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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
12/50

12話 後を追う亡霊

「ふん、

 上の兄弟たちはもっと性格が悪いわよ」


 そう吐き捨てるミサキは深いグリーンが基調の地味なドレスを着ている。

 地味、と言っても昼間のドレスと比べたらの話だ。

 絹織りで所々に金の刺繍が入っている。

 髪も派手な髪飾りから、服とお揃いの小さなギャリソンキャップのような帽子を被っている。


 ミルミルとマリちゃんは昼間のボロの服装に戻った。

 マリちゃんの生成り色の服に血の染みが残っている。

 寝る時に下ろしていたマリさんの髪は、ポニーテールに戻っている。

 僕を胸に抱く少女の服はまだ湿っていた。

 寒さからか少し震えながらも、じっと皆の会話を聞いている。

 健気で儚げだ。


「マリちゃん、大丈夫?」


 そう尋ねると、


「大丈夫です、ダルマちゃん」


 優しく頭を撫でてくれた。

 無表情なのは変わらないが、言葉に優しさが感じられる。

 これは少し心を取り戻した所以なのか。


「ほら行くぞ。

 反対側に出れば、奴らの裏をかけるかもしれん」

「裏をかけなかったらどうすんの?」

「潔く死ね」


 僕の問いにうすら笑いを浮かべてミルミルは短く答える。


「そんな無責任な!」


 ミサキが不満の声をあげると、


「うるせぇ、俺達は自由な傭兵業なんだよ。

 金の無い奴を守る言われはねえ」

「じゃあ、はい」


 どこから出したのか、ミサキの手には金が擦れあう音が響く革の小袋が握られていた。

 ミルミルはそれを受け取ると中を覗き込む。


「お前、これ…」

「父は兄弟たちよりもっと性格が悪いわよ」

「いくらなんでも親の金をぬすむのはなぁ」

「私は父親の下で何年もタダ働きさせられてたの。

 報酬をもらって何が悪いのよ!」


 渋い顔をしながらもミルミルは革袋を腰に結ぶ。


「俺達は親も知らないし苗字も無ぇ。

 お前は苗字あんだろ」

「なっ何よ、いきなり」

「商家でこれだけの金貨をホイホイだせる身だ。

 ユーエン城国の名家じゃねえかと思っただけだ」


 「あー…」


 ミサキが手首の赤い石の腕輪をいじくっている。

 金目のモノはちゃんと持ってきたらしい。


「ガーネット、そうミサキ=ガーネット、よ」

「はっ、そうかよ。

 ほらいくぞ、ガーネットさんよ」


 その態度で、ミルミルが赤い石の名前を知っていた事を知る。

 あくまで本名を明かすつもりはないと悟ったようだ。


「ダッサい名前だな」


 僕の口は正直じゃない時以外は正直だ。


「マリちゃん、そのイヌを貸してくださらない?

 踏み潰すから」


 ミサキが殺意のある笑顔でそう言った時。


 ザザザザーガリガリガリ…


 明らかに不自然な石や砂が混ざり合う音が僕らを取り囲む。


「ひぃぃぃっっ」

「なに? なに? なに!?」


 僕とミサキが狼狽えている間にミルミルが剣を構える。


「姿が見えん。

 マリー、何人ぐらいいるか殺気でわかるか?」

「うーん…

 わからないです」


 ザッザッザッザンザンザン…


 僕達の周りを荒々しく足踏みするが取り囲む。


 マリちゃんが金の棒を手にする。


「こんな所に殺気を殺して近づく手練れが大勢いるとは思えんな」

「襲ってくる様子もない?

 …みたい」

「よくわからんな。

 とりあえず先に進め。

 マリーが先頭で俺が後ろだ」

「うん」


 マリちゃんは金の棒を腕輪に変形させて収めて歩き出す。

 その後ろをミサキが肩をすくめて続く。


 僕たちが歩き出すとピタリと音が止む。


 しばらく山道を登って行くとまた足音が追いかけてくる。

 それの繰り返し。


 うーやめてやめて。

 グロ画像とかは平気だけど怪談は苦手やねんて!

 昔の低予算映画でほぼ音だけでビビらせるホラー映画を思い出す。


「ダルマちゃん、大丈夫?」


 僕は体中の毛を総毛立たせてブルブル震えてた。

 尻尾が立って膨らんでいる。


「ま、マリちゃんも震えてるよ」

「私は寒いです」

「ミサキ、上着とか無いか?

 あるならマリーに着せてやってくれ」

「待って。

 雨除けのコートがあるわ」


 ミサキがカバンからコートを出す間、歩みを止めた。

 するとまた姿なき追跡者が音を出す。


 マジで不気味だ。

 今度シャンプーする時、後ろ振り返らなあかんやん。

 夜中に一人でトイレ行けないようになるやん!

 

 ミルミルが来た道を引き換えし歩いた。

 足音が止む。


 ミルミルが脛当てに手を突っ込んで何かを取り出すと投げた。

 左側の太い木に短刀が刺さる。

 あれ、今右側に投げるフォームだったのは気のせいか?


