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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
23/50

23話 真夜中の地下室の亡霊

「ミサキ、ミサキ。

 ちょっと来て。」


 食事後、ミサキが見張りの壁に近づいた時を見計らって呼ぶ。


「あによ」


 ミサキは案の定苦い顔をして応える。 


 カロン、アイリーンは食事後すぐに「眠い、疲れた」と言って、藁敷きにシーツを被せた寝床に入った。

 リルジットはしばらくマリちゃんの治療をしていたが、「魔力、ツキタ」と呟くと同じく寝床に入る。


 監禁されたか弱き女性が牢獄でまともに寝られていたハズがなく。

 3人は寝不足と精神的疲労を抱えながらも、自分の安息の場とマリちゃん達のために働いてくれていた。


「久しぶりに安心して寝られるぜ、クソッ」


 と大の字で横になるアイリーンの言葉に。


「マダ、ココ、敵地!」

「そう、まだ安心は出来ないからね…」


 カロンとリルジットが速攻でツッコんでいたのが印象深かった。


 ミサキはまだ元気が残っているのか食器を片づけたり、魔使石マジカストーンヒーターで料理を作り直したりしている。


「なんだ、ミサキ。

 まだメシを食べるの?」


 僕がからかい半分で尋ねると。


「私がそんな食べられるワケないでしょ。

 明日朝、もしかしたら食いしん坊の2人が元気になって。

 食べるモノが無かったら大騒ぎするでしょうよ」


 リルジットの治療の甲斐があって、マリちゃんの容態は安定した。

 今は静かに寝息をたてている。

 その様子を見てると、朝にはいつも通り「おなかが減りました」と言って起きるかもしれない。

 そんな事を考えるとミサキをからかう事が出来るまで心が回復した。


「意外と優しいとこあるやん」

「意外と、は余計よ」

「僕にも優しく接してください」

「獅子族は苦手、キライ」


 さよか。


「…それよりこれを」


 僕は隠し持っていたモノをミサキに差し出す。


「あっ、これ!」

「シーッ、静かに。

 お前が気にしてた、幹部が全員耳に付けてた魔使石。

 夕方拾ったんだ。

 多分ボスのモノだと思う」


 黒色に黄色の模様が付いた魔使石。

 受け取ろうと手を伸ばしたミサキがその手を止める。


「やだ、汚い!」

「大丈夫、大丈夫。

 洗ったから」


 雨水がね。


 ミサキは汚いモノを触るように魔使石をつまみ上げる。


「耳につけてみて」

「えーキモチわるーい」

「いいから!

 耳に近づけるだけでいいから」


 魔使石を耳に近づけるミサキ。


「……………これ……。

 いやだ……まさか…」

「幹部達は自我が吹っ飛ぶほどパサル―を飲まされて。

 そしてその石で操ってたんやろうね」

「…本当の首謀者はまだ生きてるわけね。

 で、どうするつもりよ」

「んー。

 首謀者の狙いがわからへん。

 僕達まで操るつもりなのかどうなのかも。

 とりあえず…」


 ミサキに自分の考えを耳打ちする。


「…てな感じで、

 異変があったらみんなを誘導してほしいねん」

「わかったわけど…

 それぐらい自分でやればいいじゃない?」

「人間同士の方が話が早いと思う」

「ああ、それは…そうね。

 これ返す」


 差し出す魔使石を受け取った。

 石を渡すとミサキは調理の続きを再開する。



 はっ……!!

 いつの間にか寝てしまっていた。


 空は暗く、彗星『女神の涙』の位置もあまり変わってない。

 2時間ほど眠っていたようだ。

 ミサキも魔使石ヒーターを作動させたまま床についていた。


 今日は特に色々ありすぎたから疲れていて当然。

 それに僕は獅子族であって番犬ではない。

 寝ずの番なんか無理。


 逆に賊の立場になって考えると。

 魔剣を持つ大男が暴れていた場所に女達が留まるなんて思ってもみないだろう。

 そしておそらくはこんな危険な場所に近づこうなんて思わないだろう。

 それでもこうして番犬役をしているのはここに帰ってくる賊がいないとは言い切れないし。

 番犬を始めた時にミサキが僕にだけ聞こえるように言った言葉にも納得したから。


「アンタみたいな駄犬でも、

 見張りがいるってだけでもみんな安心できるでしょ」


 誰が駄犬だ!


