15話 その出会いは騒動の始まり
全身刺青の大男が丸太をハンマーのように振り下ろす。
ミルミル、マリちゃんは左右に散開して避ける。
「ウガッウガッ!」
大男は鎖で丸太を惹きつけると高速で振り回し。
そして滅茶苦茶に丸太を振り下ろす。
もう一本、二又フォーク付きの鎖を出すと操る丸太を追加した。
「うひいいいぃぃぃぃっっ!」
マリちゃんが丸太を避ける為、アクロバティックに飛んで跳ねる。
僕は振り落されないように必死で小さな肩にしがみつくしかなかった。
「ンギャアッッ!!」
女性の悲鳴と肉や骨が潰される音。
声の方を見ると赤いシミが広がる白い砂があるだけだった。
チッ。
ミサキがやられたかと思ったが、セクシー姉さんが丸太の犠牲になったらしい。
昨晩に僕をあんなに怖がらせたヤツなので同情の余地はないが。
砂を操り砂をサーファーのように乗りこなすヤツの能力は僕らにとって相当やっかいだったのではないだろうか。
ロープ使い、袋転移、砂サーファー、丸太使いが一度に襲ってきたら今頃は大敗していたかもしれない。
暗示のせいで彼らは逆に弱体化している?
「オラオラァァ!
こっちだこのクソデカブツ!!」
ミルミルが声をあげて敵の注意を惹いている。
黒い剣を手に持つが、それを使うことなく振り回される丸太を軽いステップで避けている。
重い丸太が振り下ろされる度に地面に亀裂が走る。
マリちゃんが腰を落として金の棒を構える。
棒を鋭利な槍に変更させると。
「やあっ」
金の槍を伸ばして大男の左のふくらはぎに突き刺した。
「うわあっ!」
槍を刺した衝撃でマリちゃんの身体が後ろに揺れて僕は肩から落ちそうになった。
「ぐああああっっ!!」
大男の注意はミルミルからマリちゃんへと移る。
マリちゃんは槍を元の長さに縮めると、大男から距離を取りながら背後に回り込むよう走り出す。
「ダルマちゃん、しっかり掴まってください」
「うん。
足を止めるならアキレス腱を狙うといいよ」
「あきれす?」
「ああ、えっと。
足首の後ろ」
「わかりました」
「うらああああああっっ」
大男がマリちゃんに狙いを定め丸太を振り上げたところでミルミルが斬り付ける。
同時にマリちゃんが足を止めて再び槍を伸ばす。
槍がアキレス腱を貫く。
「があああああっっ!
痛い痛いおおおおおっ!!」
男は膝を付く。
「なんだナンダ!?
どうなってる?
お前たちはナンダ?」
「痛みで正気に戻ったみたいやね」
「ですね」
「うるせえぇぇ!
消えろっっデカブツッッ」
僕達が会話している間にミルミルが飛び上がり剣を振り下ろす。
「ぐっ!」
男は鎖を掲げて防御。
構わず剣は鎖を斬り落し男を袈裟斬りにした。
「浅いかっ!?」
ミルミルが着地と同時にバックステップで後退。
「このクソアマどもがあああああっ
ゆるさんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」
丸太に繋がってる鎖を掴むと大男が何度も地面に丸太を叩きこんだ。
勝機が無いとわかってヤケを起した?
意味がわからない。
まるで駄々っ子のようだ。
大きな振動と共に地面の亀裂が広がる。
「危ないよ、マリちゃん!
下がった方がいい」
「はい…
あららら?」
大男は地面より下に落ちる。
その周りが陥没して傾き、マリちゃんがバランスを崩した。
「これは…
地下室?」
中庭のほとんどが四角く陥没して、その半分が崩落して地下の土壁が覗いていた。
その地下を大男が足を引き摺り奥へと姿を隠す。
顔や胸から血を流して。
「ごら゛ぁぁぁ!
逃げんじゃねえええええっっ」
ミルミルは黒い剣を引っ提げ地下室へ飛び降り男を追いかける。
壁にポッカリ開いた横穴の奥へ。
「ヤツはミルミルに任せようか」
「任せましょう」
「でも地下があるなんて驚きだね」
「ですね」
「……それにしても……
……クサイ」
地下からは男のニオイ、女のニオイ、血のニオイ、糞尿や腐敗のニオイといろんな情報が僕のよく利く鼻から入ってくる。
おかしいな。
山賊はセクシーお姉さん意外は男しかいなかった気がする。
しかし地下室はヒトの女のニオイが強い。
「おーい……おーい……
そこに誰かいるのかー?」
「ダルマちゃん、
下に誰かいますよ」
「山賊かな?」
「さあ。
でも殺気はありません」
まあ、山賊なら中庭の戦闘に加勢に来てるか。
砦内の全員が洗脳されている可能性もあるが。
でも昨日出会った賊達は洗脳されている様子はなかったな。
幹部クラスだけが洗脳されている気がする。
「降りてみる?」
「降ります」
声の聞こえた場所は小さく区切られた部屋になっているようで。
その場所の地面、というか天井の片方だけが落ちて坂道が出来ていた。
その上をマリちゃんが数歩歩くと。
ガクンとバランスを崩す。
「いてっ、いてえな!」
足元の地面が崩れて下の人に当たったみたい。
「気を付けて。
床を踏み抜かないようにね」
「わかりまー…」
ドスン。
落下する感覚の後に大きな衝撃。
僕はマリちゃんの頭から足を滑らせて、その肩に落ちた。
痛い。
マリちゃんは器用にも直立したまま床を踏み抜いて階下へ落下していた。
そこは狭く暗い空間。
ヒトの女のニオイしかしない。
しかも数日は風呂に入ってない体臭。
この世界に疎い僕でもわかる。
この部屋は。
「助けかと思ったら…
おいおい、子供かよ!クソが!!」
頭上からハスキーな声が降る。
ピンクのベリーショートヘアーで顔の数か所にピアスがある、目つきの鋭い女性がボロ布をまとって側に立っていた。
「気を付けろよ、もう少しでアタシが踏み潰されるところだったぜ。
…お前もヤツラに捕まったのか!?」
「ひぃぃぃぃっひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「うるせえ、カロン。
ルシアを黙らせろ!クソッ!」
「は、はい!」
奥にも数人いるらしい。
「捕まった、って事は。
ここは地下牢なんか?」
「みなさん、捕まったのですか」
マリちゃんが聞くと、奥に声をかけていたピアス女が振り向く。
「ああ、そうだよ。
ってクソッ
お前今、誰と話したんだよ!?」
「コノヌイグルミさんダヨー。
コノヌイグルミさんシャベッタヨー」
僕は後ろから誰かに持ち上げられる。
振り向くとロングの青髪とピンと立った耳が目に入った。
獣人の娘か。
ミルミルと同じように濃い肌色をしている。
「リルハ耳、イイ。
ダカラ、コノコガ話シタノ、ワカル」
「クソかよ、そんなイヌが喋るかよ」
「イヌちゃうわ、ぼけー」
「喋んのかよ、クソッ!」
「すまん、ウソでした。
腹話術で話してますねん」
「どっちだよ、ハッキリしろ! クソがっ!」
「アイリーンカラカウ、ヨクナイ!」
「はーい、すみませーん」
つい反応が面白くて遊んでしまった。
今はけっこう非常事態なのに。
「どっちでもいい、クソガキ!
