14話 正解は金のアレです!
あああああああ!!
落ちて軟かくてマリちゃんに伝えられてボヨーンてなるもの。
ボヨーンぼよーんあああ昨日なんかぼよーんってなってたなぼよーんぼよーんおちつけおちつけぼよーん、おもいだせぼよーんマリちゃんとぼよーんきのうどこかにおちて。
あ!!
「マリちゃん、ミルミルの胸に落ちたら助かると思わへん?」
「うん、
死なない気がします」
僕の奇妙で変態っぽい問いにマリちゃんは真面目に答える。
心は無くてもこのままでは死ぬという認識はあるらしい。
「でもミルミルちゃんが死にますよ?」
「ね。
だから金の棒でミルミルの胸を作るんや!
大きな大きなおっぱいを!!」
「なるほど。
でも金が足りません」
「中は空洞でいいんやで。
柔らかさと見た目が似てて大きな大きなおっぱいの上に僕達は落ちる!」
「はいっ」
金の傘を棒に戻し、地面に向かって構えるマリちゃん。
棒の先端が球体に変化するとそれが巨大な風船が膨らむように視界一杯に広がる。
「んぎゅぅぅぅぅぅぅぅっ」
直後、着地と同時に金の風船に身体が押し付けられる。
ズブズブと身体が風船にめりこんでいく。
マリちゃんは僕より重い分、深く深くめりこんでいく。
「ぷはぁぁぁぁぁっ」
風船の反発力で再び身体が空に舞い上がる。
別のところに飛んでいきそうになる僕をマリちゃんが捕まえてくれた。
「やったね、
僕達助かったよ!」
「うーん。
ミルミルちゃんの胸はもう少し硬い気がします」
えー。
今、そこを悩むんですか。
「助かったから結果オーライ」
「そうですか?」
「そうですよ」
金のおっぱいと共に何度かバウンドした後にマリちゃんは金の棒へとゆっくり戻していく。
少しずつ地面が近くなる。
マリちゃんが僕を抱き上げる。
「ダルマちゃんのおかげで死ななくて済みました。
ありがとうございます…
って言うのですか、こんな時」
「うん、どういたしましてー」
「私だけでは傘とかおっぱいとか考えつきません」
「……」
それは自分が死にたくなかっただけ。
そのために利用しただけでお礼を言われる筋合いはない。
「私が失った何かをダルマちゃんは持っています。
だから私にはダルマちゃんが必要なんです」
恥ずかしいセリフを臆する事なく言えるのは心が無いから?
でもカラッポの心から今の言葉が吐けるだろうか。
昨日出会った時のボンヤリした彼女とは少しだけ違う。
それは僕の存在が彼女の心のドアをノックしたからだろうか。
鼻の頭がツンと痛くなって涙腺がゆるむのを感じる。
この数年、いやこれまでもこれからもきっと『僕を必要』だなんて言ってくれる人はいない。
マリちゃんが心を取り戻した姿を見てみたい。
その時が来ても少女は僕を必要とするだろうか。
一度心を壊した僕が側に居る資格があるだろうか。
そんな願望と畏怖が同時に湧き上がる。
「マリちゃん、
一緒に心を取り戻せたらいいね」
色々な気持ちが混ぜ合わさって、僕はそう返答するのが精一杯だった。
マリちゃんが強く抱きしめて僕の顔を覗き込んでくる。
「ダルマちゃん、
鼻血が出てますよ」
ああ、着地の時に鼻から突っ込んだかな。
鼻がツンとするのは別にマリちゃんの言葉に感動したからじゃない。
感動したからちゃうからな!
「マリー!」
「マリーちゃん!」
ミルミルは駆け寄ってくると腰を折ってマリちゃんの頭をしっかり抱き寄せる。
ミサキは側に寄るとマリちゃんの頭を撫でた。
「テメェは!
心配させんなよっ」
「もーホントに。
突然消えたかと思ったら空から降ってくるんだから。
ミルミルはブチギレて、
小さいオッサン2人を滅茶苦茶に蹴り飛ばして片付けてくれたわよ」
「上半身を縛ったくらいで俺を止められるかっつーの。
どっかケガしてないよな?
大丈夫か!?」
「ぶっはーっっ
殺す気か―!!」
マリちゃんの胸に抱きしめられていた僕は、マリちゃんを抱きしめるミルミルの大きな胸に圧死させられるところだった。
「お、泣き虫イヌ。
お前、生きてたのか!?」
「ダルマちゃんのおかげで死なずに済みました」
「マジかよ!?」
「マジやで。
礼の一つも言うて欲しいもんや」
「イヌの事なんかどうでもいいわよ!
大きいオッサンが動き出したわよっっ」
状況がわからん。
「マリちゃん、
頭の上に乗っていい?」
訳も聞かずすぐに僕を頭の上に乗せてくれた。
「ありがとう」
「どーいたしましてー」
そう言いながら腰のポーチから干物を出すと食べ始めた。
訳も聞かなかったのは信頼なのか、何も考えてないのか干し肉をすぐに取り出したかったからなのか。
「重くない?
