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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
18/50

18話 美少女とならもう一回死ぬのも悪くない

「くっそおおおぉぉぉっっ!」


 右脇腹を押さえながらミルミルが地に転がり落ちた。

 刀傷の痛みに悶え苦しむ。


 予想外の動きに虚をつかれた。


 幸いというべきか、どんなに無茶な腕の曲げ方をしても魔剣が身体を切断できない位置にミルミルはいた。


「ミルミルちゃん!」


 マリちゃんが僕の指示を忘れてミルミルの方へ駆け出そうとする。


 2人の間に大男の巨体が落ちてきた!

 鈍い音をたてて大きな下腿の両足首が吹き飛ぶ。

 さすがに骨だけでは着地の衝撃に耐えられなかったようだ。


「ゲホッエホゲホエホッ!

 マリちゃん、止まって止まってってば!!」


 舞い散る土煙と血煙にむせながら僕はマリちゃんを制止する。

 それでも目の前の敵を無視してミルミルの方へ走り出す。


「もうこの身体は使えぬか」


 太くて低い落ち着いた男の声が降ってくる。

 え?誰???

 この場所にはミルミルとマリちゃんと僕、大男しかいないはず。

 大男はまともに話が出来る状態ではないし。

 声は頭上から降ってきた。


 見上げると。


 大男と目が合う。

 大きく見開かれ充血した目と。

 そこには命の光が感じられない。

 力無く傾き血の泡を口から吐きながら気絶、いや絶命しているように見えた。


 無様に尻餅をついた大男の身体から右腕が天に向かって真っすぐ立っていた。

 その手には魔剣。


 その時初めて気が付いた。

 魔剣の鍔の中央に白い顔がある!

 …って顔の彫刻があるから何だって話。

 人語を話す獅子族の僕が言うのも変だけど。

 魔剣だからって話すなんて…


「だが小娘だけでも殺さねばならぬ」


 今度はしっかり見た聞いた!

 彫刻の口が動いて言葉を発するのを!!


 厚くなった暗い雲に雷光が走り魔剣は黒いシルエットとなる。

 その影が高速で落ちてきた!


「マリちゃん、

 右来るよっ!」


 少女は立ち止まると金の棒の先を斧刃へと変型させ突き出す。

 しかし非力な腕では魔剣の勢いは防げず、ドンッと音をたてて金の棒のお尻側が地面に付く。

 同時に雷鳴が鳴り響くと小雨が降り出した。


「ん!?」


 その勢いで太い腕をマリちゃんに向けて降ろそうとして。

 斧刃を押し返そうとした手首がちぎれた。


 何やってんだ?

 いくらマリちゃんが非力でも固定された刃物に手を置いたら斬れるだろうに。


 そこに僕は。

 非力な少女が強くなれるヒントを見た気がした。


 偶然に危機を脱したマリちゃんは金の棒を短くするとミルミルの元へ走る。


「ミルミルちゃん!?」

「うぐぐぐっっ…」


 脇腹を押さえて苦しむ黒の女剣士。

 痛みに耐えながらも立ち上がろうと必死だった。


「マリちゃん…

 ミルミルが気になるのはわかるけど。

 まだ終わってないよ」


 もし手首が完全に切断されていたなら、魔剣は動かす身体を失っていただろう。

 だがわずかな皮一筋で右手首からぶら下がっていた。

 力無くうなだれた首を持つ身体の、左腕が素早く動き右手から魔剣を奪う。


 この時の大男の身体は下肢のほとんどを失い、歩きはおろか立つ事も出来ない状態だった。

 だからボキボキと骨折の音をたてながら、ありえない角度で腰をや腕を曲げて剣を振り上げる!


「また来るよっ!」


 マリちゃんは金の円盾を形成する。


「守りに入っちゃダメだってば!」

「でもっ!!」


 案の定僕達は剛力で吹き飛ばされた。

 仲良く地面と平行にランデブーした後、に着地。

 勢いは衰えず中庭の雑草の上を転がった。


「いでででででっ!

 くはっっ」


 土が盛り上がったところでバウンドして華麗に着地。


 しかしまともに衝撃を喰らったマリちゃんの身体は城壁まで転がり。

 べちっ!

 壁に当たって止まった。


 「マリちゃん、大丈夫!?」

 「…痛いです」


 痛みを堪えながら立ち上がるマリちゃんの顔も体も擦り傷だらけだった。


 マリちゃんが盾を出した理由はわかる。

 ミルミルを守ったのだ。

 その健気さに目頭が熱くなる。


「ぐっっそおおおぉぉぉっ!!」


 脇腹を押さえながら中腰で立ち上がったミルミル。

 溢れ出す血が足元の染みを広げていく。


「ミルミルッ!」

「ミルミルちゃんっ!」

「とりあえずここまで来い!