 などと考えていると。

 真っ暗な中庭の、天井が陥没して露出した地下室で何かが動くのが見えた。


 僕は壁の上から降りる。


 出口に向かいながら藁の寝床の一つが空席になっているのを確認する。


 「…んん」


  モーリエがモソモソと寝返りをうった。


「寝られないんか、モーリエ?」

「うん…

 少し寝たけど足音が聞こえた気がして起きちゃった…」


 僕達は他の人を起さないよう小声で会話する。

 モーリエの前で香箱座りをする。


「ヒトは小動物を撫でると癒されるねん。

 ほれ、撫でてみ」


 モーリエがゆっくり手を伸ばして僕を撫でる。

 ゆっくりと3回撫でると手をひっこめた。


「うん、もう寝られそうな気がする…

 ありがとう、優しいワンちゃん」

「ワンちゃんじゃなくて

 獅子族のダルマだ」

「ありがとう、ダルマちゃん」


 星灯りの下、微笑むその顔は老婆に見えなかったが年齢不詳だった。


 まあ、優しく撫でられて癒されたかったのは僕の方なんだけどね。


 モーリエが目を瞑ると僕は地下室へ急ぐ。


「どうした?

 何か探し物かーい、カロンちゃーん」


 僕は四足歩行で階段を下りながら陽気におどけて声をかける。

 

「ひっ!?」


 カロンが滑稽なほど飛び上がって驚く。


「なっ!?

 なんだ…ダルマさんか…」


 外に漏れないよう最低限に光を絞った、光の魔使石を僕に向けると安堵して中腰になるカロン。

 魔使石は地下室の照明として設置されているランタンから取ったのだろう。


「一人で行動してると危ないよ。

 チキンな賊が坑道の隅に潜んでるかもしれないし…」


 思いつきで言った自分の言葉に凍りつく。

 そうか、そういう可能性もあるかも!


 地下室は僕らが来た時よりも破壊されて死体が増えている。


「そうね…

 でも、その…」


 僕の動揺に気付かず、カロンは俯いて視線を彷徨わす。


 困った顔も仕草も可愛かった。

 『廃墟で守ってあげたい美少女コンテスト』があれば、この世界での5位入賞は確実だ。


 視線だけを僕に戻す。


「その…

 ここにあったでしょ。

 いっぱい武器の箱が。

 それが全部無くなってるのはどうしてかな…って…」

「そういえば、あったね。

 あれじゃない?

 魔剣を持ったボスが全部蹴散らしたんだよ」

「そ、それじゃあ木箱の破片とか武器がもっと散らばってるハズじゃない!

 それが全く無いなんておかしいよっ!!」


 僕はカロンの剣幕に気圧された。

 薄い光の中で浮かび上がる怒った顔に少し怖くなった。


「しーぃぃっ、静かに。

 キ、キミは魔剣を持ったボスを見てすぐ逃げたよね」

「う…うん、そうね。

 だって怖かったんだもん」

「僕は戦闘に立ち会ったから知ってるよ。

 魔剣に強化された人間がどれだけ人間離れした力を発揮したか。

 それこそあの箱を持ち上げてブン投げていてもおかしくは無いぐらい」

「じゃあ、

 武器は森の中に!?」

「かもね。

 なんでそんなに武器が気になるん?」

「それは、その。

 護身用にと思って」

「武器なら砂使いの女の部屋にもあったやん。

 とりあえず危ないからもうみんなのところへ戻ろう」


 僕は階段の方へ方向転換してカロンに振り向いて移動を促す。


「う…うん」


 ちゃんと納得はしていないようだが、取りあえず歩き出すカロン。


 僕はあの武器の木箱がどこにあるか大体見当はついてる。

 でもそれを言うと多分激怒するヤツがいるので言うつもりはない。


 大雨が洗い流したとはいえ、死体はあちこちに転がり死臭を放っている。

 この悪臭に慣れつつある自分がなんかイヤになる。

 明日になればもっとヒドくなるだろう。

 その悪臭の中で甘く蜜のような香りを微かに感じた。

 地下室から幾つも掘り開けられた坑道の一つ。

 地上に続く階段を降りた先の右手に伸びる穴の方から。

 これは植物性の。

 花の香り。


「なんかいいニオイがするやんー」

「…ああ。

 パサの花ってほとんど香りはないけど。

 やっぱりワンちゃんだね」

「獅子族です」

「あ、うん。

 この先にパサの倉庫があるよ」

「へえ、

 見てみたいなー。

 ちょっとだけ寄り道していい?」

「倉庫には鍵がかかってるから中は…

 ひぃぃっ!!」

「だから!

 静かに…ひぃぃぃぃいいいいいいいいっっっ!!」


 『悲鳴コンテスト』は僕の勝ちだ。


 地上に続く階段の中腹にユラユラと揺らめく暗い影。

 ソイツがうめき声を上げながら近づいてくる!

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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