大丈夫?」
「だいじょおぶれふー」
そういえば今の僕って何キログラムなんだろう。
マリちゃんは言葉通り平気そうなのでそんなに重くはないらしい。
僕は爪を出さないように気を付けながら淡いグリーンの頭部にしがみつく。
鼻腔がマリちゃんの髪の匂いで満たされる。
なんか。
すごく落ち着く。
いやいや、落ちつている場合じゃない。
状況把握、状況把握。
赤布を巻いた身体2つと、胴体と決別した首2つが地面に転がる。
首の一つをミサキがつま先でつついていた。
辮髪の刺青大男が涎を垂らしながら徘徊を止めてこちらに身体を向ける。
手に持つ鎖の先に二股の大きなフォーク。
そこへ。
ザザザザー…ザンザンザン…
夜半から僕たちを悩ませた荒々しい砂と足踏みの音が響くと。
僕達が入ってきた城壁の崩れた箇所から白いものがあふれ出てくる。
砂だ。
大量の白い砂が生きてるように壊れた城壁を乗り越えてくる。
ザンザンと音を立てて波打っている。
その上をゆっくり滑ってくるピンクのボードが現れた。
そしてボードの上に立つ女が一人。
黒いレオタードに申し訳程度の武装。
金のウェーブのかかった髪の化粧の派手なお姉さん。
波打つ砂を乗りこなして中庭に入ってくる。
これが昔流行った丘サーファーか。
たぶん違うと思うけど。
「ぐるるぅぅ…」
中庭に入ると途端にお姉さんは動きを止める。
彼女も白目で口を開けて涎を垂らしている。
幽霊の正体見たり。
昨夜僕らを追いかけてきた足音の正体だ。
こんなモノを僕は怖がっていたのか。
恥ずかしい…
「あの女は襲ってこないね」
「こないですねー」
僕の言葉にオウム返しするマリちゃん。
「あの女を見て確信したわ。
クスリで意識を飛ばして暗示をかけて誰かが操ってるみたいね。
ほら、見てこれ…
…奥に深く入り込んで全然とれない…」
ミサキが突いているのは小さいオッサンの右耳に埋め込まれた魔使石。
黄色い模様が入った黒い石。
なんだ、生首を突いてたのはそういう趣味なのかと思っていた。
大男とセクシー姉さんの耳にも同じものが埋め込まれているのが視認できる。
「どういう魔法のカラクリなんや?」
「さあね、こればっかりはこの魔使石の持ち主に聞かないと」
「つまり、あれか。
あの女が俺達を誘導して、
砦に入れば小男二人が攻撃。
んで、それがやられたら今度は大男って暗示かよ?」
僕の問いにミサキとミルミルが答える。
なるほど。
「その魔使石の持ち主がここのリーダーって事やなー。
誰やねん、それ」
「知らないわよ!」
「強い魔力を出してる人はここにはいませんよ」
干し肉を食べ終えたマリちゃんが会話に混ざる。
「ん、どういう事?
マリちゃん?」
「マリーは殺気と魔力の強さに敏感なんだよ。
魔法で直接操ってないってことだ。
魔使石に何か仕込んだ誰かさんは、
その辺に隠れて高見の見物かよ」
代わりにミルミルが解説してくれた。
「あー、これが取れれば何かわかるのにぃー」
「手ぇ突っ込んで取れやー」
「いやよ!キモチワルイッッ!
アンタがやりなさいよっバカイヌッ!」
「いややーボケー!」
「ダルマちゃん、
ケンカはダメです」
僕を頭から降ろすとマリちゃんは手を伸ばして目の高さに持ち上げる。
「はーい」
「あら、ずいぶんマリーちゃんには素直ね。
ずいぶん飼いならされたみたいねえ」
「うるせー。
僕とマリちゃんは共に…」
「私は飼い主ですから」
えーーーー!?
朝から話してくれたのは”ペットのしつけ”だったのですかー。
”相棒”じゃないんやー。
がっくりうなだれる僕をマリちゃんは不思議そうに眺める。
生気がなく、それでいて奥底の深い左右で色の違う瞳に見つめられると。
彼女の背負う虚空に思い当たり何も言えなくなる。
その言葉は欠けた心から絞り出された、無垢で真実の言葉。
彼女には僕が必要。
そして生きるために僕には彼女が必要。
今はペットでも下僕でも、共存共生の関係には変わりない。
そう僕は納得する事に決めた。
うん、決めてあげる。
ミサキが「えらいえらい」とか言って彼女の頭を撫でていた。
「お前ら!
仲良くお喋りしている場合じゃねえぞ!!」
刺青大男が唸りながらゆっくり近づいてきていた。
鎖を振り回しながら。
「マリー!
お前はヤツの足を止めろ!!」
「はい」
金の腕輪がほどけて棒に変化する。
僕はマリちゃんの小さな肩に乗った。
鎖が投げられる。
僕らのいる方向とは反対のほうへ。
逃げようと横向きに駆け出したミサキがそれを見て足を止めた。
「ははっ!
クスリをキメすぎてマトモに戦えなくなったみたいね!」
「いや…」
鎖の先端のフォークが積まれた丸太に刺さると。
巨大な丸太が空中に浮かぶ。
「元は木こりだったのかもな。
鎖じゃなくて木を操る魔法だ」
ミルミルの解説を聞く余裕もなくミサキは走って逃げていく。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「つまらねえ!○ね!」
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