、

 私とは契約できないの」

「一緒にして比べる話じゃねえだろ」


 また話が平行線で雰囲気が重くなる。


「け、契約にこだわらなくても。

 一緒に旅をしましょう、でいいんじゃないかな」


 モーリエの言葉にミサキが彼女を見つめる。

 というより、睨みつけている。

 瞳の中の星が煌々と燃え盛る。

 その強い眼力にモーリエが狼狽えはじめる。


「な…なに?」

「そうよね、

 契約じゃなくて2人の繋がりが3人になればいいのよ」


 意味不明な事を呟くと。

 ミサキは急にマリちゃんの腕に自分の腕を絡ませて作り笑いを浮かべる。


 ミサキのその笑顔に不気味さを感じて噛みつきたくなってきた。


「ねえマリちゃん。

 お姉ちゃんが欲しいと思わない?」

「お姉…ちゃん?」


 何を言い出したかと思えば、コイツは。

 何言ってんだ?


「ミルミルと私がマリちゃんのお姉ちゃんになるの!

 ”お姉ちゃん”は分かる?

 3人が姉妹に、

 家族になるの!!」


「姉妹…家族…」


「お前、噛むぞ!

 マリちゃんが混乱してるやんけー!」

「てめぇ!

 マリーをダシに使うんじゃねえ!!」


 僕とミルミルがマリちゃんの為に身を乗り出す。


「あ、マリちゃんは私が好き?キライ?」

「お菓子をくれるから好きです」


 あのーマリちゃん?

 そういう話ではなくてですね。


「そうよね、そうよね!

 お姉ちゃんになったらいっぱいお菓子あげるかもー☆

 3姉妹になれば最強になってご飯がいっぱい

 食べられるかもしれないなー」


 必死に説得をしているミサキを見て考える。


 彼女が2人に出会ったのがもしミサキの言う天啓なら。

 それは僕を召喚した時点へ結びつくのでは?


 もしそれが”女神の導き”なら僕が今ここに居る意味があるのかもしれない。


 僕はこの世界での自分の役割が見えた気がした。

 とはいえ、シーワン村で悩んだ諸々の問題が解決したわけでも無く。

 それは後々マリちゃんと考えていけばいい。


 マリちゃんからミサキを引き離そうと手を伸ばすミルミルに、僕は語りかける。


「ミルミルさー、

 お前は小金が欲しくて重い鎧や剣を運んでいたよな。

 小さなマリちゃんにも剣を持たせて」

「それがどーしたー!

 離れろ、この成金娘!!」

「ユーエンの山で手に入れた山賊達の鎧とか剣があったやろ。

 誰がどうしたか覚えている?」

「それは…

 サルや砦の騒ぎで全部置いてきたハズだった」

「だった、けど?」

「ミサキが魔法のカバンに入れていて。

 シラバでミサキと武器屋の主人をおだてて少し高めで買わせたっけ」


「荷物持ちが必要じゃないかな。」


「ぐっ!?」

「イヌ…じゃないダルマ!

 その通りよっ。

 なんかひっかかる言い方でムカつくけど。

 私が交易女王になれば

 そんな追剥ぎみたいな事もしなくてよくなるのよ!」

「あー、えへん。

 とりあえず皆落ち着け」


 僕は興奮気味の2人を座り直させる。


「マリちゃんは3姉妹になってもいいと思う?」

「うん」


 マリちゃんのオレンジとグリーンの瞳はどこまでも澄んでいる。

 純粋な想いではあるけど、動機がお菓子なんだよな。


 …えーい、それはとりあえず今は置いておく。


「ミサキは異論は無いよな」

「もちろんよ!」

「ミルミルはどうだ」

「…勝手にしろ」

「じゃあこれで私達は姉妹よ!」


 一瞬訪れる静寂。

 小さなベルを鳴らすような虫の声がキレイだ。


「…なんだか締まらないわね。

 なにか証しのようなものが欲しいわ」


 おう。

 姉妹の契りといえばあれだろう。


「ロザリオを交換しあったらいいんやないかな」


 僕は自分の趣味全開で提案する。


「…?

 何よ”ろざりお”って?」


 ……そうか。

 この世界に聖母マリアはいない。

 というかミサキ以外、装飾品を身に着けてるのを見たことがない。


「えー、何か宗教的なモノとか無いの?

 身につける数珠的な…」

「なんでここで抹香クサい話になるんだよ!」


 ミルミルのツッコミが入った。

 こっちの宗教は香を炊くのだろうか。

 今の僕にはこの世界の宗教観がわからない。


 かといってこのまま終わるのも確かに締まらない。


「身につけるモノ・・・」


 ミサキが目を閉じ首を上げて考えはじめた。


「あ、そうだ。

 いいものがあるわよっ!」

「それはガーネットの腕輪とか言うんじゃねえだろな」

「なんでわかったのよ!?」


 ミルミルの言う通り、ミサキのカバンから2つの赤い腕輪が出てくる。


「なに言ってやがる、

 ガーネットさんよ」


 またも一瞬訪れる静寂。

 今夜はよく会話が不意に途切れる。

 ”女神の涙”の青い光の下で響く虫たちの合唱がキレイだ。


「ああ!