 ヤツはもう移動はできないっっ」


 上半身の多数の骨と関節が外れてもなお、グニャグニャしながら大男の身体は魔剣を持ち上げた。


 雨が少しずつ強くなってくる。


 全てのパーツが外れたミルミルの変型剣は半分の長さになっていた。

 それを杖にして重そうに足を引き摺りながら後退。


「グハッ!!」


 ミルミルが血を吐いて膝を付く。


「ミルミルちゃんっっ!!!」


 マリちゃんが走り出した。

 金の円盾を形成しながら。


 雷鳴を合図に魔剣が振り下ろされる。


 ダメだダメだダメだ!

 マリちゃんは金の棒の有効な使い方を分かってない!

 たとえマリちゃんが盾になったところで無事では済まない。

 最悪なら盾と一緒に圧死!!


「うぬわああああああっっ」


 たまらず僕もマリちゃんの後を追って走り出す。

 非力なのに。

 何もできやしないのに。

 正直、この世界の人間が死のうが生きようがどうでもいいのに。


 ただ。

 僕にとってマリちゃんは特別な存在だ。

 彼女という寄る辺を失ってどうやってこの世界で生きてゆく?

 この戦いの前にそっと置いて行かれた時。

 すごく心細くて不安になったんだ。


 だから。


 だから、そうか。

 マリちゃんにとってミルミルは寄る辺なんだ。

 僕達は同じ思いで走っている。

 後先なんて考えない。


 マリちゃんがミルミルの背に立って盾を構えるのと同時に。

 僕はマリちゃんの肩に目掛けて地を蹴る。


「マリちゃんっっ!!」


 緑の猿の時は自分の考えを伝える時間があった。

 今回は一瞬の間。

 もうすでに魔剣は目前に迫っていた。


 というか。

 何も出来ないなら僕が飛び上がる必要なんてなかったんじゃないか?

 まあいいか。

 この先何も目的も無く生きていくより、美少女と一緒に死ぬのも悪くない。

 どうせ一回死んだ身だし。

 あはははははははははは!


「くーまーあーらーしー」


 間延びした女性の声がしたかと思うと。

 空から巨大な茶色の物体が落ちてきた。


 形容のし難いおぞましい圧潰音とともに大男の血肉と泥が飛び散る。

 支点を失った左手は狙いが狂って少女から少し離れた場所に魔剣を突き立てた。


「おううっ、エロエロエロエロ…」


 マリちゃんの左肩に飛び移った僕は、人間の轢死を間近にみて嘔吐。

 僕を右手で摘み上げるとマリちゃんはポイッと僕を捨てた。


 心は無くても汚いモノはわかるんだね。

 パートナーとして嬉しいような、悲しいような。


「やぁやぁ、ひさぁーしぶりだねーキミー。

 こっちに来ちゃったんやねー。

 元気そうでー…もあらへんかー。

 食あたりカナ?」


 この懐かしい声は。


 僕は声のした方を見上げる。

 雨粒が目に入ってくる。


 落ちてきたのは赤茶色の大きな熊?

 みたいなもの。

 全長4メートルはある。高さ2メートル強。

 丸い体でゆるきゃらっぽい姿と顔をしている。

 その巨体の上に全身毛皮を覆った、けものの姫みたいなのが座っていた。 


召喚術士マスター!?」


 ひきこもっていた時の声だけの唯一の「友」のご尊顔を拝したいが。

 細く目の部分だけがくりぬかれた木彫りの仮面を被っている。

 全身を虎柄の毛皮で覆っており外見だけでは何の情報も得られない。

 胸が大きく膨らみ高身長に見えるので、大人の女性だろうというのはわかる。

 ただ、そのくらいの情報は声だけを聞いてる時にわかっていたが。 


 ビチビチビチビチッ…


 敷き潰されてなおも大男の身体は戦いを続けようともがく。


「姫!」


 熊が喋った!

 渋い大人の男性の声で!!

 あ、そうか同じ召喚獣か。


「あー

 まだ終わってーないみたいだねー。

 じゃあー

 げんぶおとしー」


 熊はその巨体を素早く横移動させて、魔剣を掴んでいた左手を踏み潰す。

 大男の身体の上の空いたスペースに、また巨大な何かが落ちてきて。

 哀れ、その身体は完全に挽き肉と化した。


「はい、これで終わりー。

 じゃあ自己紹介ー。

 こっちがーくまあらし族のーベアルさん、

 あっちがー玄武族のーゲンさん

 わたしがー召喚術士のレナレナー」


「やあ、はじめまして」

「こんちゃーす」


 熊は落ち着いた太い声で

 大きな亀のようなゆるきゃらは若く高い男の声で挨拶をする。


「レナレナ…さん…」


 そして召喚術士マスターの名前を初めて知った。

 そういえば今まで「マスター」としか呼んでいなかった。

 ベアルはレナレナを「姫」と呼んだな。


「こんにちは。

 マリースです」


 マリちゃんが丁寧にお辞儀をして挨拶をする。

 先程までの死闘を忘れたかのように。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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