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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
13/50

13話 フリーフォール!

 ひとしきり暴れると疲れて鬱になってきた。

 少女は僕をじっとみている。

 その無表情な顔は人間だった時の僕よりずっと大人びて見えた。


「うぐ…ひっく…ひぐっ…

 失った心は取り戻せても…

 壊れたモノは直せないんだよぉ」


挿絵(By みてみん)


 マリちゃんは僕をそっと優しく抱き上げた。


「大丈夫、大丈夫」


 背中をやさしくポンポンと叩かれる。

 これあれだ。

 ミルクを飲ませた赤ちゃんにげっぷをさせるやつやん。


「…うううー…大丈夫じゃないよぅー…」


 鼻水を垂らして泣き言を言いながらも。

 僕はもうどうでもいい気がしてきた。

 人間だった時に見失ったモノを”ダルマ”として見つけていけばいいと。

 マリちゃんの温もりがそう語りかけている気がした。


「あーはいはい。

 イヌの安っぽい感動劇場は終わった?

 アンタは人間だった時も相当クズだったのね。

 グズグズしてないで先に行くわよ」


 そうメンドくさそうに話すミサキを蹴飛ばしたい。

 僕の隠していたかった衝撃の過去話を三文芝居で片付けやがって。


「…マリーが俺意外と会話している…

 しかも俺にはわからねえ話を…」

「なに地味にショック受けてるのよミルミル。

 …あたっ!」


 ミサキの頭をはたくと、ミルミルがマリちゃんの肩を抱き一緒に歩く。


「なあ、マリー。

 ペットならいくらでも飼ってやるから。

 そいつ、ダルマは放っておいたらどうだ」

「ダメです。

 ダルマちゃんがいいんです」

「なあ、ミルミル」


 僕は涙と鼻水を前足で拭きながら声をかける。


「僕がいたお蔭で心が少し戻ったんだ。

 そう邪険にすんなや!」

「だからイヤなんだよ!」

「何が?」

「心が無いほうがマリーは俺の言う通りに思い切って戦えるんだ」


 驚いた。

 この女戦士はエゴいな。


「マリちゃんはお前の道具じゃないぞ!」

「さいてーね、ミルミルって。

 …あいたっ!」


 ミルミルはとりあえずミサキの頭をはたく。


「お互い生き残るためだろ!

 もしお花を愛でる心なんてクソみたな心が戻ってもな、邪魔なだけだっ

 …ああっ!

 なんで俺、このイヌを引きとめたんだろ。

 あのままどっか行って野垂れ死ねばよかったのに!」


 ミルミルはマリちゃんの頭を軽く抱きしめると不機嫌な足取りで先頭へ行く。


「待って、ミルミル!」

「なんだ?

 また頭をはたかれたいか!?」


 荒々しく振り向くミルミルと下がって距離をおくミサト。


「なんで砦に入ろうとしてんのよ?

 こんな不気味なトコ、迂回すればいいじゃない」

「バカ言え。

 後ろのヤツが一晩かけて俺たちをここまで追い立てたんだ。

 迂回なんかできるワケないだろ」

「じゃ、なに?

 みんなで敵のワナにハマりましょうって?」

「ご招待してくださったワケだ。

 ご対面といこうぜ、

 山賊共を上手く組織化させてるヤツとよ。

 スゲー頭のキレるヤツだぜ」

「…もしかして。

 その為に私達をここまで連れてきたの?」

「他にルートがあったか?」


 ミルミルは大げさに両手を振ると城壁を超えて砦の中へ入って行く。


「バカじゃないの」


 マリちゃんの後から毒づきながらミサトが城壁を超える。


 土壁の城壁の中には、4つの円筒状の粗末なレンガ造りの建物と玄関口を適当に固めた崩れかけた建造物があった。

 城と呼ぶにはあまりにも小さく、確かに砦だといわれたらそうかもしれない。

 どちらにしろ今ではただの廃墟だ。


 あちこちにゴミと焚火の跡が散在して、砦の側には丸太が雑然と積まれている。


 その中庭に敵が3人待ち構えていた。


 辮髪で体格が大きく筋肉大盛りで格闘ゲームに出てきそうな大男。

 身体が小さく痩せていて猫背、ゴブリンを連想させるオッサンが2人。

 大男は破れた黒いズボンに裸足、小さいのは頭と腰に赤い布を巻いている。

 3人とも体中に赤と黒の刺青が施されている。


「これが頭のキレる山賊のボスなのか?」


 僕はマリちゃんの肩の上からミルミルに聞く。


「あれぇぇ?」


 誰も僕の質問には答えられない。

 僕自身、どう考えても答えなんてでない。


 なにせ敵は全員白目を剥いて涎を垂らし、ゾンビみたいに徘徊してるのだから。

 コイツらはおとりで回りから伏兵が。

 …出てくる様子はない。


「賊はコイツらだけなんか?」

「他にいる気配は無いな」


 ミルミルの察知能力が確かなら。

 賊の手下どもはみんな僕らの捜索に駆り出されたようだ。


「アレはクスリでおかしくなってる顔ね。

 アレでどうやって賊をまとめるのかしらねー、ミルミル?」


 ミサキがからかい気味にそう言うとミルミルは眉をしかめた。


「チッ。

 おいオッサンども!

