22話 治療と魔剣と水とブルシット
「お前これ、
個人が携帯する量じゃねーな、クソが」
「ウチは商家だからね。
薬屋に卸す商品をそのまま持ってきたのよ。
傷薬はいっぱいあっても困るものじゃないでしょ」
「また家から盗んできたのか、性悪女」
「うっさいバカイヌ!!」
ちなみにミサキは昨日の夜に来ていたパジャマを着ている。
「てかよ、
どっから出したんだよ、このクソ薬」
「カバンよ。
それよりそのクソクソ言うのやめてくれない?
なんかバカにされてるみたいで不愉快なんですけど」
「アタシは街の酒場のストリッパーでさ。
クソみたいな男共相手に商売してんの。
お上品なアンタとは違うんだよ。
それよりカバンって…」
アイリーンがミサキの寝床の上の小さなカバンを見る。
「昨日ソイツはでっかいテントとベッドを携帯していたからね。
大体察しがつくでしょ」
僕がミサキの代わりに答える。
他人に自分の魔法を教えない慣習のせいでミサキは多分答えないから。
しかし。
ミサキの魔法は四次元ポケットばりに便利な魔法だ。
「おい、
テントがあるならこの砦に留まる必要ねえじゃねーか、クソッ」
「昨日、
賊共に全部燃やされてここに逃げて来たのよ。
そのおかげでアンタたちが救助されたんだから感謝してよね」
「アリガトーアリガトー!
ソレヨリ傷薬アリガタイ!
コレデアタシノ魔法ツカエルヨー」
「あらー適当な感謝の言葉をどーも。
薬なら色々あるわよー。
どれをどう使うか知らないけど」
ミサキがカバンから大小様々な瓶を取り出す。
「アハッ、助カルネー!
コレ、コレ、アトコレ、使ウヨ」
リルジットは薬をチョイスすると気絶している2人に近づく。
清潔な服を選ぶとナイフで細長く切り裂いていく。
並んで寝ている2人は対照的だった。
ミルミルは青い顔をして静かに横になっている。
対してマリちゃんは赤い顔して寝汗をかいて呼吸が激しく苦しそう。
そんな様子なので僕の心はずっと沈み込んで暗い。
マリちゃんが楽になれるならその苦しみを半分わけて欲しい。
そんな魔法はないんかな。
「デモ、コンナ奇妙ナ傷ハハジメテダヨー」
「こっちのガキの傷は金が埋まって。
そっちの剣士の傷は捻じれまくってるな。
クソ気持ち悪いな!」
治療を始めるリルジットの上からアイリーンが覗き見る。
「マリース、イツノマニ金具ツケタ?
鎖骨カラ肩甲骨マデハイッテルカラ、
傷ガ治ルトキニ金具ハズスノ大変ダヨ」
「刀傷を金で止血するってクソ贅沢な治療だな。
クッソ金持ちじゃ流行ってんのか?」
「私モ聞イタコトナイヨー」
そんな事を呟きながら薬を塗布した布をマリちゃんの傷にあてがう。
細く裂いた布を包帯の代わりに巻きつける。
それからいくつか薬を調合すると布に織り込みたたんでいく。
「コッチハ解熱ネ」
薬を包んだ布をマリちゃんの頭に巻く。
肩と頭巻いた布に手を置いたままリルジットは動かない。
その置いた手から微量の優しい光が漏れる。
「リルは医者になる修行中なんだってよ。
薬の効果を高める魔法を持ってんだ」
あれ、慣習は?
めっちゃ他人の魔法教えてますやん。
「獣人ノ地、シュランガ ハ医者少ナイ。
早ク医者ニナッテ獣人助ケタイ」
ええコや、ええ話やと感動してると。
「獣人の小娘よ」
突然低い声が響く。
「ヒッ!!」
リルジットが驚きで飛び上がった。
尖った耳まで上下に動く。
声をかけたのは魔剣ヤン・クオン。
「このミルドレイズは我が魔法で治癒する。
汝の魔法は不要だ」
「…デモ、
薬ヲツケタラモット効果ガ…」
「今、我に近づかば祟られると知れ」
「ヒーッ!」
「リル!
