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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
19/50

19話 召喚術師ディスカッション

 山中の茂みが揺れ動く。

 数人分の足音が近づいてきた。


 わわっ、まだ生き残っていた賊が戻ってきた!?

 砦でこんなに騒ぎになっていたら様子を見に来ても不思議ではないが。

 ミルミルがくたばってる今の状況で敵に遭遇するのはマズい。


 …いやベアルやゲンが何とかしてくれるか。

 意外とこの珍妙な巨大生物を見て逃げていってくれる可能性も。


 などと考えていると。


 壊れた城壁の間から出てきたのは緑のドレスの女。


「なんなんなのよーっっこの山ーっ!

 向こうに人食い熊がいて出られないじゃないっっ

 雨に濡れるし泥で靴は汚れるしサイアクーッッ」


 ミサキの後からオドオドと落ち着きのない美少女カロン、衰弱している女を担ぐアイリーンとリルジットが現れた。


「んんっ!?

 んぎゃあああああっっ人食い熊っっ!!」


 ベアルを見たミサキが金切り声をあげる。

 うるさい!


「私は人間を食べないぞ」

「オッチャンは元人間ッスからねー。

 オレッチはトカゲ以外は食べれっけどー」

「ゲン君は元リザードマンだったか」


 巨大生物達が会話しているのを見て。


「ダルマ。

 もしかしてこれアンタの仲間なの?」


 ミサキは逃げ出そうとしていたのを中止した。

 その背中に隠れるカロン。


「戦いは終わったのかよ。

 しかしクソひでぇ有様だな、おい」

「クオルフガ食ベチラカシタ後ミタイネー。

 …ト? 剣士サンガ怪我シテル!

 アイリーン、コノ人オネガイ」

「おう」


 衰弱しているモーリエをアイリーンに託すと、獣人リルジットは纏っていたボロ布も脱いでモーリエの肩にかけた。


 ボロ布の下から現れたのは白いエプロンと簡素な白いワンピース。

 その姿はまるで看護師だった。


「剣士サン、キズヲ上ニ横ニナル。

 ミサキ、清潔ナ布ト水持ッテルカ?

 剣士ナラ針ト糸持ッテルネ!?

 無茶ダケドココデ縫合スルネ!」

「うぐぐぐっ…」


 脇腹を押さえてうずくまっていたミルミルを看護する。

 本当に看護師か医者らしく手際よく治療を行う。

 ミサキ、カロンも治療を手伝う。


「お腹が減りました」


 周りの騒ぎに流される事無くマリちゃんはポーチから干し肉を出して口に入れる。

 戦闘が終わるとミルミルを助けようとした必死な姿は、スイッチが切れたようにどっかへ行ってしまった。


「えーとそれでー

 獅子族のーえーとえーっと…

 名前ーなんやったっけー?」


 しばらくミサキ達参入者の様子を見ていた召喚術士マスター、レナレナが話しかけてきた。


「ダルマ」

「あれーそんな名前だったっけー」

「マリちゃんに名付けてもらった」


 僕は干し肉をかじっている少女を見上げる。


「そっかー。いい名前やねー。

 それより小さい身体やねー、

 召喚紙に乗せる肉が多いほどー大きくなんのにー」


 なるほど。

 ベアルやゲンと僕に体格差があるのはそのせいか。

 ドケチミサキが肉をケチらなければ僕も立派な体格を持てたわけだ。


「アンタが召喚術士かーっっ!

 そーゆー事は紙に書いとけ――――っ!!」


 ミサキが立ち上がって召喚術士を指差して叫ぶ。

 リルジットがミルミルのお腹に包帯を巻いていた。

 ある程度の応急処置は済んだらしい。


「うるせーぞ。

 成金ケチケチ女」

「アンタみたいな口の悪い駄犬が出るって知ってたら、

 召喚なんてしなかったわよ!