 ふざけてんじゃねーぞっ」


 ミルミルが怒鳴ると。

 一番先に素早く反応したのは赤布ゴブリンオッサンの一人。

 腰に下げたロープを投げてミサト・マリちゃん・ミルミルの順で手と腰を数珠つなぎにする。


「ゲヘッゲヘヘヘヘッ!」


 目がイッちゃったままロープを操る魔法のゴブリンが笑う。


「なんだよこれ。

 ジャンキーの大道芸か!?

 マリー!気を付けろっっ!!」


 もう一人の赤布ゴブリンオッサンが大きな麻袋でマリちゃんに襲いかかろうとする。

 マリちゃんは金の腕輪を変形させ、僕は飛び降りようとしたが。


 間に合わなかった!


 僕らは暗い袋の中にすっぽり入り。


「はぅ」


 足元で袋の口が閉じられてマリちゃんが転ぶ。

 マリちゃんが尻餅をつくまで1メートル程の落下はコンマ数秒。

 のハズだが。


 落下が止まらない!?


 真っ暗な麻袋の中でどこまでも続く落下のGがかかる恐怖!!


 金色の閃光が走ると麻袋はクズとなって空へ舞い上がる。

 目の前には薄曇りの空が広がる。


 そこは上空数百メートル。

 僕達はずっと落下運動を続けている。


「んぎゃあああああっっ!!

 なんじゃこりゃああああああああっっっ!!!」

「袋を瞬間移動させる魔法に巻き込まれました」

「魔法は人に直接かけられないんやないのー?」

「はい、魔法は袋だけにかけられました。

 だから中に閉じ込められた私たちも移動したのです」


 わー落ち着いてるねー。

 スカートをまくりあげられる事も無く頭を下にしてマリちゃんが上品に落ちている。

 肩にしがみ付く僕をしっかり抱きしめて。


 恐怖する心が無いとこうも落ちつていられるのか。

 心が無い方が戦える、というミルミルの考えがわかる気がした。

 マリちゃんの冷静な顔を見てるとこっちまで落ち着いて…いられるかーい!

 十秒後ぐらいには地表で挽き肉になるっちゅーねんっっ!


「うひぃぃぃぃっっ、マリちゃーん!」

「なんですか?」

「その金の武器はどんな形にもできるのーっ?」

「はい、そうです。

 操金術って言うそうです」


 操金術。

 刀や槍、腕輪と自在に変形させれるから。

 そのまんまやねー、と関心してる場合じゃない!


「じゃじゃあっ

 パラシュートに変形させてぇぇぇっ!」

「”ぱらしゅーと”ってなんですか?」


 あーはっはっは!

 僕のドジー!

 剣と魔法の世界でパラシュートがあるわけねーわな!

 今からパラシュートについて説明するヒマなんてないし。


「かさ、傘ならわかる?」

「うん」

「じゃあ金の傘を広げてっ!

 棒を手放さないように身体に巻きつけてね!」

「はいっ」


 ボッ、と音がして金色の円が広がると、頭から落ちていた体勢が逆になる。


 これで安心。

 か?


 落下速度は格段に落ちた。

 でもこのスピードで地上に無事に立てるとは思えない。


「マリちゃん、もっと傘を広げて!」


 見上げると子供用より小さな金色の傘が開いている。

 中棒は途中から金のツタを巻きつけたマリちゃんの右手になっている。


「風さんの力が強くてこれ以上広げると傘の強度が保てません」

「強度って…金の硬さは魔法で変えられるの?

 柔らかくも出来る?」

「はい。

 軟らかくしますか?」

「あー…」


 再び金の傘を見上げる。

 傘地部分だけを軟らかくして袋状にしたらパラシュートになるか?

 それには綿密な計算と各部位の繊細な強度の指示が…

 専門家でもないし中卒の僕にそんなこと出来るか!


「とりあえず、このままで!」


 あーもう。

 イギリスのメアリーなんとかさんみたいにはいかないな!

 他には”忍法ムササビの術”とか”ウィングスーツ”とかこの数秒で的確に説明できるか?


 …無理。


 あと数秒で地面へ激突!

 落下速度の減速はこれ以上無理。

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろおおおお!


 減速は出来てるんだから要は着地の衝撃を減らせばいい。

 なんて単純な答え!


「マリちゃん、エアマット!」

「えあまっと?」


 あははっはははあああ!!

 またしても失敗。

 仮にマリちゃんが同じ日本で生まれ育った10歳の少女だとしても、「救助用のエアマットを出して」って言っても通じるか怪しい。

 そもそもこの世界に「マット」の概念があるかどうかすら怪しい。

 ”パラシュート”にしろ”マット”にしろ、見た事無い物を想像して作れと言われたら誰でも困るだろう。


 ”ふとん”でいけるだろうか!?

 …マリちゃんのことだから素直に薄い金の布団を作るだろう。

 ”空気入りのふとん”でいけるだろうか?

 「着地の衝撃を吸収する空気入りのふとんを金の棒で作って」??

 そんな説明でこのコはどこまで理解できるだろうか。


 ああああああああっっ!

 こうしてる間にも地面が迫ってくるぅ!!

 少し落下位置がずれていれば森に落ちたのに。

 マンガや映画なら大体それで助かるじゃん。

 「アイタタタ」とかいいながら木にぶら下がってるパターン。


 残念ながら真っ直ぐ砦の中庭に向かって落下してる。

 いまから金の傘を動かしたら森の方へ位置をずらせるか。

 でもどう動かせばどうずれるんだよ!?

 えーっと、えーっとぉ???

「面白かった!」


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