ソイツに触れるとすっごく痛い目に合わされるからっ!!」
リルジットはマリちゃんの身体をミルミルから少し遠ざける。
ミサキは昼間の事を思い出したのか、怯えた目で魔剣を見ている。
「…魔法ガダメ、デモ薬ダケ塗ル。
イイカ?」
怯えて震える声の中に確かな強い意志があった。
「フム、汝
我を恐れぬか」
「キズ、ムキダシ、ヨクナイ。
消毒グライシナイトカワイソウ」
「クソ魔剣さんよ、
リルはお前と違って優しいんだよ、天使なんだよ。
クソが!」
魔剣、確かハゲ頭の方を向いてたのにいつのまにか裏返っているな。
「是」
「ハイ?」
「薬だけなら是」
「このクソ剣は薬だけならいいってさ、リル」
リルジットは大急ぎでミルミルの処置をする。
それが終わるとマリちゃんへの魔法の照射を再開した。
ミルミルの出血を止めたのはヤツだし、契約を結んだから。
それに身体組織をヤツは操れるから。
そんな理由で僕達は魔剣にミルミルの事を任せてしまっていた。
マリちゃんの心配が心の大部分を占めていた事もあるが、僕自身も魔剣と関わる事を怖がって避けていたのもしれない。
魔剣は所詮、人に仇為すから魔剣。
この時ミルミルを魔剣まかせにした事をずっと後になって後悔する。
部屋の外でゴトゴト音がしたと思うと。
「リルさんどうかしたの?
みなさん、水を持ってきましたよ」
カロンがひも付きの木箱を引き摺って登場した。
木箱の中には暗色のガラス瓶が並ぶ。
カロンも何故か男装をしていて、胸の膨らみが無ければ少年のように見えた。
干してある服はブラウンの中世の村娘といった感じのワンピース。
こっちはスカート嫌いじゃなくて動きやすいからかな。
「カロン、水はそこに置いといて。
アタシがアレをやるから」
アイリーンが部屋の中央の傷薬の陶器の前から立ち上がって入り口のカロンに近づく。
「ええ?
山賊はみんないなくなったから大丈夫だよぉ」
「アタシが生水を飲みたくないだけさね。
それにクソ井戸水にパサが入れられてるかも知れねえだろ」
「賊ノ幹部ハぱさるーノ症状ガ出テタ。
井戸水ニ入ッッテイタラ賊ハ全員オカシクナル。
デモ幹部ダケダッタカラ大丈夫」
水の入った瓶を手に取るアイリーン。
「だから生水はイヤなんだって、クソッ」
アイリーンが瓶をしっかりつかむと中の水が日光を反射する時のように輝く。
1秒程水を煌めかせると瓶を戻し、箱の中の瓶一本ずつ同じ動作を繰り返す。
「パサとかパサル―って何だ?」
壁の上から監禁組3人の会話に首を突っ込む僕。
正直、見張り役に飽きていたところだ。
「おいおい、
そんなの街のクソガキでも知ってんぞ!喋るクソイヌさんよ。
てかさあ、喋る剣に喋るイヌ。
お前らクソ見世物小屋を作ったら儲かるんじゃねえか?」
「クソイヌじゃねえ…
獅子族のダルマと呼んで」
「あのクソイヌは昨日、別の世界から来たばかりだから」
うるせークソ成金泥棒娘。
そう思うも、心が重く反撃する気もなれず。
いつものツッコミも歯切れが悪い。
「別の世界!?
っんだよ、それ!?」
「召喚魔法でちょいとね」
「クソ召喚魔法!?」
「それより話をまとめると。
つまり、麻薬…か?」
「知ってんじゃねーか、クソダルマ!」
中庭で戦った男女4人の様子を見てれば何となく予想できた。
「アイリーン、水ノ浄化ノ魔法持ッテル。
ダカラワタシタチ、ぱさるー飲マナクテスンダ!
