30話 温・泉・回!
シルトの影響かな。
「あの白いのは何ですか」
「あれは温泉の湯気だよー」
「温泉ってなんですか」
「温泉は地面から湧き出るお湯で体にいいんだよー」
「どうして空は青いの?
どうして湯気はお空へ登るの?」
マリちゃんは砦から離れて元気を取り戻していくと、目についたものを何でも質問にして投げてきた。
これも少しずつ心を取り戻している証拠なのだろう。
強いて言うなら、「好奇心の芽生え」といったところか。
ただ何故ミルミルに肩を切り裂かれた時のシルトが「好奇心」なのかはわからない。
なにか法則性でもあるのか。
順番でもあるのだろうか。
最初こそみんなで質問に答えていたが、あまりの質問の多さに文字通り閉口していった。
そもそも空気中では青い光が拡散しやすいとか、温められた空気は回りの空気より軽くなるとか、マリさんの質問に的確に答えられるのは僕だけだった。
この世界の者は魔法の知識はあっても簡単な科学の知識を持っている者はいない。
「よかったわねー、ダルマ。
初めてアンタが役に立つ事が出来たわよ」
などとイヤミたっぷりでほざいて、ミサキが僕をマリちゃんの「先生」役に任命した。
ミサキの態度はともかく、マリちゃんの成長の為なら何でも喜んで引き受けよう。
ここはシラバ城下町中流階級エリアの商店街に面した温泉街の女性専用温泉付き宿の一つ。
その4階建ての屋上の露天風呂。
この辺りの建物は3階建てが平均。
僕は覗き見防止のための柵の上に座って城国の様子を眺めている。
その横で髪を下ろしたマリちゃんが柵の下の段差に上って背伸びをして、同じ景色を眺めている。
初めて見る城国の内部が珍しくてなかなか楽しい。
商店街を通る色々な人種、種族。
ヒトが8割、獣人が2割。
様々な形の木の家。
木製の城に木製の鎧の兵士達。
町中に張り巡らされた木の管。
用途がよくわからない商品を並べる商店。
人と活気に溢れた街を見ていると、あの山と砦の死闘が夢だったんじゃないかとさえ思う。
というか夢であって欲しい記憶だ。
今はマリちゃんと、あれは何かしら何だろうと問答しているのが楽しい。
おや、向かいの男性専用宿の脇で白く長い髪の青年が見上げている。
日本でいうと中学生ぐらいか。
心なしか黒いシャツとズボンが学生服に見える。
いくら見上げても覗けやしないよ。
あのぐらいの年齢だと色々と妄想が膨らむだろうけど。
「お前何してんだよ。
お湯につからねえと来た意味がないだろうが」
ミルミルが軽々とマリちゃんを担ぐと一緒に湯船につかる。
ミサキもその後に続く。
さて青年が恋い焦がれる魅惑の入浴タイム。
さぞセクシーな風景が広がってると思いきや。
少し高い所に登ると家々のお風呂が覗けるこの地では公序良俗のため、薄い生地であつらえた肩で結ぶ白のパレオみたいなのを来て入浴するルールがある。
はい、セクシータイム終了。
だけど露出度は高いし布も薄い、腰ヒモも結ぶから身体のラインがハッキリして多少は目の保養にはなる。
白い薄い布が濡れると、細目をして頑張って念じれば見える気がする。
何かが。
「ほー。
ミサキは腰が細くて、
スレンダー美人やね」
柵から湯船の方へ飛び降りながら、素直な感想を口にする。
勢いよく水飛沫が飛ぶ。
防水の魔法とかあるのだろうか。
床の水は木の上を流れ浸み込むことはなかった。
僕の言葉を聞いたミサキが目を剥く。
「ちょっと誰よ!
このオッサンイヌをお風呂に連れてきたの!!」
「オッサンちゃうわ獅子族だ!
年齢はお前らとかわらへんし!
てか褒めてやってんのになんやねんっ!!
それに何度も言ってるけど、
ヒトの裸なんか見ても発情なんかしないっつーの」
脳の片隅にある元人間の部分が楽しんではいるけどね。
宿には数組の客がいるようだが、昼のこの時間は我々しかおらず貸切状態だった。
だから少々騒いでも大丈夫。
「ダルマちゃん、
怒ってないで来てください」
ミルミルの横で湯船につかるマリちゃんが手を広げる。
「はーい」
僕は勢いよく広い湯船に飛び込む。
ここの温泉は透明無臭と言うが、敏感な僕の嗅覚が匂いを拾う。
濡れた落ち葉のようなマイルドな香り。
「あ、こら!
イヌは入るな!
