11話 シルト
……。
僕は宙を飛んでいた。
ああ、これは夢の続きを見ているのだ…
「痛いっ!」
身体に大きな何かがぶち当たって夢から覚める。
ぶつかったモノがテントを支える支柱から延びる梁と気付いた時、重力が身体をひっぱる。
必死で梁にしがみ付いて落下を防いだ。
僕は考える。
まだ僕に怒りを抱く、性悪根性のミサキが寝てる僕を放り投げたと。
そうだ、あの女を引っ掻こうと思っていて忘れていた。
つまり先制攻撃を喰らわされたわけだ、クソッ!
だが状況がおかしい。
周りが金色の光が溢れて、眩しすぎて目が開けられない。
それでも光に目を馴染ませながら少しだけ目を開く。
梁にしがみ付きながら光源の方向を覗くと。
マリちゃんがマジックでよく見る空中浮遊をしながら寝ていた。
ベッドから僕の身長分ぐらい浮いている。
急いでテントの中にマジシャンを探しても…見つからない。
よく見るマジックと違う点がもう一つある。
マリちゃんの胸の前に金色に輝く五角形の板が浮いている。
そこから金の鎖が四方に伸びて少女の身体に巻き付いている。
「…!?」
よく解らない状況だが、これはマリさんのピンチでは?
「やっぱり現れたか、”シルト”」
呑気な声が聞こえた。
下には床に胡坐をかいて座るミルミルがいる。
「お前はアレが何か知っているのか?
ミルミル」
そう尋ねながらちょうどいい高さにあるミルミルの頭の上に降りた。
回答の代わりに僕を叩き落とそうとする手が飛んでくる。
僕はそれを華麗にかわす。
「このボケが、頭の上に乗りやがって!
あとその呼び方を止めろっ!
イヌがっっ」
ミルミルが勢いよく立ち上がったので僕はバランスを崩す。
その隙を付いて僕の首根っこを掴む。
彼女の伸ばした手の先で、仔猫のように吊り下げられる。
「ネコちゃうぞー、降ろせやー!
引っ掻くぞ、ごらあああああああっ」
「うるせー!
さっきはにゃーにゃー鳴いてただろう変態イヌが!
見ろ、あの”シルト”を」
抵抗するもなす術もなく、その言葉に従うしかなかった。
空中浮遊をしながら眠るマリちゃんの胸にある、輝く金の五角形の物体を見る。
表面に簡素なレリーフが施されているのが見える。
あれは…。
僕だ!
シンボライズされた僕の姿だった。
次の瞬間、鼓膜を震わす高音と共に金色の物体は全て砕かれ、光の粒子となってマリちゃんの胸の中に吸収されていく。
辺りが暗くなるとぽすん、と優しい音をたてて少女の身体がベッドに落ちる。
「…結局どういう事だ?」
「認めたくないけどな、
お前の存在がマリーの心を取り戻したんだよ!
このやろう!!」
「いや、わからん」
「俺もはっきりはわからん。
だが何かをキッカケにして”シルト”を起して、
マリーは少しずつ心を取り戻すらしい」
「その度に今のような金ピカマジックショーをするの?」
「そうだ、最初は……」
僕をベッドに放り投げると、
「わぷっ」
ミルミルはテントとベッドの間に腕を入れて何かを掴み上げる。
「なに?
何がどうしたのよ!?」
光が無くなり真っ暗で解りにくいが、錯乱するミサキが吊れたようだ。
「俺もこうして吹っ飛ばされたんだよ!
シルトの1度目でマリーは歩けるようになって
2度目で話が出来るようになって
今度で3度目だ」
大笑いするミルミルに先に教えろ、とか意地が悪いとか抗議するミサキ。
騒ぐ2人の間で何事もなく寝るマリちゃん。
「すごいな。
全然起きないよ」
「このちびっ子は一度寝るとなかなか起きないぜ」
その言葉に反してムクリと起き上がるマリちゃん。
「誰かが来ます」
「起きてるやん」
「コイツは他人の殺気に強く反応するんだよっ。
静かにしろ、喋るな!」
テントの外に2つの静かな足音。
鎧や武器がこすれ合う音が混ざる。
足音が止まる。
マリちゃん以外の皆が固唾を飲む。
ミルミルは闇の中で武器を探っている様子。
誰もが賊の乱入を予測していただろう。
二、三言低い声で言葉を交わすと賊は遠ざかっていった。
「どうなってんだ?」
「テントに気が付かなかったんじゃないかしら」
「んなワケあるかよ!