アイリーン、口ハ悪イケド、イイ人!」
「なあ。
人の持ってる魔法は教えてもいいものなのか?」
「アタシは別にかまわないぜ。
リルもアタシも知られて困る魔法ではないからな。
ああ、でもクソ酒場に知られたら困る。
元々酒を水に変える魔法だからな」
「お話の途中で悪いんだけど。
食事が出来たから食べながら話さない?」
「クソッ、やっとかよ!
腹減って死にそうだぜ。
モーリエ、お前は食べれそうか?」
モーリエはこの部屋まで来てから疲れて部屋の隅でぐったりと座り込んでいた。
首を縦に振る元気は残っているようだ。
マリちゃんに魔法を照射し続けるリルジットの側にみんなが集まって食事を始めた。
明かりはミサキの前に置かれた魔使石ヒーターの赤く乏しい光だけ。
モーリエは動くことができず、赤い光の届かない部屋の隅で食事をする。
食事は野菜と干し肉のブイヨンスープ。
ミサキは僕に見張りを続けるよう命令したが、リルジットとカロンが「可哀想」と抗議をしてくれたおかげで壁から降りて食事にありつけた。
ええコたちや。
「みんなはどっかのバカ貴族の嫁にするのに捕まったんだっけ」
食事中、ミサキが話題を振る。
「そうだよ、クソッ」
「どこの何て貴族か聞いてない?」
「知らねえよ、クソが。
知ってたらブッ殺しにいきてえな!
ルシアは可哀想に。
最初に捕まってあの暗い牢獄に一人で3日閉じ込められておかしくなっちまった。
クソックソッ!」
ルシアは確かボサボサ黒髪の言動のおかしなコ。
大男に驚いて逃げたきり見てないな。
元は普通のコだったんやね。
「アタシは東の街で夜中、仕事帰りに麻袋に詰められた。
それから2日ほど泣くルシアと抱き合って過ごした、サック!!」
「乱暴はされなかった、って言うてたね。
確か」
地下室で話していた事を思い出して僕はアイリーンに聞く。
「…ああ。
山賊に使う言葉じゃねえけど紳士的だったな」
人をさらう時点で紳士じゃないけど。
「賊って言うより軍隊みたいだった。
大男のボスは無口で威厳があって。
街で普通に出会ってたら惚れちまってたかもな」
アイリーンがガハガハ笑う。
「ボスはあの魔剣を振るってた大男で間違いないんやな?」
「詳しくは知らねえけど、みんなヤツをボスって呼んでた。
な、カロン」
急に話を振られたカロンはびくりと肩を震わせた後、頷く。
「次、ツカマッタ、ワタシ」
治療を休んでスープの野菜を頬張ってたリルジットが答える。
「モーリエが捕まったのは1週間前だったか。
顔がボスのタイプだったみたいでよ。
ボスがモーリエに手を出してから賊共がギスギスしはじめた」
僕とミサキはモーリエを見た。
魔使石ヒーターの弱い光しか光源が無い部屋の隅にいる、白髪で痩せこけた彼女は老婆にも見えた。
こちらに反応する事無くゆっくり食事をしている。
1週間前は美女だったのだろうか?
アイリーンもリルジットも美人だが、それ以上の。
「それからすぐにカロンが捕まってよぉ…。
小男の双子の幹部がカロンに興味を持って乱暴三昧よ。
ほとんど牢獄には戻らなかったよ、クソッ!
ずっと色んな男に乱暴されてたって、ブルシット!!」
カロンは俯いて、泣いているのか細い肩を震わせた。
アイリーンがその肩を抱いてなぐさめる。
許せんな、あの双子共。
ミルミルはヤツらをもっと細切れに斬り刻んでやればよかったのに。
「その時ぐらいから幹部共がパサルーを使い始めてみんなラリっちまった。
不思議なのはラリったのは地下室の幹部だけで、
この砦に寝泊りしてた手下共は普通に仕事や訓練をしてたな」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「つまらねえ!○ね!」
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