お湯が毛だらけになるじゃないっ」
「あーオレも獣人の末裔だから毛だらけだぜ。
見るか?」
ミルミルが立ち上がり身をひるがえすとパレオをめくり、臀部を突き出して見せる。
ヒトの尾てい骨があるあたりにかわいい毛玉があった。
マリちゃんのところへ犬かきをしているところだったので臀部が目の前にくる。
コイツは出っ張っている所が全部デカイな。
「なるほど、尻尾の名残か」
「獣人もダルマみたいに四足で走れたんだがな、
…ってちょっと待て、マリー」
僕を抱きとめるマリちゃんにミルミルが顔を近づける。
「お前もう左手が動かせるのか?」
「はい。
でもまだ少し痛みます」
湯気に溶けそうなほど白い肌のマリちゃんの左肩。
痛々しい切創が残るがそれが赤アザ程度まで回復していた。
「本当だわ。
あんだけ斬られれば一生左手を動かせないと思ったけど…」
ミサキも立ち上がり顔を近づける。
細かくは描写しないけど谷間が強調されたいいアングルになってるぞ!
「僕は見たよ。
シルトの光が左肩に集まるのを」
「まあ、何でもいい!
良かったな、マリー!」
ミルミルがマリちゃんを抱き寄せて頬ずりする。
僕の顔が柔らかく丸いものと薄い胸のサンドイッチ状態に。
素晴らしきかな、湯煙り天国。
ミサキが湯船の縁に腰掛ける。
足を組むそのスリムな姿は芸術作品のように美しいやん。
黙ってたらいい女やのに。
「 2人は結局アカの他人なんだしょう。
自分を犠牲にしてまで守りたい、なんてすごい母性よね」
ミサキが意地悪くクスクス笑う。
「ああ!?
何の話だ?」
「魔剣を手にした時の話よ。
ヤツに心を乗っ取られかけてもうわ言のように、
守りたい守りたいって言ってたわよ。
魔剣がマリーちゃんを傷つけようとしてるのがわかったら、必死で抵抗してたし」
ミサキが口に手を当てて相手の反応を楽しむようにフフフと笑う。
山中を移動中に「マリースちゃん」から「マリーちゃん」に呼び名が変わった。
「……」
ミルミルは苦い顔で人のいない方へ顔を向けると何かを呟いた。
「えーなにー?
聞こえなーい!
マリーちゃんもミルミルの本当の気持ちが知りたいよねー」
ミサキは胸を揺らして身体を乗り出す。
マリちゃん感情の無い目をミルミルに向ける。
「なんも覚えてねぇんだよ!
ホントにオレがそんな事言ったのかよ!?」
「言ってたわ!」
「ゆーとった」
「…」
キレぎみの質問にマリちゃん以外が同意。
「う~…」
ミルミルの顔と表情が落ち着きない。
髪と同じ色をした耳と体がソワソワと落ち着きない。
お、なんか急に可愛く見えてきたぞ。
「知らん知らん!
俺はそんな事を言ってないっっ!!」
水飛沫を飛ばして乱暴に湯船からあがると、足音をたてて浴場を出ていく。
大きな胸とお尻を揺らしながら。
尻尾の名残も揺れて可愛い。
モーリエがクスクスと静かに笑っていた。
ちなみに彼女は誰よりも先に浴場に来て身体を丹念に洗うとすぐに服を着た。
痣の付いた細い体が痛々しかった。
羞恥なのか、みんなに気を使わせたくなかったのか。
今は浴場の隅っこの濡れてないところを選んで膝を抱えて座っている。
「やーねぇ、女でロリコンなんて。
なんか色々極めちゃってるわね、あの変態女。
マリーちゃんはあれをどう思ってるの?」
『あれ』と言いながらミサキがミルミルの出て行った方向を指さす。
「ミルミルちゃんは強くて美人でやさしいです」
マリさんは素直な良い子だからきっとそう思っているのだろう。
が。
感情の無い声で棒読みのように言うからまるで誰かに言わされているようだ。
ミルミルに自分の事を聞かれたらそう言えと教えられている可能性も、無きにしもあらず。
「あー、マリーちゃんは本当に良い子よねえ。
ミルミルが可愛がるのもわからなくもないわねぇ」
ミサキがマリちゃんの頭を撫でる。
「ねえ、ダルマちゃん」
また質問タイムの開始かな。
「どうしてミサキちゃんが2人に見えるのですか」
んー、ちょっと質問の意味がわからないのですが。
あれ?
そういえば平らな胸から聞こえる鼓動がすごく速いような。
「ミサキ!
マリさんがのぼせちゃってるよ!」
「面白かった!」
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