んあああっ、肉を引きずった跡を消すのを忘れていたっけ。
確実に血の跡がテントの場所を教えてるっての」
「賊のホモカップルが仲間のいない所でキスしてたんちゃうか?」
マリちゃんの足元で顔を寄せ合って会話するミサキとミルミルに混じって僕の見解を披露する。
「ああー、ありえるわねー。
ホモならしょうがないわよねえ」
「だろ!
俺の推理力すごくね?
2人は”アイラブユー”って言い合って去って行ったんだ」
「んなわけあるか!!」
「ぶぶっ」
ミサトに後頭部を鷲掴みされてシーツに力いっぱい顔を押し付けられた。
ボケツッコミとはやるじゃねえか、クソアマ―!
「ホントにコイツの奇策で大猿を倒せたの?
バカみたいな事ばっかり言ってるじゃない」
「まあ子供だましで猿にしか通用しない策だがな。
だが普通にマリーと俺で戦ってたら勝てたかどうかわからんな」
「ぶはぁっっっ」
ミサトの力が弱まったのでシーツから顔を上げる。
大猿を倒した経緯については川からあがって服を着て僕を吊るし上げている時にミサキと共有済み。
「窒息させる気かー、この中途半端な浪花女芸人女王がっ!!」
「”ナニワ”?
こいつホントに何言ってるの、キモチワルイッッ」
この世界に来て僕は日本語は使ってない。
召喚術士仕込みのこの世界の公用語だ。
中途半端に関西弁なのは。
関西生まれの関西育ちなのと。
僕の言葉にはこの世界の西方の訛りがあるらしい。
「うるせー、キモチワルイとか言うな!
その大猿を倒した程の敵を警戒して、
仲間を呼びに行ったと考えるのが自然じゃないのか?」
「それな、そこだ!
そこがオカシイんだよ……
おーっと待て待て待て」
僕らが会話してる間にマリちゃんが横になって寝ようとしていた。
「眠いです」
「わかってるよ。
だがこのテントから今から逃げんだよ。
起きて準備をしろ」
マリちゃんがモソモソとシーツから這い出る。
「で、なにがオカシイんだ?」
話を戻してミルミルに質問する。
「なんつーか賊にしては組織的すぎんだよ!
賊ならテント見つけた時点で大騒ぎするもんだろ」
「ほーん、知らね」
「お前殺すぞ!」
そう言われてもこっちは平和な日本育ちだから賊の生態なんか知らん。
確かに不自然な感じはするが。
「そんな事より!
早く逃げましょうよっ」
3人はそれぞれカバンを背負い山道を登る。
「見ろ、街への道は全て押さえられた」
山を降りずに登るのは何故かと尋ねて、返ってきた答えがそれだった。
山の中腹から望む夜景。
城国の大きな円状の光の集合体。
光の真中には白い奇妙な形の城が明度のグラデーションを織り交ぜてたたずむ。
その手前に広がる山の裾野の闇の中に小さな灯りが瞬いてる。
賊の持つランタンが城国の手前に数か所確認できた。
眼下のテントがある場所が突然明るくなる。
賊達がテントに火を付けたようだ。
「あーあ、テント燃えちゃったわね、
もったいない」
ミサキは意外とあっさりしていた。
この女なら泣いて地団駄を踏みそうなものだが。
「ベッドもタンスも下着もドレスもみーんな姉のモノだから。
燃えればいいのよ…
あーでも売れば少しは財布の足しになったかしら」
歩き出しながら淡々と語る口調から姉妹の仲が悪いのがわかる。
「俺は孤児で家族なんてものは知らないがな、
だが家族のモノ盗むなんてお前、
性格が悪すぎないか?」
小バカにしたような口調だが、ミルミルがまともな事を言ってる。
ミサキが性格悪いのは知ってた。
「ふん、
上の兄弟たちはもっと性格が悪いわよ」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「つまらねえ!○ね!」
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