外の様子はどうなっている?
アタシたちは外に出て大丈夫なのか!?」
「うん、大丈夫。
賊はいなくなったでー。
今なら出られる」
「ヨカッタヨカッタ!
ミンナデラレルヨー!!」
あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ。
ちょっと、獣人のお姉さん!
喜ぶのはいいけど僕をシェイクしないでー。
「ど、どうやって出るんですか?
天井が今にも落ちてきそうで怖いんですけど…」
ピアス姉さんの後ろの暗がりから皆と同じようにボロ布をまとった背の低い少女が現れた。
むむっ。
このゴミ溜めのような地下にはふさわしくない程の美少女。
ふわふわボリュームショートのオレンジの髪の下に白い肌の整った顔。
よく見ればピアス姉さんも獣人姉さんも美人な部類に入る。
でも奥にいる少女はレベルが違う。
僕には彼女の周りにキラキラエフェクトが見えた。
…マリちゃんも負けないくらい美少女だけどね!
「僕らが落ちたところから登る?」
マリちゃんが垂直落下してきた天井に直径50センチほどの穴が空いている。
「えーと、リルさん?
僕を上にたかいたかーいってしてくれませんか」
「ンー、コウカ?」
僕を持ったままだった獣人姉さんにお願いする。
穴がずっと近くなった。
「おーい!
ミサキ、ミサキーーィ!!」
出来る限りの大声で何度も成金娘を呼んでみたが反応はなかった。
チッ。
大事な時に使えん女だ。
アイツならロープぐらい持って…あ。
「マリちゃん、
金の棒をロープにできる?」
周りの会話をぼんやりと見守ってたマリちゃんに声をかける。
「うん」
「待ってください、ロープだとルシアさんは登れません!」
キラキラ美少女が声をあげた。
「それとな、この地下牢の外にもう一人女が倒れてるハズ。
ソイツも助けたい」
ピアス姉さん、『クソッ』って言わずに会話出来るやん。
「リルさん降ろしてくださーい。
マリちゃん、金の槍で壁は壊せるかな?」
マリちゃんはトコトコとヒビだらけの壁に近づいてペタペタと触れる。
「天井の強化魔法は崩れましたが、
壁の強化魔法は残ってます」
「おいおい、壁をぶっ壊したら天井が一気に崩れてくるぜ、クソガキ」
マリちゃんは壁を伝って奥へと歩を進ませる。
僕はそれに付いていく。
扉の前に行くとそれを押した。
「開きません」
「そりゃ、地下牢やからね。
外からカギがかかってるよ」
「どんなカギですか」
「鉄のカンヌキと南京錠だよ、クソガキ」
ピアス姉さんが代わりに答える。
「クソガキ言うなやー。
こっちはマリースちゃん、僕がダルマってカワイイ名前が付いとんねん」
「アタシ、リルジット。
ソッチ、アイリーン。
アッチ、カロン。
モットアッチ、ルシア」
超美少女がカロンで暗がりの奥にルシアって人がいるらしい。
ああ、そういえば先刻悲鳴をあげていたっけ。
自己紹介の間にマリちゃんが金の棒を扉にブッ挿した。
正確には扉と壁の隙間に棒を平たく変化させて刺し込んだ。
「鉄のカンヌキを斬るの?」
「ちがいます」
暫くの間、ガチャガチャギィギィと扉の向こうで音がして。
最後にカタン、と音をたてると扉が動く。
「おおっ!」
「すげえな!」
「やった!」
「ヤッタヤッタ!」
一同、歓喜の声をあげる。
「どうやったの、マリちゃん?」
「ミルミルちゃんが操金術なら開けられないカギはないって。
色々なカギの開け方を教えてくれました」
むぅ。
アイツはなんて教育してんだ!
今はグッジョブと言わざるをえないけど。
マリちゃんを利用して強盗とかしてないだろうな。
「どうやったか知らねえけどやったな!
クソ……いやマリース、アリガトな!」
ピアス姉さんのアイリーンが扉を押して牢から飛び出した。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「つまらねえ!○ね!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援や不満をぶつけてください。
どんなご意見でも励みになります!
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。