 それも紙に書いときなさいよっっ!!」

「まーそれもーそうやねー」


 僕の為になんか言い返してよ、レナレナ。


「でもいいわー。

 そのダルマさんをー返してほしいねんかー。

 昔、お金に困ってー召喚紙を売ったことをー後悔しててなー

 今はそれらをー回収して回ってんねーんー」

「まさかタダで返してもらおうなんて思ってないでしょうね。

 最低でもラビタ3匹分の代金と世話代を…」


 ケチくさい事を喚きながら、足音荒くベアルの足元へ歩むミサキ。

 

「ダルマちゃんは私と一緒なので返せません」


 側に来たマリちゃんが僕を抱き上げた。


「あらーそうなんー?

 珍しい操金術師のお嬢ちゃんはダルマさんが好き?」

「一緒なんです」


 まだ少ししか心が取り戻せていないマリちゃんが『好き』という言葉を理解してるのかわからないけど。

 『一緒』って言葉にそれが含まれていると僕は信じている。

 信じたい。


「そっかー、んーーー。

 ダルマさんはー私とー、一緒やなくてもー大丈夫ー?」

「…うまく言えないけど。

 マリちゃんは心を失っていて。

 僕はそれを取り戻してあげたいねん。

 一緒に居れば僕も引きこもりしてた時に失くしたモノを取り戻せる気がする。

 マリちゃんが言ってくれたんや。

 僕にもまだ光が残ってるって」


 マリちゃんを見上げる。

 相変わらず無表情で生気の無い目で僕を見つめる。

 その瞳の中に通じ合える何かを感じて僕は大いに尻尾を振った。 


「んーー。

 魔法種とー、魔法種はー惹かれあうーもんなのかなー」


 マホウシュ?


「ヒトと一緒にいると苦労するかもしれないぞ、ダルマ殿」


 ベアルが声をかけてくる。

 眠たげな眼をしているが色々考えてくれるいいヤツだとわかる。


「あちゃー、一緒に来ないですってー。

 困りましたねー姫ー。

 無駄足になっちゃいましたよー」


 ゲンは反対に軽い口調で何も考えずに話す性格のようだ。 


「レナレナはもうお金の心配はしなくていいようになったんか?」

「あはー。

 召喚したこのコ達とー、一緒にサバイバル生活を楽しんでるねんー。

 お金を欲しがった頃が―夢のようやー。

 そっかー。

 ダルマさんがそれでいいならいっかー、うんうん。

 まだ一枚召喚紙がー見つからないからー。

 そっちのほうが気になるから行くねー」


 ベアルとゲンが血肉と泥を踏みながら歩き出す。


「ちょっと待って、マスター!」


 どうしても確認したい事があって僕はレナレナを呼び止めた。

 2匹の巨大生物は足を止める。


「僕は元の世界に帰れるの?」

「私は召喚専門なのでー無理でーす。

 それにー元の世界にーもうーあなたのー身体はあらへんよー」

「そんな無責任な…」

「んー異世界に来るのはーあなたの希望ーやったよねー」


 それを言われると返す言葉がない。

 「帰れる」と言われてもやはりマリちゃんの側を選ぶ……、かどうかはすごく迷っただろうけど。

 もう既に答えは出たのでそれは置いておく。


 でもそうか身体無くなったのか。

 ちゃんと葬式は出してくれたのかな。

 両親と兄は泣いてくれたりしたのかな。


「ではではー」

「もう一つ、お願い!」

「なんですかー?」

「その仮面を外して。

 一度でいいから顔を見たいんだけど」


 別に美人のお姉さんを期待してるわけではない。

 長い引きこもり生活でできた唯一の「友」の顔を一度でもいいから見てみたい。


「そうよ、

 他人と話す時ぐらい仮面を外すのが礼儀でしょ!」

「んだとぉゴラァァァ!