 そう私、ミサキ=ガーネット、

 ミサキ=ガーネット! が! 命じます!!

 ミルミル=ガーネット

 マリース=ガーネット

 2人が私の妹になる事を!」

「自分でつけた偽名を忘れてたのかよ!

 って俺が妹かよ!

 というか俺の名はミルドレイズだ!」

「いいから2人とも手を出して!」


 ミルミルの活きのいいツッコミを無視して、強引に2人の手を捕まえて器用に手早く腕輪をはめていく。


「あっ」


 驚いたミサキの目線の先にモーリエがいた。


「ごめん、

 仲間外れにしたワケじゃないのよ。

 えーっと、どうしようかしら…」

「フフッ、私はいいですわ。

 コミューンに帰ればもう旅には出ませんから。

 それよりこの場に立ち会えたことが光栄ですわ」


 あ、これが長女に相応しいお姉さんの微笑みだ。

 というよりやんちゃな子供たちを見つめる優しいお母さんの目だ。


「じゃあね、モーリエさんは証人になってください!」

「ええ、では慎んでお受け致します」


 証人がいたところで、意味は無い。

 この世界に家庭裁判所があるとは思えないし。

 そもそも養子縁組に証人は必要ないし。


 それより、ダメもとで聞いてみる。


「僕の分は?」

「アンタはマリちゃんのペットのイヌだから資格無し」


 はいはい、そうですか。

 でも。


「僕とマリちゃんはもう強い絆で結ばれているから、

 腕輪とかいらないし。

 ね、マリちゃん」

「そうなんですか?」


 不思議そうな顔のマリちゃん。


「そうなんですよ」


 今はわからなくても、こうやって少しずつ刷り込んでいこう。

 マリちゃんにとって僕がかけがえのない存在になるまで。

 たとえミルミルが斬りかからんばかりに僕をにらんでいたとしても。


 再び強引にマリちゃんの腕を掴むと立ち上がるミサキ。

 マリちゃんもつられて立ち上がる。


「ほら、みんな立って立って!

 マリちゃん手を上げてっ」


 掴まれた手をそのまま上げさせられるマリちゃん。

 その手のひらにミサキは自分の手のひらを重ねた。


「ほらほら、

 ミルミルも手を置いて!」

「ちっ

 バカバカしい」


 そう言いながらも渋々2人の手の上にガーネットを付けられた左手を置くミルミル。

 高く掲げた手の先に輝く”女神の涙”。


「いい?

 私達3人は

 富む時も

 貧しい時も

 悲しい時も

 楽しい時も

 全てを分け合ってお互いに助けあって生きていくの。

 今日ここで姉妹になるから。

 ”女神の涙”よ、

 私達3姉妹になることをここに誓います!」


 義兄弟…じゃなくて義姉妹の誓いというより、結婚式みたいな口上だと思いながら。


「マリちゃんも”誓います”って言うといいよ」

「誓います」


 僕の進言に素直に従う。

 ミサキはミルミルを睨む。


「はいはい、

 誓います誓います」


 ミルミルが煩わしそうに宣言すると、パチパチと拍手の音が聞こえる。


「はぁーっ

 私なんだか感動しちゃった」


 拍手を送り続けるモーリエの瞳の端が光っている。

 感動するところあったかな。

 と思っても口には出さない。

 僕も拍手をして祝福する。


 夜空をバックに焚き火に照らされながら手を重ねている3人の少女の姿が美しいと思ったからだ。


 獣の前足だからポフポフという音しか出ないけど。 


「これで私達は家族よ、

 姉妹よ!

 小さくてカワイイ妹ちゃん!!」


 手を掲げたままのマリちゃんをミサキが強く抱きしめる。


「姉妹…家族…

 妹…お姉ちゃん…」

「そう、ミサキお姉ちゃんよ」


 マリちゃんは自分の腕輪を見つめている。


「似合っているよ、腕輪」


 僕が声をかけてもマリちゃんは腕輪を見つめ続けた。


 この後、姉二人がどちらが長女に相応しいか争うのを見ながら。

 僕は心の中でメッセージを送る。

 届くワケないけど。


召喚術士マスター、僕がここに呼ばれた意味がわかった気がします。』


『何の能力も魔法もない獅子族の僕が出来る事。

 それは言葉によってこの3人をより良い方向へ導く事』


 見上げた夜空には姉妹の誕生を祝う様に大彗星がさんざめいていた。



「面白かった!」



「続きが気になる、読みたい!」



「つまらねえ!○ね!」



と思ったら


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面白かったら星5つ、


つまらなかったら星1つ、


正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!



ブックマークもいただけると本当にうれしいです。



何卒よろしくお願いいたします。

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