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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
16/50

16話 扉の向こう

 アイリーンに続いて僕らも牢から出る。


 摘まれた箱の向こうにミサキが突っ立っていた。


「ちょっと…

 何よこれ……」


 大きな木箱半ダースの山が2つある。

 その山には紋章の入った大きな布がかけられていた。

 左に伝説的な生物が右の盾を持つ紋章。

 幾つか木箱が開かれ中には多くの武器や防具が入っている。


「革命でも起こすつもりかしら…

 いや まさかそんな…」


 なぜかミサキが異常に狼狽して僕達に気が付いていない。

 

 山賊の塞だから武器ぐらいあるだろう。

 量が異常ではあるが。


「ミサキちゃん」

「おい、ミサキ!」

「あ…ああ、アンタたち。

 こんなところにいたの。

 ってか人増えてない!?」

「さっき助けを呼んだのにどこ行ってたんやー」

「呼ばれて中庭に入ったけど誰もいないじゃない!

 一人で中庭を横切るの、怖かったんだから!!

 階段を見つけて今降りてきたのよ」


「おいモーリエ、しっかりしろクソッ!

 モーリエ!モーリエェッッ!!」


 アイリーンの絶叫が聞こえる。

 僕らがそちらへ駆け寄ると。


 灰色の長い髪の痩せこけた裸の女性がボロ布の上に横たわっている。

 それをアイリーンが抱き起して泣いていた。

 リルジットも心配顔でその傍らで見守っている。


「モーリエェ!

 アタシらのかわりに犠牲になっちまって…」

「な、なに?

 これどうなってんの!?」


 僕も知らん。

 でも推測はできる。


「この人達は賊に捕まってこの地下に閉じ込められていたんや。

 賊に捕まった女がどうされるかはミサキは良く知ってるやろ」

「くっ。

 あの時の屈辱とアンタへの怒りが蘇ってきたわ」


「アタシらはちょっと違うんだよ…

 ロープと袋の魔法で拉致られたのは皆一緒だけどな、クソックソッ!


 アタシらはどっかの貴族の嫁候補だったらしい。

 だから地下牢に閉じ込められて乱暴はされなかったんだ。


 ただ、モーリエが捕えられて変わったんだ。

 このモーリエに賊のボスの大男が惚れちまって…あのクソやろーがっっ!!

 あのヤロー、モーリエに毎日乱暴を働くようになって…」


「つまり…キミらは商品やったけど、それにボスが手を出したと」


 僕の解釈にアイリーンが泣き顔で頷く。

 口が乱暴で容姿も怖そうに見えたが案外情に厚いお姉さんなんかな。


「ボスってどんな奴なん?」

「見テナイ?

 天井落トス、チカラモチ。

 天井落トシタノハオマエ達?」

「ちゃうよ。

 もしかして辮髪で丸太を持ちあげる大男?」

「ソウ、ソレ」


 ふうん、アイツが賊のボスなのか。

 とすると。

 アイツらを操っていた裏ボスがいるってことか。


「コイツらさあ、軍隊みたいに統制とれてた賊だったけど…

 ボスの勝手な振る舞いにギスギスしだしてさぁ…

 後から来たカロンにも時々乱暴をしやがって……」


 なんだってー!

 あの超美少女を!!

 まあ野獣どもがあの美少女を前にしてガマンなんかできるワケないか。


「あの…私、ルシアさんを上に連れていきます…」


 美少女カロンちゃんが居心地悪そうに、やはりボロ布を着た女性を連れて階段に向かう。


「ヒヒ… ヒヒ ヒヒ ヒヒ ヒヒ ヒヒ」


 それがルシアと呼ばれた女性だろう。

 長い黒髪はグチャグチャに絡まった毛糸みたいになって。

 その眼光は異常に光り、大きく口を開けて奇妙な声を漏らしている。

 明らかに精神が病んでいた。


「モーリエ、脈アル、イキテル!

 熱アル。

 ヨクナイジョウタイ!」

「早く外に出ないと天井が崩れます」


 それまで牢の扉の横でじっと立っていたマリちゃんが口を開いた。


「話は後でいいから、

 とりあえず外に出よう」


 僕がみんなを促す。


「あ、ああ…ええっと。

 おい、緑のドレスのクソアマ!

 モーリエの足を持てよ、2人で運ぶぞ」

「あ、あたし!?」

「こん中で一番元気そうだ…

 ってなんか顔が青いぞ?

 身体のどっかがクソ悪いのか!?」

「だ、大丈夫…」


 その時、ズズンと音をたてて地面が震える。


「きゃあっ!」

「ヒッ!!」


 天井が少し崩れてパラパラと落ちてくる。


 この地下室からは幾つも坑道のような横穴が開いていた。

 その一つから男の太い唸り声が響いてくる。

 それは…大男とミルミルが入って行った穴だったような。


「ナニ、ナニ?」

「ひぇぇっ!」

「おい、クソ早くモーリエを担いであがるぞ」

 

 皆で階段を上がると、崩れた城壁を乗り越え砦の外の茂みに隠れた。


「これ、食べ物と水!」


 ミサトが自分のカバンから幾つもの革袋と沢山の紙の包みを出すと、再び来た道を戻って行った。


「なんや?

 どうしたんだろうね、ミサトのやつ」

「ね」


 紙包みを開くのに夢中のマリちゃんは空返事。


 包みの中は大量のビスケットやスコーン。

 革袋は注ぎ口の付いた水筒。


「あのクソ女、リュックの中は菓子だらけかよ!」

「ソンナコトヨリ!