 姫に対して失礼なんじゃああああ!!」

「ひっ!」


 勢いよく抗議したミサキはゲンに一喝されてマリちゃんの背中に隠れた。

 ゲンの言動は中学のヤンキーみたいだな。


「んんー。

 乙女の秘密やねんーごめんなー。

 じゃあ……」

「もう一つ質問!」

「一回で全部聞けやぁぁぁ!

 ゴラァァァッ!!」


 ゲンさんにめっちゃ怒られた。


「まぁまぁ、ゲンさん。

 何でも質問ーウェルカムーですよー」

「僕は魔法が使えるようになれる?」


「魔力が無いから無理です」

「え!?」


 レナレナではなくマリちゃんが答える。


「マジなん?」

「マジですよ」


「そうなのー。

 召喚獣は魔法が使えませーん、ごめんなー。

 でもー人間の時より多少ー身体能力ー上がってんのー感じませんかー?」


 くっ、命と引き換えに転生してきて『多少』かよ!


 いつかはすごい超魔法が目覚めると淡く期待していたんだけど。

 最初からそんな未来はなかった!


「私からも質問いい?」


 うなだれているとミサキが声をあげた。


「どうぞー」

「召喚獣はどうしてみんなブサイクなのかしら?」

「やんのかーこらー!」

「ゴラァァァッ!!

 やんのか小娘ぇぇぇっ!」


 僕とゲンさんが同時にキレた。


「あれれー。

 可愛くないですかー私のデザイン?」

「可愛いですって!?

 ってコイツらの姿はアンタが考えたの?」

「姫、感じ方は人それぞれですから。

 気にされないように」


 ベアルの言う事はもっともだ。

 でも申し訳ないが僕は、レナレナの趣味が悪いと思う派になる。


「他に質問、ご意見はーありませんかー?」


 僕からは無いし、誰も声をあげない。


「ではではー。

 ちょーっと長居しすぎましたー。

 魔剣の処理はーちゃーんとしてなー。

 じゃあーまーたーねー」


 ベアルとゲンが姿勢を低くした次の瞬間。

 泥と突風が吹きあがる。


「ひゃあっ」


 風が収まり目を開けた時には米粒大になった2体が山の向こうへ消えた。 


「ダルマの西方訛りが強いのが誰のせいかわかったわ」

「え、

 僕訛ってるんか!?」


 ミサキが呆れたようなジェスチャーをした時。


「剣士サン!

 動イタラダメダッテバ!!」


 背後からリルジットの懇願の叫びが聞こえる。


 僕らは振り返る。


 レナレナの言う通りお喋りが過ぎた。

 小雨は勢いが徐々に増し、空はどんどん暗くなる。


 ミルミルが泥の中を這っている。

 それを必死に止めるリルジット。

 向かう先には、魔剣。

 白い顔をこちらに向けて地面に突き刺さっていた。


 雨雲は魔剣が呼び寄せたかのように高速で流れていき、稲光が空を割る。


「うっせええっ!

 俺はもっと強くなりたいんだっ

 魔剣を手に入れれば、もっともっと!!」

「マリちゃん、

 ミルミルを止めなきゃ!」

「うん」


 マリちゃんより先に走り出した者がいた。

 ミサキだ。

 文句ばっかり言ってるが意外と世話焼きなんだな、と彼女を見直していると。


 ミルミルを追い越して魔剣へと手を伸ばす。


「みぎゃーっっ!

 魔剣に近づきたくないのに魔剣を持ちたい心が抑えられないーーっっ!!

 誰か止めてぇぇぇぇぇっっ」

「待てや! クソアマ!!

 その魔剣はアタシのモンだよ、クソがっっ!!」


 アイリーンまで魔剣に向かって走り出した。


「ぶべっっ」


 しかしすぐにアイリーンは頭からスライディングして転ぶ。

 意識を取り戻したらしいモーリエが足元にしがみついていた。


「なに?

 なんだこのカオスな状態は!?」

※次話、7日に投降予定※


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