「その木に誰かいたの?」


 マリちゃんの肩に白いコートをかけながらミサキが緊張した声で聞く。


「ああ、うん…

 いや、まあ……」

「ミルミルちゃんは投げナイフがすごく下手なんです」


 僕とミサキは大爆笑。


「今、確かに右に投げようとしたよな!」

「見た見た!

 あれでどうやって左に飛ぶのよ!

 あははは面白いわーミルミルちゃん!

 …痛い痛いっ」


 戻ってきたミルミルがミサキの顔面にアイアンクローをかけた。


「ミルミルって呼んでいいのはマリーだけだ!

 レイズと呼べって言ったろ」


 ミサキがミルミルの手を振り払う。


「ちょっと!

 雇い主の頭を潰す気かしらっ!?」

「今度ミルミルって呼んだら本気で潰す!」

「でもカワイイ愛称よね」

「そうそう、可愛くていいと思うぞミルミル」


 出会ってから初めてミサキと意見が合う。


「うるせーよ、軟弱イヌ!

 ほら早く先に進むぞ」


 僕らは足音に追いかけられながら夜が明けるまで山道を登り続けた。



 朝靄の先に土壁が見えてきた。

 所々崩落してるが城壁に見える。


 暗い山道で長時間足音に追いかけられ恐怖心で発狂しそうだった。

 身体の震えが止まらない。

 救いはマリちゃんに抱かれていたのと白んできた東の空。


「あちゃー、ここに来ちゃったかー」 


 ミサキが頭を抱えた。

 その反応にミルミルが声をかける。


「なんだよ、ありゃ」

「古い砦跡でね、ユーエンではこの砦跡は祟りがあるとか

 女のうめき声が聞こえるとか幽霊を見たとかって噂があって

 誰も近づかないのよね…」

「そういう事は先に言えや!

 大体なんでお前は曰く付きの山に入ったんだよ!」

「誰にも知られず、

 誰の目にも止まらず街を出たかったのよっ!

 悪い!?」

「悪いっつーかアホだろ!

 人が寄りつかねえ場所には賊が湧くんだよ、考えろ。

 ってかその噂も賊が流したのかもな」


 祟り? 幽霊!?

 冗談じゃねえ!

 僕の恐怖心はMAXに膨れ上がり、心の器からあふれ出していた。

 いやだいやだっ!

 もうこんなトコロはゴメンだ!


 マリちゃんの胸の中から飛び降りて走りだす。


「おい、どこに行くイヌ!?」


 ミルミルに声をかけられて振り返る。


「もー無理だし!

 曰く付きの山に召喚させられて祟られた砦とか無理無理っ!

 お前らと一緒にいたら恐ろしい事ばかり起きるやんけっ。

 それに一緒にいる意味も理由もないやろがぁぁぁっ。

 いつも僕をバカイヌだのクソイヌだの見下しやがってぇぇぇっ!

 お前らなんか大っキライだっ。

 僕は一人で生きていくっっ」

「まぁ、いいけどな。

 飯はどうする?

 戦闘経験が無さそうなお前に狩りが出来るのか?

 寝床はどうする?

 熊に見つかりゃ一口でペロリだぜ」


 う。

 夜はどうしよう。

 熊が恐ろしいとかよりも、孤独に森で夜を過ごす恐怖感の方が勝る。


 一瞬の迷いの間に。

 僕は干物をかじるマリちゃんの金の伸びた棒に捕まっていた。

 瞬時に僕の身体はマリちゃんの元へ。

 マリちゃんは僕の身体をつかみ眼の高さまで持ち上げる。


 左右で色が違う少女の目。

 生気がなく、どこまでも透き通っていて清く深い瞳。

 その瞳は何も見ていないようでいて。

 見えない何かも見ているような気がした。


 そこに僕の姿が映る。

 その瞳の中に人間の頃の僕を見た。


「ダルマちゃんは私と一緒にいるのです」

「なんで…なんでなんで!?

 僕は他人が嫌いだし一緒にいるのはキライなんや!

 もう放っておいてよぉぉっっ。

 この世界にだってもっと可愛いイヌがいるだろ?

 可愛がるならそっちでいいやん!」


 マリちゃんが瞬きをする。


「私とダルマちゃんは同じなのです。

 私は心を失っています。

 ダルマちゃんは心が壊れています」

「うわああああああああああっっっ

 何がや!

 なにがわかるんやあっ

 子供に僕が、

 心の無い子供に僕の何がわかんねん!」


 僕は号泣して少女の手の中で暴れる。

 爪を出さなかったのは僕の最後の理性。


「壊れていてもわずかに光が、

 ダルマちゃんには残っています」

「インチキ占い師みたいな事言うなやあああっ

 違う、同じじゃない同じじゃない同じじゃないっ!

 壊れた心は元に戻らないんだよぉぉぉぉっっっ!!

 僕はここに来る前に何の関係も無い無実の人を殺そうと考えたんだ!

 そうすれば自分は楽になれるって。

 僕はゴミみたいな人間なんだよおおおおおおおおおおっ」

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