 ハヤク、モーリエ水ノマセル!!」


 モーリエと呼ばれている女性は痩せ衰え、髪もグレイッシュでバサバサに乱れて若いのか老いているのかわかりにくい。


「ユックリ、スコシズツ水、ノム!」


 ボロ布に包まれて傾斜のある草地に横たえられているモーリエを、リルジットが抱き起して介抱している。

 意識がハッキリしないモーリエを横で声をかけて元気づけてるのはアイリーンだ。

 一方でカロンはルシアの世話をしていた。


 我らがマリちゃんはお菓子を食べるのに夢中。


 その時、複数の男の声が聞こえたので僕は城壁に上る。


 南側、中庭の向こうに血の染みがついた白い砂が見える。

 早朝に僕達が入ってきた入口だ。

 その数メートル横に城壁が大きく崩れた箇所があって。

 賊どもは常用口として使っているのだろう。

 そこから賊の残りが帰って来ていて、中庭の穴を見て慌てている。


 ちなみに僕達は北側、砦の廃墟の側の城壁の外側にいる。


 ドォォォンッッドォォォォォォンッッッ!!


 再び轟音が鳴り響き地面が揺れて、地下室から土ぼこりがあがる。

 後方から女性たちが小さな悲鳴をあげ、前方中庭の賊達はオロオロして右往左往している。

 僕は振動で城壁から落ちそうになったところで。

 マリちゃんが抱きとめてくれる。


「あ、ミルミルひゃんでふ」


 ご主人様ー、食べ歩きしながら喋るのははしたないですなー。


 階段からミサキを脇に抱えたミルミルが上がってきた。

 幸い土煙にまぎれて賊達には気づかれてない。


 地面に投げ飛ばされたミサキが立ち上がると、今度は逆にミルミルの手を引き賊のいない方へ走る。


 城壁の崩れた箇所を飛び越え、腰を低くして大回りしながら2人が合流。


「ミサキ!

 てめぇあんな地下で何ウロウロしてたんだっ」

「忘れ物を取りに行ってただけよ!

 それよりさっきからアンタ、なにを慌ててるのよ?」

「あああっそうだよ!

 賊はとんでもねー事を地下の奥でやってたんだよっ!!

 全員隠れろ、マリーも!」


 ミサキが二人を水とお菓子の置いてある茂みへと引っ張って行く。


「あ?

 なんか急に人が増えたな」

「僕とマリちゃんでこの地下で閉じ込められてた人を助けてあげたんやで」

「おーエラいなーマリー!」


 ミルミルが左手でマリちゃんの頭をガシガシ撫でながら、右手はお菓子を鷲掴みにして自分の口に運ぶ。


「僕もほめろやー」

「えらい、えらい」


 マリちゃんがミルミルのマネのつもりか、僕の頭を撫でる。

 やさしく、やさしく。

 僕はそれで満足する。


 轟音と共に中庭から再び土煙があがった。


「ぐがぁぁぁっっっっ!!!」


 野獣のような咆哮と共に。


「お頭?お頭ぁぁぁ!?」

「お頭ぁ、それは、それだけはっ

 手をだしちゃダメだって言われてただろぉぉぉっ」

「やめてくれ、お頭ぁっっ!」


 賊の阿鼻叫喚と何かが暴れる音、潰れる音がごちゃまぜで響き渡る!


「なんだよ、クソッ!」

「ひぃぃ、怖いよぉ」

「なになに!?

 一体どうなってるのよ、ミルミル?」


「ここの賊共、地中に埋められてた魔剣を掘り起こしてやがった!

 それも大量にな」


「また魔剣!?

 最近魔剣の事件が増えてるって街で聞いていたけど、

 2日続けて魔剣に出会う事なんてあるのっ?」

「チッ、俺も初めてだよ!

 ここは昔の賢人だか勇者だかが、

 誰も魔剣に呪われないように隠した場所なんだろな。

 20本ほど封印された魔剣を見たぜ」

「何よソレ!?

 そんなバカな事してどうすんのよ?」

「知らーんっっ。

 魔剣の軍隊でも作るつもりじゃねえのか?

 あの大男、一番奥の石棺に封じられてた、

 一番ヤバそうな魔剣を手にしやがった」

「じゃあ坑道の奥で暴れてたのはミルミルじゃなかったのね」

「お前は俺がトンネルを壊しながら進むアホだと思ってるのか?」

「あら、違うの?

 …痛い痛い!」


「なぁ、音が止んだよ」

「止みました」


 2人が話し始めてミルミルがミサキにアイアンクローをかけるまでの間、砦の中で続いていた悲鳴と咆哮がピタリと止んだ。


「魔剣の周りに斬る人間がいなくなったな。

 おい、俺にも水をくれ」

「賊どもが魔剣を倒してくれたんとちゃうかー」


 グォォォウ、と唸り声が城壁の向こうから聞こえる。

 はい、僕が不正解でした。


「このまま魔剣が城の方へ行ってくれるといいがな」

「ユーエンの城へ!?

 冗談じゃないわよ、大騒ぎになるじゃない!」

「大きな声を出すな!

 昨日城を見たが、立派な城国じゃねえか。

 城壁も立派だし兵士も揃ってそうだし、なんとかなるだろ」

「そんな無責任な!」

「じゃあお前がなんとかしろよ!

 俺が何とかしなきゃならん義理なんかねえよ」


 ぼんやりと立っているマリちゃんと一緒に、ミルミルとミサキのやり取りを聞いている。

 ミルミルは革袋の水に口を付けると呟く。


「俺なんか別に強かねーよ。

 賊が弱すぎるだけだ。

 それより気がかりなのは…」


 ドタドタと大男が歩く音がする。


 …うん?

 なんかおかしい。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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